2 プロローグ②
マスターという名前が定着しますが気にしないでください。
その内変わるかもしれません。
彼女、エミルは普通の家庭で育った。
貧乏でも、身分が高い訳でもない、普通の家庭だ。
だが、不可解な点も幾つかあった。
エミルには姉がいるが全く似ていないし、それは両親もだった。
髪の色、目の色、顔、全てが家族とは違う。
でも、家族はそれに触れないし、エミルもそういうもんだ、と気にしなかった。
家庭は笑顔が絶えず、皆が幸せだった。
しかし、幸せな日常はすぐさま崩れ落ちる。
エミルたちの住んでいる場所を治める領主が、エミルを買うと申し出たのだ。
顔がよければ人が集まる、人が集まれば有名に、そして領主にも知られてしまったのだ。
しかもその領主は好色で有名で、今まで何十人も妻に娶っている。
ただそれだけではなく、娶られた女性とは一切の連絡がなく、あった人はいないという噂もある。
エミルの家族は当然反対した。
反対したから家族は殺された。
エミルの目の前で。
姉は「生きて」と言い残して。
なぜ、姉はそう言ったのか。
それはエミルにも分からないが、生きなければいけない気がした。
だから、生きて、地獄を見た。
まず、領主の屋敷へ行き、首輪と腕輪をつけられた。
無理に外そうとすると爆発するといわれて、エミルは黙って従うしかなかった。
屋敷の奥へ進むと、次第に人は少なくなり、そして、地下へと続く階段に着いた。
だがそれは、地下ではなく地獄への階段だった。
地下にはいくつもの檻があった。
その中には、エミルと同じ、首輪と腕輪のつけられた女性が沢山いた。
その全員が、うつろな目で、とても清潔とは言えない状態だった。
エミルも、自分もこんな風になるのかと恐怖したが、それは違った。
地下は広く、一番奥にある豪華な部屋へエミルは案内された。
そこは屋敷の豪華な装飾があり、寝床も食事も、すべてが貴族の生活と変わらぬ水準だった。
なぜこんなにも待遇がいいのか。
それはエミルの美貌に尽きる。
エミルは世界でもトップクラスの容姿を持っていた。
それは、領主が自分と同じ生活をさせるほど惚れ込むレベルだ。
領主は、最初は見て鑑賞するだけだったが、だんだんと夜伽、身の回りの世話と自身の近くに置くようになった。
そしてついには、外に連れ出すようになった。
領主も、わかっていたのだろう。
こんな美少女を誰も放っておかないと。
たくさんの領主に目を付けられたせいで、エミルを外に出すことはなくなった。
その頃から領主は変わり始めた。
エミルに暴力を振るうようになった。
傷は高価な薬や魔法などで無理やり直し、エミルに対しての独占欲が強くなった。
領主はエミルを自分以外に会わせないようにした。
だが、王命が来た。
領主は「なんで………エミルが」と言った時の目は、狂っていた。
どんな王命が来たかは分からない。
ただ、エミル関係だったのは確かだろう。
その日領主は、エミルに毒を盛った。
エミルが覚えているのは、ここまでである。
話を終えたエミルの目は憎悪に燃えていた。
だってそうだろう。
家族を殺され、領主に好き放題にされたのだから。
(にしても、不可解な点がいくつもある。家族のこと。あまりエミルは気にしてはいなかったが。それに王命だ。なんでここで王家がかかわってくる。どこの国かは知らんが)
考えるのはめんどくさい。
邪魔であれば潰せばいい。
そしてそれを楽しまばいい。
それが男の、マスターの生き方なのだから。
「復讐………したいか」
エミルはピクッと反応し、そして力ずよくうなずいた。
「ならば手を貸そう、暇が潰せそうだ」
エミルは、復讐を。
マスターは娯楽を。
少女が男の手を取ったとき、二人の長く壮大で爽快な旅が始まった。
「お母さん、お父さん、お姉ちゃん、待っててね」
「楽しそうだ、潰すか」