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9:「赫」ってなんて読む?


 炎の拳が機獣を襲う。

 ガゴンと激しい金属音が響き、攻撃を受けた蟹型の機獣は大きく吹き飛んだ。

 鏑木は、五メートルはあろうかという蟹の背に飛び乗ると、陥没した装甲を引きはがす。

 例にもれず新型の連中には、炎をぶつけても無効化されてしまう。

 ならば、炎で勢いをつけた拳で攻撃し、破損した装甲部を引っぺがしていけば動きを封じることもできる。

 何故魔法でもない攻撃が無効化されるのかは不明だが、考えるより先に手を動かしていく方が効率がいい。

 鏑木は口元を拭い、装甲を引き剥がした蟹の中に火炎放射を送り込む。


 炎は消えない。予想通りだ。


 無効化されるのは外装だけで、内部から焼けば効果ありのようである。

 内部熱で膨張する蟹を確認し、彼は大きく飛び上がった。


 刹那。

 激しい音を立てて爆散する機獣を尻目に、鏑木は次の機獣に飛び移る。


 最近多いのは、魔法無効化の転写魔法がプリントされた装甲板だ。

 魔法の発動における魔力周波と同等の周波を放ち、接触した魔法を無効化するというものである。

 アテラの魔法が無効化された瞬間に、その線を疑った。


 しかし、鏑木の力は魔法ではない。

 この炎は己自身。


 では、連中はどういったカラクリなのだろうか。

 飛び乗ったサソリ型を処理して、彼は再度飛び上がる。

 

「こういう時、もう一個くらい力が欲しいって思うよな……」


 周囲には、気が遠くなるほどの数の機獣がひしめいている。

 アテラはデッドキャスパーと交戦中のようで、こっちはこっちで片付けなくてはならないようだ。

 鏑木は舌打ちして、炎を消すと拳を握る。

 

 ――超怪力――


 虚空に振りぬいた拳が余波を生み出し、拳のエネルギーを機獣たちへと伝播させていく。

 しかし――――


 パァン!!


 渇いた音が響き、鏑木の一撃が機獣たちの装甲に打ち消されてしまう。


「これもかよっ!?」


 ギョッとしたように目を見開いた鏑木は、飛び掛かって来た狼型の腹部に拳をぶつけた。

 粉砕する機獣を確認し、鏑木は唾を吐く。

 どうやら、完全に物理攻撃として成立しているものしか効果が無いようである。

 

 めんどくせぇ。


 眉間にしわを寄せた鏑木は、着地するとその場で大きく四股を踏んだ。

 あまり転生特典にかまけた戦い方は好まないが、織り交ぜるのであればギリギリ許容内。

 鏑木は、四股を踏むたびに砕け舞い上がる大地を確認して、ニヤリと笑う。


「少しは効いてくれよなっ!」


 言うなり彼は体の正面で手のひらを打ち合わせた。

 凄まじい破裂音がこだまし、突風が吹き荒れる。

 突風に巻かれた大地の破片は、流星の如く吹き飛び機獣たちを捕らえた。

 次々に吹き飛んでいく機獣たち。

 破壊までは至らなかったが、一時的に全体の隙を生むことが出来た。


 ちょっとしんどいが、もう一発行けるか?


