表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

ダンジョンの巨龍②

ピタリと子供の動きが止まる。少しの沈黙の後、その子は恐る恐る、アラシの顔を見上げた。



「ドラゴン…?ホント…?」



アラシはニッと笑って、「ホント!仲間!」と請け負った。


……て言うか、この子もドラゴンなのか。なんかもうドラゴン関連の仕事、常識通じないな。


またもや混乱する俺達を尻目に、アラシはサクサク話を進めていく。



「お前、かーちゃんはどうした?」



途端に子供はくしゃっと顔を歪める。小さな拳を握りしめて、涙を堪えているようだ。



「かーちゃん、奥にいる。薬草食べても効かなくって、もう人に変化する力もないって……」



それを聞いて、アラシの顔が一気に曇った。



「まずいな。この奥にある薬草はドラゴンにとっちゃ万能薬なんだよ、それが効かないとなると」



それが効かないとなると、普通に考えて……寿命か、呪いだ。



「呪いなら…ミュウ、なんとかなるんじゃないか?」



ミュウは聖魔導師だ、たしか解呪の魔法があったと思う。



「やってみるけど……でも私の魔法だとレベルが低いから、高度な呪いだと痛み止め程度にしかならないかも」



それでも寿命か呪いか、見極められる。頷きあって、俺達はダンジョンの奥へ向かって歩き始めた。






「おい!ちょっと待てよ、お前……えーと、名前、まず名前教えてくれ」



気が急くからかついに走りだした子ドラゴンに、走りながら問いかける。うっかり名前も聞かずに話を進めたせいで、呼びかけすら間抜けな感じになってしまった。



「ぼく、サイ。お兄ちゃんは?」


「俺はカインで、こいつはミュウ。あの風龍が、アラシだ」



走りながらだから、会話も細切れだ。


角を曲がった瞬間、遠目でも恐怖を覚える程の巨体が目に飛び込んで来た。



「かーちゃん!!」



ひぇぇぇぇっ!!


口からほとばしり出そうな悲鳴を、手のひらでガッチリ抑えて、なんとか平静を保つ。



お……大きな……お母さまで……。



ミュウは口をあんぐりと開けて、滅多に見られない超間抜け面だ。


それにしてもぐったりと体を横たえていると言うのに、なんちゅうデカさだよ。城一個分くらいあるんじゃねえのか?普通に起きあがると一体どれくらいの体高になるのか、見当もつかない。


でもそんなに大きくて立派なドラゴンは、今、起き上がる事すら出来ない程、弱ってるんだな……。



「かーちゃん!仲間が来てくれた!」



サイの声に、巨龍が僅かに身じろぎする。アラシは巨龍に近づくと、優しく話しかけた。



「聞こえるか?さっきサイから、この薬草すら効き目がないって聞いたんだ。それで今から、解呪の魔法をかけてもらう」



巨龍は苦しげに唸る。だが、話は理解してくれたようだった。



「解呪のために人が近づくからな」



アラシはそう言って、ミュウに頷いて見せる。



「ミュウ、大丈夫か……?」



ルナと違って、アラシの2倍程もある巨龍だし、さすがにミュウも怖いに違いない。思わず声をかけたら、緊張した面持ちではあるけどしっかりと頷いて、ゆっくり巨龍に近づいた。


解呪は直に触れて行う方が、効果が高い。


ミュウはおずおずと巨龍に近寄ると、静かに体に手をあてる。俺まで緊張して、口の中がカラカラだ。



頑張れ!ミュウ!



ブツブツと口の中で呪文を唱えるミュウ。ふわりとした優しい光が巨龍を包む。その光は暫くの間、星のように柔らかく明滅して、やがて消えた。


地鳴りのように続いていた、巨龍の唸り声が少しずつ小さくなっているみたいだ。


解呪は、成功したんだろうか…?


静寂が辺りを包む。


突然、山のように見えていた巨体が煙のように消えた。



「えっ?」



慌ててきょろきょろと周りを見回すと、床に横たわる美女が!



「う……」



小さな呻き声を漏らしながら、美女がゆっくりと起き上がる。虚ろな瞳が、俺達を捉えた。



「ありがとう……」



一言、口にするのがやっとの様子だ。深く息を吸いながら、美女は途切れ途切れに言った。



「少し……楽に、なったわ……」


「解呪の魔法が効いてるって事は、あんた、呪われたな」



アラシが厳しい顔で、美女に告げる。



「しかもかなり高度な呪いみたい。私じゃ完全には解けないよ。……ごめんなさい」



ミュウもしょんぼりとうなだれている。



「かーちゃん!……し、死んじゃう、かと……思っ……」



サイは美女に飛びついて泣きじゃくっている。


なんとかしてやりたいなあ、だって呪いは時間をかけて、確実に体を蝕んでいく。


ふと、アリアの優しい笑顔が浮かんだ。



「アリアなら、高度な解呪の魔法出来るんじゃないか?」



ミュウは苦い顔で頷いた。



「多分アリアか、私のパパならいけると思う。でも、アリアは聖魔法使うと自分もダメージ受けちゃうし……パパは旅に出ちゃってるしなぁ」


「アリアなら、ダメージ受けたとしてもやってくれるよ」



こんな小さな子の母親を、みすみす死なせる筈がない。俺達は解呪の可能性を求めて、一度アリアのもとへ戻る事を決めた。


俺達の周りには、解呪の魔法を使えそうな人がすぐに思い浮かぶけど、実は習得している人がすごく少ない、レア魔法だ。そこらの教会の神父さんなどでは、ほとんどが習得していないだろうし。


ダンジョンから出て、村長さんに母子を無事に助け、ドラゴンももうダンジョンに居ない事を告げて、俺達は早速村を出る。


まずはアラシの転移魔法でギルドにひとっ飛び。でもそこからは、俺達の村まで地道に歩くしかない。アラシも行った事がないところには転移出来ないし、この人数は乗せられないからだ。


母子を気遣いながら、少しずつ歩みを進める。ミュウが定期的に解呪の呪文をかけているから、かろうじて歩ける母龍。顔色は土気色で、いつ倒れてもおかしくない。


ヒヤヒヤしながら歩く事3日、俺達はなんとか村にたどり着いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