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ダンジョンの巨龍

次の日俺達は、早速またギルドに来ていた。


なんせ俺達の目標はデカい、ゆっくりしていられる心境じゃなかったからだ。



「たったの2日で依頼をこなすなんて、驚いたわぁ」



お姉さんが褒めてくれるけど。



「それは、アラシが」



言いかけた俺達をアラシが遮った。



「こいつらのおかげで、手早く済んだんだぜ?こいつらの増幅術がなかったら、結構てこずった依頼だった筈だ」



アラシは俺とミュウの頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら、嬉しそうに笑ってくれる。


お世辞かも知れないけど、でも嬉しいかった。俺達でも、少しは役に立ってたのかも知れない。ミュウもくすぐったそうに笑っていた。



「で、次の依頼なんだが」



おもむろにアラシが切り出す。



「また救援系の依頼をピックアップ出来るか?まださすがに討伐は難しい」



そう言って、俺達を見るアラシ。


アラシが次の依頼も一緒に行ってくれるつもりなんだと分かり、嬉しくなって、思わず笑いながらミュウをつついた。ミュウもホッとした表情だ。


お姉さんは、「いいのがあるのよ~」と、新しい依頼を紹介してくれる。今度は、かなり詳細な情報が記載された、正式な依頼書だ。



「へぇ、テレストリアルか…確かエリクサーが採れる、最果ての村だよな?」



アラシがお姉さんに確認する。


最果ての村か……遠いのかな。またアラシの殺人的高速飛行で行くんだろうか、一気に盛り下がるな……。


俺の落胆には気づかず、お姉さんは機嫌よく説明を続けている。



「そうそう!その、エリクサーが採れるダンジョンに、ドラゴンが居座ってるらしいのよ」


「それは討伐じゃないのか?」



アラシが呆れた声を出す。



「それが違うんだなぁ。土地柄って言うのかしら、ドラゴンが薬草を求めてくる事は割とあるんですって。身体が癒えれば勝手に出て行くから、放っといていいらしいの」


「凄ぇ土地柄だな」


「ドラゴンが居る場所はダンジョンの最奥で、エリクサーの元になる薬草がある場所までは来ないから、普通だったら放っとくんだけど、なぜか子供がいたんですって」


「え?人間の子供?そのダンジョンに?」



ミュウがビックリしたように声をあげる。



「そう。迷子かと思って助けようと声をかけると、奥に逃げちゃう。奥にはドラゴンがいるし、ダンジョン内にもモンスターがいるし」


「助けなきゃ!」


「…っていう、依頼なワケね」



アラシが納得、と頷いた。


事情を理解した俺達は早速旅支度にとりかかる。



「さて、最果ての地に一刻も早く行きたいワケだが」



アラシが俺達をチラリと見た。

うう……高速飛行、長距離だとさらにイヤだ。



「ははっ!情けない顔するなって!」



アラシが爆笑している。

俺達にとっては、結構死活問題なんだけどね…。



「大丈夫。オレあそこは一回行った事あるから、転移の魔法でひとっ飛び。良かったな!」



言うが早いか、俺達をガッと抱えてアラシはジャンプした。


次の瞬間、俺達は見知らぬ村に立っていた。急に現れた筈の俺達にも、村の人達は意外と無関心だ……が俺達は初めての転移にテンションMAXになってしまった。



「おおー、何これ転移!?アラシ転移も出来るのか!」


「凄い!凄いよアラシ~!一瞬で他の街についちゃった!」


「はいはい、落ち着いて。変に目立っちゃうからね」



思わず跳ねそうになる俺達はアラシに宥められつつ、大通りを北へ誘導された。



「さて、早速聞き込みだな」


「村長さんのところに行くの?」



俺がキョロキョロしている間に、話が決まってしまったらしい。俺達は、まずは村長さんに話を聞く事になった。



村長さんの家は高台にあって、重厚なお金持ち感たっぷりの装飾が施されている。


村長さんは、俺達がドラゴンズギルド《ライル》から派遣されて来たと知ると、丁寧に対応してくれる紳士だった。



「すみませんが、現状分かっている事を全部話していただけますか?」



アラシが話を進めてくれる。アラシは見た目は俺達よりちょっと上くらいだけど、やっぱり生きてる年季が違うから、こういう時に凄く頼りになる。



「はい。ダンジョンでドラゴンが確認されたのは一週間ほど前です。それ以後もエリクサーの元になる薬草がある場所までは、冒険者の方達に開放しておりました」


「子供が確認されたのは?」


「…3日ほど前です」



なぜか急に、村長さんは歯切れの悪い話し方になった。



「子供も入れるダンジョンなんですか?」


「ドラゴンが確認されてからは許可していませんが……通常は、危険度は少ないダンジョンでして。特に規制してないんですよ」


って事は、一週間以上前にダンジョンに入った子供って事?