 そう考えつつ、鏑木は身構えた。

 狙うは一撃必殺の「二段爆砕(ジェット)粘撃気拳(ガム)」。

 炎は効かなくとも熱された大地の二段目の攻撃ならば、十分連中を破壊できそうに思える。

 しかし、この技は必殺と銘打つだけあって、一回の消費体力が尋常ではない。

 威力も然り、そうポンポンと放てるものでもないのである。


 だが、だから何だという話だ。


 そんな理屈など、これまで何度もへし折ってきている。

 それ越えてこその冒険者であって、超えることこそ冒険。

 冒険をしなくては、冒険者は名乗れない。

 鏑木は両こぶしを握り締め、全身に力を込めた。


「いくぞっ」


 あふれ出す熱波と業火が大地を焦がす。

 鏑木は深く息を吸い込むと、力強く地を蹴った。



☆☆☆



 俺は、ワイヤーで固定した体を後ろに傾ける。

 木々に体が埋もれたことを確認し、ガレットを構え直す。

 いくら五百は離れているとはいえ、狙撃ポイントを把握されては射線を切られてしまう。

 狙撃は狙撃地点を知られず行うに限る。

 故に少しでも身を隠す工夫が求められてくるのだ。

 突き詰めれば、撃つたびに移動することで狙撃地点を絞らせない方法もあるが、今回はそうしない。

 今回の狙撃は一発のみ。

 一撃で脳天を貫いてエンドだ。

 少し話して分かったが、あーいう頭が回りそうな奴は一発でも狙撃を受けると、次を打たせない工夫を何かしら講じてくるものだ。

 ならば一撃で仕留めるに尽きる。

 アテラもそう考えているのだろう。

 正直なところ、命を奪うことについては本意ではない。

 しかし、あれほどに殺意を向けられた上に、あんな数の機獣を差し向けられれば、殺し合いの他に手段は無い。

 殺さなくても戦闘不能にすれば良いという者もいるだろう。


 否。


 異世界において慈悲は無用。

 一度仕掛けれられた攻撃は徹底的にやり返す。甘い考えは捨てねばならない。

 不安要素は極力排除しなくてはならない。

 さもなくば、今この瞬間に難を逃れたとしても必ず次が来る。

 生きるためには、殺さねばならない。

 理想も理屈も、結局は生き死にの線で別れてしまうのが、この世界だ。


 スコープを覗くと激しい空中戦を繰り広げている彼の姿が見えた。

 デッドキャスパーも、とても重装甲とは思えない俊敏な機動力で応戦している。


 一体あれは何なのだろうか。


 見たところ、技術こそこちらの世界に合わせたものだが、発想が極めて先進的。アーマーの換装や、変形機構にレーザーブラスター。

 どうもこっち側の匂いがする。

 おまけに先ほどの「転生者」という発言が気がかりだ。

 考える間でもなく、奴も俺達同様に転生者と考えるのが妥当だろう。

 確証は無いが、そんな気がする。

 まぁ、転生者と言っても必ずしも俺たちと同郷とは限らない。

 見当違いかもしれないが、ここまで世界の理から外れた技術や存在感を放てば、その路線を疑いたくなる。

 俺は邪魔にならぬように、自身の長いポニーテールを前に流す。


 すると不意に、流した髪からアテラの匂いがした。

 あれだけしっかり抱えられていれば、当然匂いの一つも付いているだろう。


 力強くゆるぎない安心感だった。


 普段あれほど情けなく腹立たしい男でも、たまには役に立つのだと思い、俺は思わず苦笑いする。


 あぁいう顔もできるんだ……。


 瞬間的に脳裏にあの真剣な面持ちが浮かび、胸の奥が少し疼く。

 別にこんなことで奴への印象が良くなるわけでは無い。

 ただ、純粋に何かに一生懸命になれる姿には、それが誰であろうと輝かしくみえるものだ。

 決してお姫様抱っこされたことに、ときめいたわけでは無い。

 ときめいたわけでは無いが、不意打ちというか少し照れてしまったのは事実である。

 俺は、思い出すうちに耳まで赤くなってしまった顔をブンブンと振った。

 女性である以上、いつかは誰かに惹かれることもあるかもしれんが、少なくともそれは奴ではない。

 今はそもそも親しい男性が少ないが故に、こんな些細なことで赤くなってしまうがそろそろ慣れなくてはならない。

 慣れないと、気が付いたら落とされてそうで怖い。

 なろう系主人公に落とされるのだけは嫌だ。

 せめて鏑木みたいな芯の強い奴がいい。

 あー、でもアイツ乱暴そうだから、それならアテラの方が……って、何を考えているんだ。

 

 俺は真っ赤になった顔に手を添え、再度ブンブンと頭を振る。


 ピイ!


