6 噛み合う歯車のロンド
ぽつりぽつりと、家々の窓に明かりが灯る。
丘の上からの夕暮れ。病院の駐輪場で、電話が鳴った。
「なんすか、店長?」
『明日、納品と回収を頼めるか?』
「別にいいっすけど」
大牙は周囲を見回す。他に人影はなく、通話を聞かれる恐れはない。
『長距離狙撃用L115A3ライフルと、338プラアマグナム』
「……場所と時間は?」
『梁泉高校、夕方の五時までに』
「ウチじゃないっすか!」
予想外の注文に大牙は叫ぶ。
『だから、お前が適任なんだよ』
「マジでもー、やめてくださいよ……」
『仕事なんだから、不平不満言わない』
「給料アップお願いします」
『わかった。この仕事を成功させたらな』
「約束っすよ」
通話を終えて、携帯端末をポケットに仕舞う。ため息が出る。
納品と回収。
つまり、普段通っている高校で銃が使われるということ。
いつ、誰が、何のために。
その情報は大牙まで下りてこない。
店長なら知っているだろうが、大牙は訊かない。興味はないし、関係もない。
「……不用品回収〈大福屋〉のモットーは、すばやく、的確、丁寧に」
例えそれが、誰かを殺すための武器でも。
見上げれば、夜の気配。刻々と藍色に変化する空。
自転車のロックを外して跨る。ペダルを漕ぐ。
「さーて。晩メシは何にすっかなー」
空っぽに近い冷蔵庫の中身を思い出しつつ、大牙は坂道を下る。
翌日の夕方。
大牙は梁泉高校の二階、第三教材室のドアを開ける。
今回はピッキングではなく、正攻法の鍵――不当に造った合鍵――を使って中に入る。
広さ八畳ほどの窓がない部屋に、めったに使われることのないものや、壊れて使い物にならない備品たちが、押し込められていた。
「よいしょ」
背負っていた、セラミック複合材の黒いケースを床に置く。小学校低学年の子どもなら、難なく収納できそうなぐらいの大きさ。カモフラージュとして、黴臭い破れたカーテンを上から被せる。
「よし、納品完了」
あとは一度この場を離れて、夜になったら〈回収〉に来ればいい。
大牙が踵を返す。ドアノブに手を伸ばす――前に、がちゃりと音がした。
瞬時に、一歩飛び退く。
非常事態に、意識が研ぎ澄まされていく。
――鍵が外から掛けられた。
鉄製のドアの向こう。微かに、誰かが戸惑う気配を感じ取った。
がちゃり、と今度は鍵が開けられた。
ドアを開けた男子生徒、その見覚えがある顔に大牙は驚く。
「お前!」
相手は一瞬だけ目を見張ったが、素早く部屋の中に入り、後ろ手でドアを閉めた。
「騒ぐな。外に聞こえる」
大牙と同じ制服を着た、〈殺し屋〉の少年だった。
「モノはどこだ」
身長は大牙とほぼ変わらない。変装だと思うが、制服は真面目に、きっちりと着こなしている。本当に梁泉高校の生徒に見える。アイドルやモデルのような華やかさはないが、間違いなく整った顔立ち。
「……モノって、なに?」
「とぼけるな。時間の無駄だ、〈回収屋〉」
上からの物言いにカチンときた。
いくら本部の人間でも、偉そうな態度が気に食わない。そういえばバイクに乗せたときもそうだ、と大牙は思い出す。
「プロなら一発で見つけられんだろ?」
挑発的に大牙が鼻を鳴らせば、相手の柳眉が跳ねた。不機嫌になったのを隠そうともしない。
――こいつ、おもしれぇ。
〈殺し屋〉の少年は視線を走らせて、迷うことなく床の上のカーテンを手に取った。ばさり、と外せば黒いケースが姿を現す。
「ビンゴ!」
大牙が囃したてれば、少年の眉間の皺が深くなった。からかい甲斐がある。
「わかりやす過ぎだ」
「なんだとコラ。それじゃ、完璧にカモフラして、仕事前に宝探しをさせてやろーか?」
「その労力はもっと別で使え、一年D組の村越大牙」
不意打ちで身体が固まった。
「……さすが、本部の人間は御存じで」
睨み返せば、相手は首を横に振る。
「そうだが、全てがそうじゃない」
そう言って、少年は黒いケースを背負った。
「ちょうど良い。手伝え」
「お前の仕事を?」
「一年A組の川瀬辰也だ」
薄い唇が、弧を描く。
「これで、断れなくなったぞ」
「げっ」
――知られてしまったからには、口封じ。
「えー……、オレ〈回収屋〉なのに。直接支援は対象外。別料金」
「自分の命の値段を決められるのか?」
ぐうの音も出ない。
「ちくしょー」
さっさと部屋を出て行く辰也のあとを、大牙はちゃんと施錠してから追いかけた。




