フノスさんの家の庭
遅くなってすみません。
フノスさんのお家へ向かうところからです。
風景はもう荒地から砂漠の様相を呈してきていた。
日差しが眩しく照りつけ、乾燥した空気が水分を奪って行く。
灼熱の荒野を砂混じりの風が吹き抜け、日陰など何処にもない。
「あそこに湖があるぞ」
眼前に突如、現れた地平線まで広がる大きな湖にオレは声を上げ走りだした。
「サイゴさん、落ち着いて下さい!」
フノスの制止。
そして、リムさんが小言を言い始める。
「いいですか、こういう土地では地表の熱せられた大気が光の屈折を歪ませて空の青さを逆さ写しにするという現象が起きるのです。ですから、その現場に行っても水は少しも存在していません。人々は蜃気楼だとか逃げ水とこの現象を呼んでいますね」
そうなんだ...
俺の身体は良いんだ。でも、フノスもリムは限界が近づいてると肌で感じる。
ナイさんもやっぱり辛そうだ。
いや、ナイさんの本当のところは知らないがあんな化け物地味た人が苦悶の表情を浮かべているのだから、この土地は異常だ。
「フノス!フノスさん、家はどこですか!」
俺はもう我慢できなかった。遠くないって話だったんじゃなかったのか。
「向こうですよ」
しれっと答えるフノスの指差す方向には地平線が見える。
「それは、あれじゃないですかやっぱり魔法的な何かで隠蔽しているとか?」
リムさんよく言ってくれた。
「いえ、ただ向こうに家があります」
「……」
「……」
「じゃ、何で。遠くないって言ってたんじゃなかったのか」
「もう、随分前から家の庭ですけど…」
フノスが申し訳なさそうに、しょんぼりした。
「朝食べたのはうちの庭鳥です。だいぶ大きくなっててびっくりしちゃったよね」
おい、なんだってアレがニワトリ?
そしてここが庭。
今は見えない地平線の彼方に家だと…
「つかぬ事をお伺い致しますが、フノスさんはどちらかの名家の出自のお嬢様か何かなのでしょうか?」
「いえ、そんなとんでもない」
はにかみながらモジモジと身をくねらせる。
「そんな事は、まぁ重要ではあるが保留しよう。まずは水だ、水筒はもう空なんだ!」
「ああぁ、ごめんなさい。うっかりしちゃって」
ごそごそと背嚢を漁ると金属製の部品を取り出した。
蛇口だと!
「すみません、気づかなくてコレはこの辺に」
と言いながらキュっと地面に突き刺して蛇口をひねった。
勢い良く流れ出す水を見て
「リム、水筒!」
「はい!」
水筒がいっぱいになり、文字通り浴びるほど水を飲んだ頃。
「そろそろ締めますね」
フノスがソノ金属製の部品を回収する。
冷ややかで瑞々しい迸りが終わり、フノスの背嚢の中に蛇口が仕舞われた。
この時からだろうか、この世界がただの異世界では無くて自分が元いた世界との接点というものを探し始めたのは、その器具はあまりにも蛇口に似ていたのだ。人々の服装だけでなく、もちろん科学との融合の様な聖騎士の鎧の電装とエネルギーの貯蓄装置なども気になってしまうときりがない。
しかし、それはまた別の話。
サイゴ達一行はフノスの先導で、一路フノスの家へ向けて歩みを続けるのだった。
To be continue
お読み頂き誠にありがとうございます。
ブックマーク、感想、レビューして頂ければ嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。
梅雨明けをしましたが、更に暑い日が続くと聞きます。皆様、体調管理に気を配り御自愛して下さい。