 その時、不意にピイが俺の服を引っ張る。

 スコープから顔を上げると、突然俺の上空を何かが高速で通過した。

 轟と鳴る低いエンジン音のような機械音を響かせて、それは空をかける。


 蒼い。


 余りの速さに色しか判断できず、俺はその行く先をスコープで確認すした。


 機獣?


 レンズの先に映ったのは、スラスターを吹かし渓谷に向かう蒼い機械の塊。

 人型に見えるソレは、デッドキャスパー同タイプの存在に見える。

 両手両足のスラスターには、それぞれ小さな魔法陣が展開されている。

 見たところ、その魔法陣は出力調整を担っているようだ。

 体を真っすぐにして前を向き飛ぶ姿は、さながらアメコミの金属ヒーローを彷彿とさせる。


 奴の仲間だろうか。


 何にせよ警戒するに越したことは無い。


「厄介ごとが増えるのは、どの世界も同じってわけね……」


 俺は小さくため息をつき、ガレットのマガジンを切り替えると、素早くコッキングを引いた。



☆☆☆



 数時間前。


「何? 連中が例の機獣処理に行っただと?」


 デスクにうつ伏せていたローウェン・ザイードハウザーはゆっくりと顔を上げた。

 報告を行った職員は、コクリと頷く。


「はい。リーナ・アボード。アテラ・ヴァンレットフィール。エリス・ユーロレーヌの三名と、リーナ・アボードの隷属獣が一匹、例の渓谷に向かっております。ギルドのクエスト受注も確認されておりますので、まず間違いない情報かと」


 表情一つ動かさずただ淡々と報告を述べる職員の女性を見て、ローウェンは頭をかいた。


 何でよりにもよって転生者祭りのパーティーが行くかな……。俺、呪われてんかよ。


「報告ご苦労。いつもありがとう。下がっていいよ」


 そう言って制服の女性を下がらせたローウェンは、めんどうくさそうに伸びをする。

 くたびれた様子の彼に、二人の護衛はニヤニヤと笑みを漏らす。

 部屋の中には、ローウェンの腰かける窓際のデスクが一つと、中央には向かい合うソファーと大きなテーブル。

 時間は十四時を回っており、昼下がりの日差しが部屋を照らす。

 ソファーに腰掛ける護衛の一人であるイーボルトが口を開いた。


「んでぇ? どうすんだい。機獣どもをあそこに置いときたいって言いだしたのはお前さんだろうに」


 反応を伺う様にクイと眉を上げたイーボルトは、葉巻の煙を吹かす。


「それもそうだな。あそこに居てもらう方が回収して再販売するよりよっぽど価値がある。中古になるとどうも値段が落ちる。あんなとんでもない兵器のくせして、買う連中はやけに新品に拘りやがるからな」


 中古でも変わらないだろうに……。

 そんなことを思いつつ、ローウェンは椅子から立ち上がった。

 実際のところ、機獣は魔法で動く自己修復型機械兵器故に、中古も新品も大差ない。

 何をそんなに拘るのだろうか。

 すると、イーボルトは笑った。


「そりゃそうさ。軍備ってのは、不安要素を取り除いていく仕事だ。戦争も競技も、争いごとは皆然り。ミスがない方が勝つってのは、周知の事実よ。治るとは言え、使い古しなんてどこに欠陥があるかわからん。万が一のためにも新品を好むってのは、理にかなってる話だ」

