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4話








 さっきまで優位だった立場は一転、同等かそれ以下に成り下がった私は、しょんぼりと床に座った。三角座りをし、杖を抱き込む。


「…………私の部屋の隅で不気味な置物にならないでほしいんだが」

「…………お気になさらず」

「…………無理だろう」


 まあそうだろうなと思うので、しぶしぶ立ち上がる。ぎゅっと杖を握りしめて胸元に抱いたまま、座ったままのリアンをそぉっと見つめてみた。崩れた本の山がなくなっている。どうやらこの隙に見えない場所へ片付けたようだ。なかなか仕事の出来る人だ。


「あー……その、だな」

「……何でしょう」

「シルフォンはあまり魔女の渡りがない国でな」

「……存じ上げております」


 落ち込みを隠せない私に、リアンは今まで私が彼へと心の中で向けていた瞳を向けていた。その感情はきっと、こいつなんか可哀想だな……であろう。

 哀れみを誘う顔をしていることは分かっている。だが、独り立ち二日目で掟違反をぶちかました自分の残念さに落ち込むことで忙しく、取り繕う余裕がないのだ。気にしないでほしい。


「そうか……そういうわけで私は魔女についてほとんど知らないんだが、その……結局魔女とは、どういう性格をしているんだ?」


 かなり言葉を選んでくれていると分かる物言いだった。ふんぞり返っていった態度は消え失せ、背筋はちょっと丸みを帯び、両手を前で組んでいるから肩幅もちょっと狭まっている。威圧感は皆無だ。それどころか、まるで泣き出す寸前の子どもを宥めるために、少しでも威圧感をなくそうとしているようにさえ見える。魔女相手にいい人だ。

 私は観念して溜息を吐いた。


「人それぞれです、殿下」

「人それぞれ……」

「殿下とて、他の王子の皆様と同じ性格でしょうか。王子という立場におられる方々は、皆同じ性格となるのでしょうか」

「……成程、そういう普通の考え方を当てはめて大丈夫なんだな? 何かこう……特殊な考え方をしなくていいと判断して構わないのか?」

「特殊といえば特殊なこともあると思うのですが……あの、殿下。殿下の厄介な解呪を引き受けた縁と申しますか、それへの温情と申しますか……お願いがあるんですが」


 そぉっとそぉっと聞いてみれば、リアンは不審げに眉を寄せた。だが、こっちにも引けない事情がある。私は必死に身を乗り出した。勢いがつきすぎて帽子が傾き、つばで前が見えなくなる。慌てて直し、もう一度身を乗り出す。


「私と友達になってくださいっ!」

「……………………は?」


 綺麗な人はぽかんとしても綺麗だなぁと当たり前のことを考える。だが今はそれどころではない。これからの交渉の結果に、私の将来がかかっている。


「魔女には魔女の掟がございます。魔女が皆あのような口調や態度を取るのはそれが掟なのです。人間で言う目上の者には敬語を使う、服装規定、などそういった類いの一般常識とお考え頂ければ。それでですね、私は殿下の前でその態度を崩してしまった訳なんです。これは私が未熟なゆえなのですが、どうにも興味が引かれるものが前にあると集中と意識を持っていかれる魔女の性質が濃いらしく……ですが、このままですと私は掟破りで罰を受けなければならないんです」

「罰?」

「はい……ですが私、正直言うと罰を受けたくないので、ここは裏道を取らせて頂きたく……」


 魔女には魔女の掟。掟破りにはそれなりの罰がある。そうでなければ気まぐれな魔女が掟など守るものか。掟や規則は理由があるから存在するのだ。そして罰とは嫌なものでなければならない。そうでなければ罰にならないからだ。

 だが、そこはやっぱり魔女。掟破りの罰を回避する方法として、皆あちこち裏道を作ったり見つけたりしていた。


「この掟、親しい者の前では適用されないのです。正確には、他者の前であろうと、親しい者へ向けての言動ならば許されます」

「親しい者?」

「はい。家族や友達、恋人や夫婦などですね。友達でなくとも、長い付き合いなどでも適用される場合がございます。親しい者の間で、いつまでも堅苦しい演技などしたくはないですし、できないでしょう。まあ、そうは言っても演技などしなくても掟通りの性格の者は多々おります。そもそも、そういう性格の者が多かったのでそれに統一しようとなったわけでして。ですが私はそうではなく……罰も嫌だ!」


