びのと覧、異世界でおじいさんと出会う
目の前には、古めかしいワイシャツの上にチョッキを着た天然パーマで鼻の高いおじいさんがいた。
「おじいさん、何してるんですか? ここは外国ですか?」
「おぬしらは? 見かけん顔で、見かけん服装じゃが……」
急におじいさんに警戒された気がする。
「びの君、その質問は良くないよ、私が訊く」
覧は、小声で僕に伝えて話を続ける。
「あの、私たち、旅の者なんですけど、恥ずかしながら迷子になってしまいました。近くに町や村はありますか?」
「旅人で迷子? この森で迷子とは、珍しいの……」
「すみません、土地勘がなくて……」
「そうか、大変じゃったの、とりあえず、スパゲッティでも食べるか?」
言いながら、僕たちにスパゲッテイを差し出すおじいさん。
「いっただき……」
食べようとすると覧が無言でエルボーをした。
食べたらダメってこと? そういうこと?
しゅんとうなだれる僕。
「ご相伴に預かりたいのはやまやまですが、ボクたち急いでいるんです!」
ああ……スパゲッテイ……
「そうか、それなら引き止めまい。森の奥は、モンスターたちが住み着いていて危険じゃ。この道をまっすぐに行きなさい。リネマの城下町に繋がっておる。一緒に行こうか?」
「ありがとうございます。ですが、町にはびの君と二人で行こうと思います」
覧は、おじいさんにお礼をすると、僕たちは早々にその場を離れた。
スパゲティを食べるチャンスが……
いやいや、ここは気持ちを切り替えなければ。
「覧、早く、リネマの城下町へ行こう! この道でいいんでしょ?」
「え??」
僕の言葉を聞いて、目を丸くする覧。なんか、僕、変なこと言っただろうか?
「びの君、私たちの会話分かったの?」
「当然だよ。だって、日本語で話してたじゃないか。日本語が流暢な外国人のおじいさんで良かったよ」
「いやいや、私とおじいさんは英語で会話をしていたのに、わかったの?」
「またまたー、僕をからかおうとしてるんだね。二人とも日本語だったじゃないか」
「大切なことだからもう一度確認するけど、びの君、僕の言ってること分かったんだよね?」
「もちろんだよ」
「びの君が質問した時に、おじいさんが質問を返さなかったから、おじいさんは外国人だと思って英語で質問したんだよ」
「ん? 覧は日本語で話していたじゃない」
覧、冗談きついよ。
僕をからかっているのだろうと、覧の顔を覗き込むと、覧は真剣に考えこんでいた。
僕に英語の能力はからっきしというか、ほぼないに等しい。もし、英語で会話していたなら理解できない。
「いやいや、確かに、私は英語で訊いたんだよ。そして、おじいさんは、英語で答えていた。そして、今も、私はびの君と英語で会話している」
「いやいや、覧とは日本語で会話しているじゃないか」
「私には、英語にしか聞こえていない」
「え? まさか……本当に? ということは、僕、英語ができるようになったわけ?」
「それはない。びの君の頭の悪さは、折り紙付き」
くいぎみで否定された。
「じゃあ、なんで僕が英会話できてるのさ?」
「多分、ここが、日本じゃないから」
「え?」
それ、会話ができる答えになってなくない?
「びの君、日本でリネマの城下町なんて聞いたことある?」
「いや、ないけど、世界のどこかにあるんじゃない? リネマの城下町」
「そうじゃなくて、もしかしたら、ここが地球じゃないから、会話ができたのかもしれない……」
「ん? つまり、これはどういうこと?」
「日本じゃありえない気候、ゴブリン、町の名前に、びの君が英語を聞き取れてしまうということ、モンスターがいるというおじいさんの話から鑑みるに、ここは異世界じゃないかな?」
「奇妙で、キテレツで、摩訶不思議な異世界、キターーーー」
テンションあがるー。
今朝の夢が蘇る。『びの様、オジフの世界を救ってください』
僕が夢の内容を思い出していると、ほっぺに痛みが走った。
「いたたたた……って、覧、僕のほっぺをつねらないでよ」
「うーん、やっぱり夢ではないみたい」
「僕のほっぺじゃなくて、自分の体で試してよ」
「走ると疲れるし、痛みもあるということは、異世界としか考えられない」
「異世界万歳。マンガとかライトノベルとかの世界だよ」
僕は、非日常の世界へと誘われたのだ。