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『が、後からアメリカの上部が言うことには。あの事件は全て仕組まれていて……曰く、それをやったのは、貴方です』
「――は?」
その先の言葉が出てこない。しかし、思考は止まらない。衝撃に愕然としていてなお、俺の脳の片隅は考え続けていた。
友人によれば、事件があったその日は一日中避難指示が出ていて、ほとんどが学生であるこの街の住人たちは学校に避難していたらしい。体育館の地下にいても轟音が何度も響くのが聞こえたと言うから、かなりの大事件だったのだろう。
それを、俺が……? 仕組んだ、とは。
その疑問は、ジュリーによってすぐに解決された。
『あちらの言葉を借りれば、「我々が知らぬ間にゼレイドが手を回してこの街を襲撃する計画が実行されることになっていた。そして奴は作戦中に裏切りアメリカ・日本の部隊を共倒れにしようとした」そうです』
彼女は、感情の薄い声でただ事実として述べる。
身体中が末端から冷えていく。
テロかと思われていた事件が、実はアメリカの秘密部隊によるもので、さらにそれを裏で仕組んだのは俺。でも、だとしたら……。
「その、アメリカ側の話? っていうのは、それで終わりなのか?」
震える声で訊ねた。
「終わりよ。でも、あんたの疑問はわかる。不自然な点がある」
――どうして、記憶がなく戦うこともできない俺が、今の今まで捕まりも殺されもしなかった?
「氷雅の話が本当なら、それはおかしい」
表情を変えないまま、凪も呟く。
「表向きあたしらはアメリカの話を信用している。でも、あんたの話のおかげであんたを敵だと断定できない」
『しかも、「ゼレイド」でなく「涼崎氷雅」であれば一般人です。私たちは、特に緊急性がない場合一般人に手を出せません』
つまり、結局何もわからない。そういうことか。
告げられたいくつもの衝撃的な事実を、頭の中で確認し直す。が、話が終わって集中力が切れたからか、血が足りない頭は段々とぼんやりし始め、同じことばかりがぐるぐると脳内を回っていた。
本当に事件の黒幕は俺で、事件の直後に不測の事態があった? それとも、真犯人は別にいて、俺は濡れ衣を着せられただけの被害者だった?
どちらにせよ、その前の段階――俺が、特殊部隊に所属する兵士であった、ということは今さら疑いようもないのだろう。だとしたら、俺はきっと、もう何人も殺している。黒幕だったのかどうかに関わらず、あのテロ事件に加担している。
記憶を失う前の俺は、それをどう考えていたんだろうか。急に自分という存在が他人のように感じられて、自身のことが信用できないような、変な気持ちになった。