 わっと嘆き、抱えている杖に額を押しつける。身体の一部である杖は、どんなに強く額を押しつけても痛みを与えてはこない。

 自分が悪いと分かっている。分かっているが罰は嫌だ。罰が嫌なら掟を守るしかないのだが、破ってしまったものは仕方がない。そう、仕方がない。だって魔女なのだ。魔女は己の失態を大体全部仕方がないで済ます。だって魔女なのだ。罰を受けるのも仕方がないし、罰を受けないよう裏道を探すことも仕方がない。だって魔女なので。



 リアンは腕を組んで深く椅子に座り直した。偉そうには見えないのが不思議なくらい自然な所作だったから、恐らく普段からの癖なのだろう。


「…………お前の掟破り隠しに協力した場合、私に得はあるのか?」

「ご依頼の解呪と別件であろうと、殿下のお困りごとにお力添えくらいなら出来ます。あくまで魔女の掟に反しなければの話ですが」

「成程…………だがそれは、どこまで重きを置ける話だ?」

「どういう意味でしょう?」


 嫌味でも何でもなく、純粋に意味が分からず首を傾げる。髪と帽子が揺れ、滑り落ちてきた髪が変な位置で固定されてしまった。顔のど真ん中に落ちたまま固定されてしまった横髪を耳にかけながら、帽子の位置を調整する。

 リアンはその間律儀に待ってくれていた。この人いい人だなぁとしみじみ思う。師なら、更に大量の髪を前に落としてきて魔法でそのまま固定させた上に要件を喋り続け、その状態で空中に放り出すことくらい難なくやってのける。ちなみに、そんなことをした理由は気が向いたから。だって魔女だもん。


「お前はこの掟隠しにどれほどの労力を割ける。つまりお前は、どれほどの覚悟で私に秘密を隠させようとし、その対価としてどれだけの協力を私に与えることができるかということだ」

「はあ。そうですね。殿下が誰か暗殺したいというならばお助けできるくらいには情熱を傾けられるつもりです。ただし魔女が直に手を下すと魔女の掟に反する場合がございますので、あくまでご協力という形になりますが」

「誰がそこまでやれと言った!? 待て! 掟破りの罰はそれ以上の苦しみをお前に与えるものなのか!? それともお前が魔女だから人殺しなど容易いと、そういうことか!?」

「はあ。そうですね。私まだ子どもを生みたくはないですし、生む場合は相手くらい選びたいです」

「…………………………は?」

「ですから、掟破りの罰は魔女を増やすことです。弟子を取ることでもいいのですが、皆自分が生むよりは弟子のほうが楽なので、魔女が生まれたら親が手放さない以外はすぐに回収されてしまって……争奪戦なんですよねぇ。私は魔女として優秀かと問われれば自信はありませんので、恐らく弟子獲得選には負けます。ですが番人が決めた相手の子どもを生むのもちょっと勇気が出ず……という感じなので、出来れば罰から逃げたいです! 全力で!」


 掟を破る奴に魔女を増やさせていいのか。そんな魔女に育てられた魔女も掟を破るんじゃないのか。呆れたようにそう言ったのは誰だったか。

 確かに! 成程! その場にいた魔女達は目から鱗と驚いた。

 仕方がない。魔女なのだ。


 だが魔女には魔女の掟。どうせ皆、破っている。そしてうまく裏道を擦り抜けられずにとっ捕まったものが罰を受ける。それが共通認識だ。

 仕方がない。だって魔女なのだ。


 流石に破られているのは些細なものだけで、重大な掟違反をやらかせばこんな罰では済まず、魂を徴収されるだろう。

 そのあたりも人間に話していい範囲で説明していく。リアンの顔は、こんな時に言うのもなんだか大変面白かった。疑っているような顔、顎が外れそうな顔、嘘だろお前って顔、嘘って言えよお前って顔。徐々に変化していく顔が面白い。

