2 すばやく、的確、丁寧に
防音用ヘッドセットをして、大牙は狙いを付ける。
三十メートル先に吊るされた、射撃用の的。
拳銃の引き金を引く。
少しだけ緩和された音量の銃声が響く。同時に、両腕に反動が伝わる。重心を落とし、全身で受け止める。
弾倉一本分を打ち尽くすと、SP2022のスライドが後退した状態で止まった。ホールドオープン。安全を確認して、空になった弾倉を抜く。防音用ヘッドセットと共に傍らの机に置いた。
装置を操作して、的を回収する。
十五センチ四方の紙に描かれた円、その中心に弾痕が集中していた。
「よしよし、動作正常」
大牙は手で触り、SP2022が完全に冷めたのを確かめてからレバーを押し、スライドを外した。銃身、リコイル・スプリングも取り外す。初期分解を終えて、ブラシや布を使い、丁寧に掃除をしていく。
たっぷり時間を掛けてSP2022を整備し、数秒で元のように組み立てた。弾丸を詰めた弾倉を入れれば、すぐにでも使うことができる。
「〈奥の七番〉のB、クリーニング終了っと」
銀色のケースの中に、大牙はSP2022を置いた。拳銃の重みで、クッション材が沈む。一緒に弾の詰まった弾倉二本と消音器を入れ、ケースの蓋を閉じた。
「店長、作業終わりました」
店先のカウンターに声を掛ければ、「ご苦労さん」と店長が手を振った。
「じゃあ、次は納品だな。このあと行ってこい」
「急っすね」
壁の時計を見れば、午後六時半を過ぎていた。
「その品物は人気なんだって」
「ふーん。納品場所は?」
「中華料理屋の一階男子トイレ」
店長がパソコンを開き、画面に地図を表示させる。その場所を見て、大牙の表情が曇った。
「……ここって、大陸マフィア紅山幇の店っすよね?」
白い粉の売買で有名な、と大牙が付け足せば、店長はあっさり頷く。
「どうやって、もぐり込むんですか」
「一階のほうの男子トイレ、手洗い場をちょこっと水漏れにしたから、修理業者としていける。これ、着替えと身分証ね」
店長がカウンターの上に、水道業者の作業着と名札を置く。名札はもちろん偽名。
「ウチのモットーは?」
「すばやく、的確、丁寧に」
不用品の回収もそうだが、リサイクル品の納品も同様だ。
「確実に納品して、ソッコーで帰ってきます。あとは知りません」
「それでオーケー」
店長がへらりと笑う。