「その……ドラゴンが確認される前にダンジョンに母子で入った方達が、今だ帰ってきておらず」


「それ、ヤバいんじゃないの!?」



思わず、という感じでミュウが叫ぶ。



「ですから、こうしてあなた方にお願いしているのです」



村長さんは、力なくうな垂れた。


こうしちゃいられない。

俺達は村長さんの家をでて、その足でダンジョンに向かった。


ダンジョンは洞窟のようになっていて、中は湿気を帯びて蒸し暑い。中へ進むにつれて、どんどん蒸し暑さが増してきた。


やっぱり特殊な薬草が生えるダンジョンの気候が普通なワケないよな……とグチりながら、俺たちは確実に洞窟の中を進んでいった。


こんな中で一週間か、その母子は大丈夫だろうか……。


幸いモンスターは数も少なく、さほど強いわけでもない。俺とミュウで軽く倒せる程度だ。俺達のレベルアップのためにアラシは手を出さず見守ってくれてるんだけど、それでも全然支障がない。


村長さんが言ったとおり、この洞窟は本当に危険度が少ないところなんだろう。



「ホントずいぶん曲がりくねったダンジョンね。風の通りが悪いのも分かるわ」


「うん、どんどん湿気がキツくなるな。変に汗がでて気持ち悪ぃ」



不快指数MAXで、グチしかでない。吹き出る汗にぐったりしてきた時、不意に、円形状に広い空間に出た。


アラシが説明してくれる。



「ここが、エリクサーの元になる薬草が群生する場所。冒険者が採取出来るのは、最大2株までだけどな。…どうする?採取するか?」


「もちろん!!」



不快な思いをしながら、こんなところまで来てるんだ。見返りは多い方がいい。


薬草を2つ摘んで、奥の立ち入り禁止区域に入る。ここまでは曲がりくねってはいるものの、一本道だった。


ここまで誰にも会っていない。

……死体らしきものも、見ていない。


どちらにしろ、何かあるならこの奥だ。


俺達は、脇道を見落とさないように、慎重に進んで行く。わずかな物音も聞きのがさないように、足音さえも気にしながら歩く。


どれくらい進んだのか……かすかに、すすり泣くような声が聞こえてきた。



「泣いてる……?」


思わず呟くと、二人から無言で睨まれた。


……そう言えば冒険者達が子供に声をかけたら、奥に逃げたって言ってたっけ?


それは避けたいな。

奥に行けば行く程、ドラゴンとの遭遇率が高まる。


こっちにもドラゴンがいるとはいえ、体調不良で機嫌が悪いだろう見ず知らずのドラゴンにはあまり会いたくない。


俺達は泣き声の主に出来るだけ悟られないよう、細心の注意を払いながら奥へ奥へと進む。


やがて、膝を抱えて泣いている、小さな子供の姿が見えてきた。



良かった……、生きてた!!



とにかく嬉しい!


ただ、子供はひとりぼっちでしゃくりあげて泣いている。母親はどうしたんだろう。


その時子供が、驚いたようにバッと顔をあげた。固まったみたいに驚愕の瞳でこちらを見ている。


気付かれたか…!



機敏に立ち上がり、ダンジョン奥に走り出す子供。


なんで逃げるんだよ!

助けに来たってのに…!



「待って!助けに来たのよ!?」



ミュウの叫びにも、見向きもせずに奥へ奥へ走る。追いかける俺達も、自然にダンジョンの奥へ奥へと近づいて行った。



「やべーな……大人げねぇけど、いっちょ本気だすか!」


言うが早いか、アラシが一気に加速する。さすが風龍、スピードアップ系はお手の物だ。あっという間に距離が縮まり、ついに子供を手中に捉えた。



「はっ、離せっ!」



子供が半狂乱になって暴れまくる。でも、どんなに暴れたところで、もちろんアラシの腕からは逃げられない。少し暴れ方が大人しくなってきたところで、アラシはその子にこう囁いた。



「暴れるな、って……!オレもドラゴンだ。ほら、分かるだろ?」

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