 王子様がこんなに表情が分かりやすくていいのだろうか。それとも普段はちゃんとしている人がこんな顔をするようなことを私が言っているのかもしれない。

 そのあたりの判断はちょっとつかない。何せ魔女なので。


 リアンはくるくる表情を変える。こんなに表情を変えているのに、いい意味の表情は一つも見つけられなかった。いい意味の表情は一つもないのにこれだけの表情を作れるのか、凄いなぁと思いながら眺めていると、その顔はどんどん下がっていく。最終的に両手で顔を覆ってしまった。金の髪の間にちょっとだけ覗いている旋毛を見下ろす。旋毛ってなんだか押したくなる。押した。


「…………何をする」

「旋毛だなぁと」

「…………だから何だ」

「え? 見たら押したくなりません?」

「や・め・ろ」


 怒られた。魔女同士だったら『あらあらうふふ~』『分かるわ~』となるのに。人間って難しい。おかしいな。何百年も人間と会わない魔女もいるけれど、私は師と一緒に人間の生活圏内で暮らしていたので、買い物でしょちゅう人間の町に下りていた。それなのに、人間の扱いがよく分からない。人間ってこんなに難しかったかなぁと考えていると、旋毛を押していた私の手を振り払ったリアンが顔を上げた。


「…………分かった。流石に私も、女のお前にそんな罰が下されると分かった上で断るのも目覚めが悪い」

「え!? ……殿下、いい人ですね」


 驚いて言えば、同じくらい驚いた顔が返ってきた。


「は?」

「いやだって、私が罰を受けるのはどうせ依頼が終わった後なので殿下には何の支障もないのに、魔女の友人なんて厄介で面倒で禍々しくて恐ろしいもの持たなくてもいいのになぁと」

「待て! 魔女の友人とはそんなに恐ろしいものなのか!? 私の友人の概念とお前達の友人の概念は違うのか!?」


 椅子を蹴倒す勢いで立ち上がった彼に、笑顔を向けたまま一歩下がる。この人よく椅子に足をぶつけるなぁと心配になった。痣が出来ていそうだ。


 杖を抱えながら、にこにこ笑い、机を回ってこようとしている彼とは反対の動きで机を回る。どちらも決して駆けだしてはいない。けれど止まってもいない。じりじり、じりじり、机の回りを回る。まさに一触即発。どちらかが派手な動きをすればすぐに弾けてしまう危うい均衡が、この部屋にはあった。


「待て、落ち着け。私は別に怒ってはいない。そうだ、私達は友達だからな。ところで、魔女の友達の概念を、友達になったばかりの私に教えてはくれないか?」

「………………えへ?」

「……よーし、よしよしよーし、怖くないぞ。怖くないからなー……で、友達の概念は?」


 猫撫で声なのに、目が欠片も笑っていない。こんな声で撫でられた猫は、全身で威嚇して走り去っていくことであろう。その中途半端な位置に浮かせた両手の意味を教えてほしいが、下手に声を出すのも憚られる緊張感が部屋を覆っている。

 ちなみに、大量にあったのにいつの間にか目につく場所から姿を消していた魔女関連の本は、全て机の下に押し込まれていた。仕事は早いが仕事は雑だった。


「答えがないほうが怖い! 堪えられない! 私の精神安定のため早急に正直に言えっ!」

「魔女にとって友達の概念とは『面倒・厄介・危険事に巻き込んでもいっかー』ですっ!」

「貴様ぁああああああああああ!」

「ほら怒ったじゃないですかぁ!」


 部屋の外で息を詰めていたリアンの部下が不敬を覚悟で部屋に飛び込んでくるまで、机の周りをぐるぐる回る私達の追いかけっこは延々と続いた。





 三十分後、私の首には『私は悪い魔女です』の看板がぶら下げられていた。

 何だ、この扱い。


 釈然としない気持ちのまま、さっきは隠した魔女関連の書籍を堂々と読んでるリアンを見た。リアンは自分の椅子に座っているが、私は浮かせた杖に座っている。一緒に身体も浮かせているからお尻も痛くないし、どこでも座れるから魔女は便利だ。


