プロローグ:鏡はすべてをのみこみ、そして新しい世界を映し出す。
冒険ではなく、異世界漂流記です。
『全力で、のほほんと生きる』がテーマです。
それでも良ければ、お読みください。
(7月2日に後書きを訂正しました。本文は訂正されていません)
「びの様、びの様」
誰かが僕を呼んでいる。
あれ? ここは?
ここは、今まで見たことない場所だった。
どこまでも、霧がかかっている白い空間。
声の主は何処だろうか?
きょろきょろと視線を動かしていると、何かがある。
そーっと目を開けると、目の前に、整った顔の女性がいた。
ギリシャ神話に出てきそうな白いキトン服をまとっているが、日本人のような顔立ちで、髪は黒くサラサラロングヘア―だ。
「あなたは誰?」
「私は、女神カシズです」
「女神様? 女神様が僕に何の御用ですか?」
「旅乃びの様……ですよね?」
「なんで僕の名前、わかるの?」
頭の中はクエッションマークでいっぱいだ。
「びの様にジオフの世界を救って欲しいのです」
「え? この僕が世界を救う?」
「そうです。後ろをご覧ください」
後ろを振り返ると、そこには、南国の世界が広がっていた。
「なにここ?」
「これが、ジオフの世界です。崩壊していく世界を守って欲しいのです」
「僕が? ははは……冗談きついよ。僕は、ごくごく普通の男子中学生だよ?」
「いいえ、びの様、貴方は、勇者なのです」
「勇者? この僕が?」
「そうです。びの様は、ジオフの世界で魔王を倒すのです」
「そんなこと言われても、僕には無理だよ」
僕は、全力で拒否する。
「無理ではありません。むしろ、貴方にしかできないのです」
「なんで、僕なのさ?」
「貴方には圧倒的な力があります」
「僕に力なんてあるわけないよ。だって、一般的な男子中学生だよ?」
「いいえ、何度も言うようですが、貴方は勇者なのです。このステータスを見てください」
「こ、これは……」
「ファンタスティックでしょ?」
旅乃 びの(たびの びの)LV99 身長:172cm 体重:58kg
HP:9999
MP:9999
天職:勇者
筋力:9999
体力:9999
耐性:9999
敏捷:9999
魔力:9999
魔耐:9999
運 :9999
目の前に提示されたステータスには、全て9999のパラメータがあった。
「うわっ、俺TUEEEEEの、強くてニューゲームだ」
「ええ、私も長く女神をつとめておりますが、はじめてみました」
なるほど、このステータスなら、魔王どころか、神様にも負ける気がしない。
「そっか、本当に、僕、勇者なんだ」
「納得していただけましたか?」
「うん」
「それでは、ジオフの世界を救っていただけますか?」
「もちろんさ」
「それでは、ジオフの世界へ転送します」
「いつでもどうぞ」
サムズアップして、いつも鏡の前で練習していたキメ顔をする僕。
もう、わくわくがとまらない。
「最後に、びの様に注意をします」
「注意って、何に?」
「災いです」
災い? 何のことだろう?
「ステータスが極端ということは、災いを呼ぶのです」
ん? 何を言ってるんだろう? この女神さまは。
僕より強い人やモンスターなんかいないはずだ。
「災いなんかおきないよ。僕のステータスを見てよ。全パラメータ9999じゃないか」
「それでも、お気を付けてください」
「ステータスが低すぎるならわかるよ。だって、強い人に馬鹿にされつづけるもん」
現実世界の僕は、頭も悪いし、運動も苦手、何をやってもドジをふむから、クラスの皆から、いじられ続けてる。
「だけど、今の僕のステータスなら、誰にも負けないよね?」
「びの様のおっしゃるように、誰にも負けることはないかもしれません。ですが……」
女神は言葉を濁した。
「もう、この際だから、はっきり言って」
「ずるがしこい人間は、びの様をお金や権力で傘下に取り入れようとするでしょう。気がついたら、権力者にいいように利用され続けるなんてこともありうるのでは?」
たしかに、僕は頭が弱いからな……
「利用されないように気をつけるよ」
「わかっていただけたようですね。前置きはこれくらいにして、そろそろ、びの様には旅立っていただきます」
「鏡を覗き込んでください」
鏡?
あ、この姿見か……
「その鏡が『あなた』を新しい世界へと誘ってくれます」
「この鏡を覗きこむだけで?」
「ええ」
「いや、本当にまるで夢みたいだ」
「さすが、びの様。実はこれ、夢なんです」
え? いきなり夢オチ??
そう思った瞬間、鏡がすべてを飲み込んだ。
お話は、ゆっくりと進みます。
『全力で、のほほんと生きる』がテーマなので。
長文失礼いたしました。
いたあめ(しろ)