1 プロローグ①
不定期投稿です。
その昔、最強と言われた男がいた。
当時無敗だった彼は、数々の伝説を残し、失踪した。
世間では死んだといわれているが、それは違う。
実際は、自然に囲まれて自堕落な生活を送っていた。
◇◆◇
雄大な自然に囲まれた家が一つ。
レンガ造りのオーソドックスな家である。
中には必要最低限の家具と、怪しげなオーラを放つ部屋だけだ。
家の中央にロッキングチェアに座る男が一人。
黒髪に青い瞳のいたって普通の少年である。
だが、実はこの覇気のない少年こそ、その昔最強と言われた男なのである。
そして、何も考えていないような顔で一言。
「………暇だ」
暇、そう、暇である。
この男、失踪した後は錬金術など色々なものに手を染めていた。
不老不死になったり、若返ったり。
人体錬成もしてみたりした(錬成した人は庭に埋めた)。
だが、この男は遊びつくしてしまったのである。
後は禁術でここら一帯を破壊しつくしかないのだ。
もう、この時点で思考がやられてしまっているが。
「少し歩くか」
手元に精製した水を飲みながら家を出る。
少し歩くと、滝が見えてきた。
何度も見慣れたこの滝、いつもと違う点は死体が流れていることだけだ。
「ん? 死体?」
人を見るのも久々なのに、死体とは………。
とりあえず持って帰って実験するか。
思考が人のそれとは違っているが悪しからず。
家に帰ってまずは観察だ。
全裸で性別は女。
死後数日は経っている。
追い剥ぎというには傷が少ない。
じっくりと見てみると、体に毒が回っている。
(死因は毒か。身体も変色しているし間違いないだろう)
さて、男は考えに考えて、生き返らせることにした。
そのための準備に必要なものを用意。
身体を浄化して毒を消し、生き返らせる陣を身体に刻み、あとは唱えるだけ。
「死者蘇生」
簡単そうにやっているが、世界でこの男にしか出来ないだろう禁術だ。
そうこうしているうちに、少女の死体が光り出し、肌の血色などが元に戻っていく。
「う、ん? ここは………」
少女は目が覚めるとあたりを見渡し、男と目が合う。
男は、顔立ちが整っている、世間では美人な部類に入るのだろう、と呑気なことを考えている。
「あ、あの………」
「ん? どうしたんだ?」
「ここは、どこでしょうか?」
「俺の楽園だ!」
「???」
話が通じない、と少女は戸惑うが、安心してくれ、男はちょっと頭がおかしいだけである。
数秒見つめあい、少女は自分が裸だと気づいたのか、バッと手で局部を隠す。
すると男は部屋にある箪笥から服を取り出し、少女に渡す。
「すまんな、男物しかないんだ」
そう言いながらロッキングチェアを後ろに向けて座り、揺らし始める。
この男は気が利くらしい。
少女が着替え終わると、また二人は見つめあう。
改めて見ると、綺麗だ、と男は思う。
透き通った白い肌に整った顔立ち。
白い髪に赤い瞳の可憐な美少女である。
「名前は?」
「エミル、です」
「エミルか、良い名前だ」
ずっと聞きたそうにしているので、男はここに至るまでの経緯をざっくりと話した。
当然、エミルは信じれない様子だった。
「あなたは?」
「俺か、俺は………」
そこでピタリと止まる男。
この男、錬金術の代償に名前を捨てた過去があるのだ。
だが男は名前なんて気にしない。
「俺の名前は忘れた。まあ、強いお兄さんだ。好きに読んでくれて構わない」
「なら、敬意を込めて主君と」
「それいいな。じゃ、お前の話を聞かせてくれ」