「魔女のことを知りたければ、人間の書いた『推測:魔女!』より『実質:魔女!』な私に聞くべきじゃないでしょうか」

「うるさい。私はもう二度と魔女に情けはかけない。知れば知るほど恐ろしい生き物だ。見ろ、この『魔女が齎した災厄』。ノリタル地方の一集落全焼の大規模火災事件」

「そりゃあ、あんな乾燥した時期に祭りでばんばか花火打ち上げれば飛び火しますよねぇ」

「……ミジュラーデ豪族の結婚式で六十人に及ぶ呪い事件」

「そりゃあ、お家が傾きかけててご馳走に古い材料使ったら腹も壊しますねぇ」

「……オギでの火山噴火事件」

「そりゃあ元々温泉が一杯でる地域ですし、噴火くらいしますねぇ」

「……ツーク山での多数の行方不明者事件」

「そりゃあ、雪山ですから。登山者がいる限り遭難者も増え続けますねぇ」

「…………ジェイナの大規模火災事件」

「あ、それは魔女の仕業ですねぇ」

「……イペルでの連続自殺者事件」

「そりゃあ、当時はどが大量につくほどど不況だった国ですしね。仕事ないお金もない明日もない。絶望くらいしますよ。というか、その事件の後に国自体が破産して滅亡しましたし」


 ぱらぱらとページを捲りながら告げられたのは、歴史上で有名な『魔女が起こした』とされる事件だ。

 悲しいかな、ほとんどが冤罪である。

 十年ほど前に起こした比較的新しいジェイナの事件が入っているにもかかわらず、現在では冤罪と証明されたはずの事件が載っていることから、制作者は『魔女迫害派』のようだ。

 リアンも分かったのだろう。眉を顰めて、これは没塔に『魔女が齎した災厄』を重ねた。存外素直な男である。ちなみに『これ一冊で魔女が分かる!』は、これは有塔に重ねられた。今のところ、これは有塔のほうがやや劣勢である。


 シルフォン国は魔女との繋がりが本当に薄かったのだろう。中途半端に繋がりがあると、恐怖が誇張されすぎて伝わり、実際に魔女による被害を受けた面子でさえも『いや、そこまでじゃあない』と弁明が入る有様になってしまうくらいだ。

 確かに恐ろしい魔女もいるが、ただ厄介なだけの魔女もいるし、関わると疲れるだけの魔女もいれば、関わると痛い目を見る魔女、大損させられる魔女、迷惑をかけられる魔女、そんな魔女もいるのだ!


 力説したら、リアンは座っていた椅子の位置を少しずらした。私とリアンの間に、物理的には少し、精神的には巨大な距離が生まれた気がした。

 しかし、咳払いの後に会話が続いたので、相互理解の努力は続けるらしい。なかなか真面目な人だ。それなのに私のような魔女の友人が出来てしまった。……可哀想。


「しかし、魔女の所為ではないというのなら、どうしてどれも魔女の所為にされるんだ?」


 あまりに酷いとリアンは眉を寄せた。いい人だなぁと、新鮮な思いを抱く。


「そりゃあ、責任者がほしいからですよ。嫌な事があったとき責める相手がいたら楽でしょう? 自分の所為じゃない不幸ほど楽なものはない。だって、ただ嘆いて同情をもらうだけでいい。そしてそれは自分の周辺に火の粉がかからず、絶対多数より少数派のほうが都合がいい。そしてそれが、自分を含めた大多数が理解できない力を持っていたら、もう最高の相手じゃないですか。逆に責める相手のいない不幸ほど虚しいものはない。王とて似たようなものでしょう? 人は不幸になったとき責任の在り処を明確にしてほしい生き物ですから」

