4 予定は未定で
二人乗りのバイクは、夜の街を疾走する。
「角を曲った、潰れたゲーセンの裏で止めろ」
大牙の背中から、命令が飛んだ。
「お前は何様だ?」
「知りたいか」
「いや……、やっぱいい」
こっちの仕事はバレている。〈回収屋〉を知っている時点で、裏の住人だ。
指示された通りに、大牙は閉店したゲームセンターの店舗の裏でバイクを止めた。少年が下りる。
「このまま振り返らず走れ」
「そーさせていただきますー」
言われるまでもない。
大牙はすぐにバイクを発進させた。硝煙の香りと殺気が、風に吹き飛ばされていく。
遠くで、パトカーのサイレンが聞こえた。
「なんだったんすか、あれ!」
ばん、と大牙がカウンターを叩く。
床にいた定春がびっくと身を震わせ、商品棚の陰に隠れた。
「落ちつけよ、大牙。ほら、定春がビビってんだろ」
ブラインドタッチでパソコンを操作しながら、店長がいさめる。大牙が振り向けば、顔だけを覗かせた定春がにゃーと鳴いた。
「……ごめん、定春」
にゃー、と定春が大牙の足元に擦り寄った。
しゃがみ込み、喉を撫でてやればゴロゴロと甘えた音を立てる。その体毛の柔らかさと温かさに、苛立った気分が解れていく。
「当初の予定だったら、お前が納品した武器で標的を処理するはずだったんだが、他の組織とダブルブッキングしたようだ」
「そんなこと、あるんすか?」
「そんなことあるから、この業界は怖いんだよ。なんやらかんやら、紅山幇のボスや幹部たちに懸賞金が掛かったみたい」
店長がパソコンの画面を大牙に見せる。どこかの裏サイト。
顔写真と共に、金額がドルで掲載されていた。
「懸賞金狙いが、横槍を入れたって感じだな。もうちょっと調べてみるが、本来ならこれはウチの仕事だ」
「当然っすよ」
満足したのか、定春が大牙の手からするりと抜け出す。身軽に棚と壁を駆け上り、神棚で丸くなった。
「それで、大牙が運んだ少年だが。あれは、本部の人間だ」
「……〈殺し屋〉ってことっすか」
感じた殺気が蘇り、両腕の肌が粟立つ。
ふう、と店長が息をついた。椅子の背もたれに身体を預ける。
「取り敢えず、今日は帰って寝ろ。急ぎの仕事もないし、明日はバイト休んでいい。鈴香ちゃんに会いに行ってこい」
「……わかりました。ありがとうございます」
へらりと店長が笑う。
神棚の定春が、にゃあと鳴いた。