「なるほどね……。どおりでしかめ面した小汚い連中まで新品をねだるわけだ」


 ローウェンは、ケッと息を吐くと首を鳴らす。


 武器相場というのは、悪の数に比例する。

 倒すべき巨悪や対象が多ければ多いほど武器は売れ、平和となった後は私腹を肥やす者を狙い武器が売れる。

 この市場に目を付けたのは、この世界が力こそ全てという極めて原始的な在り方に依存していたからだ。

 転生してすぐに冒険者を目指したローウェンだが、転生特典の性質上特別大きな戦果を挙げることはできなかった。

 そこで今度は、自身の父が運営する海運業に目を付ける。

 この海運技術があれば、航空技術の発達していないこの世界では商業の頂点を狙うことも不可能ではない。

 ローウェンは商人を目指すことにした。

 では、海運を利用して何を売るか。

 当初は運送の肩代わりという形態の商いを行っていたが、それでは商会は大きくならない。

 売るものを絞り、より大きな市場を自ら作り上げる。

 自らが先駆者となるならば、その行く末も自信がコントロールすればいい。この世界が力至上主義ならば、その根本を支配して頂点に上り詰めよう。

 そして、辿り着いたのが「武器」だった。

 大学で経営学を学んだとは言え、実際の現場では素人同然。ましてや、前世とは異なり市場らしい市場もまるで完備されていない状況。

 すべてゼロからのスタートだった。

 幸いにして怪しげなアドバイザーも付き、商会はとんとん拍子で大きく発展する。

 強いて不安要素があるとすれば、それは自身がいつしか「私腹を肥やす者」となったことで誰かに狙われる心配があることくらいだろうか。

 皮肉な話だが、自身の売った武器で身内が殺された連中からは五万と恨まれている。いつしか自分は、武器が売れる理由そのものとなっているである。


 ――俺は悪だ――


 そう割り切り、自分が選んだ道をただ進むことだけが、この世界で唯一ローウェンに許された覇道なのだ。

 輝く星にもいろいろある様に、転生者にもいろいろある。

 スマホ片手に魔法の天才となる者。努力で自身を炎そのものと化し英雄となった者。何も望まず与えられた運命を地道に歩み生きる者。そして、世界の悪を背負い悪を討つ道具を売る商人。

 自分には華やかな冒険譚は似合わない。だが、華やかな生き方は何も冒険だけではない。

 故に邪魔されるわけにはいかないのである。


 ローウェンは大きな欠伸をした。

 そんな彼を見て、イーボルトの正面に座るサーチェスが問う。


「ところで、どうしてあそこに機獣たちを放置しておく必要があるの?」

「あー、言ってなかったっけ?」


 ローウェンはそう言って時計を確認すると、サーチェスの隣に腰掛ける。


「あれはいわば悪なんだ。アイツらが放置されれば当然、冒険者ギルドは放っておかない。様々な冒険者が送られるだろう。だが、あれは人の手でどうこうできるもんじゃない。結果としてウチの商品が売れる。最初は基本的なもの。徐々に魔導砲や大型兵器、最後には同じ機獣が売れていく。魔王戦で騎士どもが負けるのは目に見えていた。だから、敢えて旧型を売りつけて、後にアレを処理するために売る機獣は新型にする。そうしたら、商品の評判も上がり、結果として儲かる。そう言うわけだ」


 ローウェンは時折ジェスチャーを交えながら解説し、一通り話し終えるとわざとらしくニヤついて見せた。

 サーチェスは「なるほど」と頷いている。

 ひとまずこのように説明はしたが、厳密にはもう一つ理由がある。

 ローウェンは、目を細めた。


 あのエリアは、ザイード商会に限らず様々な商会や商人が行き来する大通商パイプラインである。つまり貿易の生命線の一つなのだ。

 貿易ライフラインで機獣が暴れるということは、貿易路を寸断していることになり事実上誰も通ることはできない状態となる。

 ザイード商会としては、その状況を利用したい。

 こちらは全ての機獣をコントロールできるユニオンコードを持っており、その気になればいつでも機獣を世界中どこからでも操作できる。

 誰も手がつけられないエリアを使い、知られたくない連中に知られたくない商品を売る。

 それが本当の目的だった。

 貿易独占という手もあるが、それには時間の問題で長期の利益は望めない。いずれはどこかしらの団体が介入し、機獣は止まる。ややもすれば、それを請け負うのは自分達とも限らない。