「それは、ずるい考え方だろう」


 納得がいかないと憮然とした表情をする彼の素直さは、魔女である私には少し眩しい。魔女に呪われ、王子が王女にという厄介事に巻き込まれた後で、こんな顔でこんなことを言える人間がいたのか。

 これだけで、ここに来た意味があると思えた。

 しかし、魔女である私を、魔女をあまり知らないからとはいえ普通の人として扱えるほど人のいいこの王子、本当に大丈夫なのだろうか。この辺りは戦争もないらしく、戦火の名残は見られなかった。程よく田舎で穏やかな気候、更に王子がこんなに人がよくては心配になる。暗殺されないかな、この人。

 シルフォンの国勢を全く知らないまま来てしまったことが、今になって悔やまれる。後で王家の状態や、国の情勢も含めてちょっと調べておこう。成り行きとはいえ友達になったのだ。困り事があれば多少の手助けくらい吝かではない。




「殿下の場合、魔女が原因とはっきりしているからかもしれませんが、得体の知れない現象はいいこと以外は大体全部魔女の所為にされるものですよ。まあ、魔女の素行が悪いっていうのも多分にあるんですけど。気に食わないなら、殿下はそういう風にならなきゃいいんです。魔女相手に限らず、そんなことに縛られずに相手と付き合えたら、殿下はいい人になれますよ。ただ、いい王になれるかは別問題です。王は罪人になってはならない。罪人の王では国は成り立たない。だから罪を誰かに落とす必要がある」

「それは極論だろう。民の上に立つ以上、民に恥ずべき行為をすべきではない。他者に己が罪を擦り付けるような人間に、王たる資格はない。即刻退位すべきだ」


 瞳も声も、全く揺れていない。彼はきっと、自身が潔癖である自覚などないのだろう。正しい理想を掲げ、またそうあるべきと育てられている。

 リアンの言は正しい。正しすぎる。正しさだけで生きていけるなら誰も泣いたりしない。理想としての正しさはリアンであろうと、生きていく上の正しさは違う。けれど理想は悪ではない。綺麗事も、夢物語も、美しいものは悪ではないし、醜い事実は正義でもない。抱いて生きるなら、どうしようもない人の汚さが蔓延した現実より、優しいもののほうが私は好きだ。


「殿下は青いですねぇ」

「青くて結構。自覚した上での青さだ」

「腐ってるより好きですけどね、私は」


 腐っていたら臭気と毒をまき散らすだけで未来はないが、青はまだ成長が見込まれるし、何より周囲と繋がっている証拠だ。そう言えば、リアンは酷く驚いた顔をした。


「お、前……」

「な、何ですか?」


 驚愕のあまり転がり落ちそうな目で見つめられ、怯む。リアンは、そのまま口をぱかりと開けた。今度は顎まで落ちそうだ。拾ってやらねば。思わず差し出しかけた両手は、ぱかりと開いた口から飛び出した大声に引っ込む。


「肯定的なことも言えたのだな!? キトリのくせに!」

「魔女ではなく個人としてご判断頂けたのにこんなに嬉しくないの初めて! よろしくね! そんな魔女の友シルフォン王子!」

「謹んで辞退する!」

「魔女を止めたきゃ魔女の掟しかございませんことよー! 魔女には魔女の掟!」

「ならば今すぐその全文が記載された書をよこせ! 抜け穴を探してくれるわ!」

「魔女以外には渡せませんわ! 何故なら魔女の魔女による魔女のための魔女の掟! 裏道は探すけれど魔女にしては厳守していると言える珍しきもの、魔女の掟!」

「ならばその掟に従いさっさと私を男に戻せ――!」


 ごもっともである。私は深く頷いたまま、座っている杖の高度を上げた。無言で浮いていく私を、リアンはぽかんと見送る。そのまま手の届かない位置まで浮かび上がり、尚且つ飛び上がってもかすらないよう足を折り畳む。


「………………すぐには無理でしてよー」

「貴様ぁあああああああああああああ!」








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[一言] 愉快な二人だなぁ
[良い点] くっそ楽しいやり取りでブックマークと感想しか書けませんわー いいぞ、もっとやれ(ぁ
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