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ダンジョンの巨龍③

俺達が突然村に戻った事で、村は蜂の巣をつついたような大騒ぎになってしまった。まあしょうがないよな、なんせ旅立ってまだ10日も経ってないんだし。



「どうしたカイン、何があった?」


「えらいベッピンさん連れてぇ」


「お帰り!」



反応は様々だけど今はゆっくり説明している場合じゃない。


皆に軽く挨拶しながら、とにかくアリアの元へと急ぐ。ほどなく14年もの月日を過ごした、懐かしの我が家が見えてきた。



「アリア!ただいま!」



戸口で大声で叫んでみたけれど、案の定なんの反応も無い。


それもその筈、まだ日も高いこの時間ならヴァンパイアであるアリアはそれこそぐっすりと寝ている筈だ。


鍵なんかかかってないし、俺はさっさと中に入って皆を居間に通し自分は取るものもとりあえずアリアの部屋へまっしぐら。大きく息を吸い込んで、アリアの部屋のドアに向かって思いっきり叫んだ。



「ア~リ~ア~!起きて!大事な用があるんだよ!」



同時に乱暴にドアをドンドン叩く。


アリアの寝起きははっきり言って良くない。ぶっちゃけ手が痛くなるくらい、思い切った連打で扉を打ち鳴らさないと起きてこなかったりするんだ。


しばらくそうしていると、ようやくガチャリとドアが開いた。



「え……カイン?……どうして?」



予想してたけど、完全には覚醒出来てない感じだな。



「アリアごめん。どうしても頼みたい事があって戻ってきたんだ。お客様連れてきたから、リビングに来てくれないか?」



「うう……5分、待ってて」



よし、なんとか大丈夫そうだ。


ちょっと安心して居間に戻ると、ミュウがお茶を淹れてくれていた。勝手知ったる他人の家、ってヤツだな。キッチンまわりの事なら俺よりミュウの方が詳しいかも知れない。





はからずもアリアと会う事になって、アラシは結構緊張してるみたいで落ち着きなく無闇にコーヒーをあおっていた。



「うわー、爺さん達絶賛のアリアとご対面かよ。はぁ~どんな感じなんだかなぁ」



独り言、デカいですよ?


心の中でツッコミを入れた時、上品な仕草でアリアが姿を現わした。



「まぁ、凄い顔ぶれ。こんなにドラゴン引き連れて……あなた達、一体どうしたの?」



すげえ、やっぱりアリアには皆がドラゴンだって分かっちゃうんだな。




どこから話せばちゃんと伝わるのか。わからないなりに、とにかくここまで世話になりっぱなしのアラシの紹介だけはしなくてはと、俺は必死で口を動かした。



「ええとアリア、この人アラシっていって、今俺達と依頼とか一緒にやってくれてるんだ。」


「アラシはね、カインのご先祖様と契約してたんだって。」



ミュウも一緒になって口々にアラシの事を紹介する俺達。俺達がなんとか依頼をこなせているのは、アラシがいるからだ。アラシにどれだけ世話になっているかを力説する俺達を、アリアは嬉しそうに見ている。



「ありがとう。カインとミュウの事、助けてくれて」


「い、いえっ!あの、お会い出来て光栄です!」



アリアの必殺技、聖母の微笑みの直撃を受けたらしいアラシは面白いくらい、真っ赤になって照れている。


ちょっとからかいたいくらいだけど、今日だけはゆっくりもしていられない。俺は早速本題に入った。



「アリア、今日はさ、凄く大事なお願いがあって帰って来たんだ」


「お願い!かーちゃんを、助けて……!」



話が解呪に移るのを素早く察知して、サイが話に割り込んできた。一刻も早く話を進めたいんだろう。



「こいつ……サイのお母さん、呪いにかかってるみたいなんだ」


「私の解呪の魔法じゃ、完全には解けなくて……。ごめんなさい」



ミュウが、シュンとして謝る。



「それはかなり高度な呪いって事ね。分かった、少し診てみるわ。……触ってもいいかしら?」



了解をとって体に触れたアリアの顔は、徐々に険しくなっていく。



「体調が悪くなっていったの……もう、何年もかけてじゃないの?」



母龍が、かすかに頷いた。



「やっぱり……呪いが深く浸透し過ぎてる。一度の解呪で治せるものではないわ、かなり特殊な呪いよ」



アリアの言葉に、サイが真っ青になった。みるみる盛り上がってくる涙。アリアは優しくサイの頭を撫でながら、落ち着かせるように言葉をつなぐ。



「大丈夫、時間をかけて何度も解呪をかけていけばちゃんと元気になるわ。治るまで私の元で療養なさい」



そして、俺をチラリと見る。



「ちょうどカインが旅にでて、家の中が静か過ぎるの。あなた達がいてくれれば、また賑やかになるわ」



アリアはサイを見てにっこり笑うと、「お母さんを治療したいの。隣の部屋に、少しお母さんを連れて行くけどいいかしら?」と、了解をとった。


アリアは人前では治療しない。


アリアはもともと聖魔導師だから、治癒の魔法も当然聖魔法なんだけど、厄介な事にヴァンパイアでもあるもんだから、魔法を使うと自分もダメージを負っちゃうんだ。多分、その姿を見せたくないんだろう。


待っている間サイはずっと不安そうに足をモジモジさせるばっかりで、目の前に出されているお菓子も目に入ってないみたいだ。


ミュウがさりげなく背中をさすっているけれど、それも気付いてないんじゃないかな。





ジリジリしながら待つこと20分、ようやく二人が部屋から出てきた。



「お待たせ」



にっこり笑うアリアの後ろには、しっかりと顔をあげてこっちを見る美女がいた。



すげえ、だいぶ顔色が戻ってきて……俺達、初めて笑顔見たかもしんない。サイを見つめて優しげに微笑む彼女は、アリアにも負けないくらい聖母っぽかった。



「サイ、心配かけてごめんね」


「……かーちゃん!!」



笑顔で両手を広げる母龍に、たまらずサイが飛びつく。もう涙ボロボロでひっくひっくとしゃくりあげるだけで、言葉にならない嗚咽が漏れている。


俺達もやっと、少しだけ安心した。後はアリアに任せれば大丈夫だろう。

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