 ならばこそ、短期という時間を利用して儲ける方が価値が大きいまである。


 ローウェンは首をかく。

 そこでイーボルトが口を挟んだ。


「なるほど。だがよ。どういう点から騎士どもが負けるって踏んでたんだ?」


 もっともな質問である。

 側から見れば、騎士が負ける可能性というのはあくまで目利きにすぎず、言うなれば博打だ。巨大な額が動く機獣販売において、そう判断するに至ったキッカケを知りたいというのは妥当な話である。

 目を閉じたローウェンは、コクコクと頷き話はじめた。


「簡単な話。アイツら休みないんだもん」


 その言葉にイーボルトもサーチェスも、首を傾げる。

 まるでピンと来ていない様子だ。

 ローウェンは、若干残念そうな顔で続ける。


「アイツらの国は大きな騎士団こそ持っているが、育成がまるでなってない。故にその実精鋭はごく一握り。必然的に優秀な人材は連続して任務に駆り出される。あの機獣どもを売った時も、騎士団長の目の下にはクマがあったんだぜ? そんな状態でまともな判断できると思うか? 無理だろ。ましてや敵は魔王軍。敗北して当然よ」

「あー。そりゃ仕方ないかもな。……ただよ。冒険者や傭兵に無休はつきものだろ?」

「だとしても、あれはやり過ぎだ」


 すると、サーチェスが笑った。


「はっ。ローウェン。アンタの元いた世界がどうかは知らないけど。戦いを商いにしてる連中は、金さえ入れば休日なんていらないのよ」

「……だから、こっちじゃ労働者の平均寿命が短いんだよ」


 そう吐き捨てて、ローウェンは立ち上がる。

 どの世界でも体を張る仕事には、相応の休暇が必要だ。

 さもなければ人は、自身の消費エネルギーに耐えられず自壊してしまう。

 そんなこと分かっていても、前世では職種の事情や経済状態で休暇が取れず崩壊してしまう者が多くいた。

 あれほどに文明が進んでいる世界でもそんなことが起きるのだ。こちらの世界で起きないはずも無く、人類は何処にいようとも愚かな過ちを犯すものなのだと、改めて理解させられる。

 ローウェンの主義としては、優秀な人材は短期の猛労働よりも、緩やかでも長期にわたって働いてほしい。

 商会を運営する身として目先の利益より、先の利益を盛り上げていきたいのは当然である。

 

 部屋を出ていこうとするローウェンと見て、イーボルトとサーチェスも席を立つ。

 すると、扉を開けたローウェンは、突然振り返り二人をビシッと指さした。


「俺は部下に残業や休日出勤を強いるのは好かん。今日は俺一人で十分」


 強い口調でそう言うが、二人は何処か不服そうに見える。

 ローウェンは眉間にしわを寄せた。


「必要以上の労働は、非合理の極みだ。本当なら今日だって、護衛とはいえオフにも関わらず律儀に出勤してきた貴様らを咎めたいくらいだ。大人しく休め。月給が不満なら申請しろ。上げてやる」


 その言葉を聞いて、イーボルトは小さく笑う。


「はいはい。わかったよ。……でもな。ローウェン。俺たちが付いていくのは、何も契約してるからだけじゃぁない。アンタが仲間だからだ」


 仲間という言葉の不意打ちに、ローウェンは思わず言葉を失う。

 見ればサーチェスもそうだと言わんばかりの様子で、コクコクと頷いている。

 ローウェンは踵を返した。


「そんなのは分かってる。だからこそだ。俺はアンタたちが大事な仲間だから、休ませるんだよっ」


 そう言ってローウェンは、部屋の戸を乱暴に閉じた。

 扉の向こうで「やれやれ」という楽し気な声が聞こえてくる。

 照れくさいような悔しいような複雑な心境で、彼は呟いた。


「冒険者数あれど、仲間が出来るのは等しく同じってところかな……」


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