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月見の井戸

アラシが仲間になったと聞いて、受付のお姉さんがホッとしたように紹介してくれたのは、救援要請の依頼だった。


北の方から弱々しい、「助けて…」「早く…早く出して…」といった、ドラゴンの嘆きの声が、途切れ途切れに聞こえるという。まだ声の発生場所も特定出来ておらず、探査も含めての依頼らしい。


風龍であるアラシは、風の中から遠くの音を聞きとる能力があるって事で、こういった探査系の依頼が得意なんだそうだ。


完全にアラシのおまけの状態だと思うと地味に凹むけど。


ミュウもシュンとしているが、こればっかりは旅にでたばっかりで実力もない以上、仕方ない。とにかく何か少しでも役にたてるように、頑張るしかないよな!



バーで腹ごしらえを済ませ、俺達は北へ向かう。


ざっくりと「北」という情報しかないから、アラシが件の声をキャッチするまでは、ただ黙々と歩くしかない。2キロ程無言で歩いただろうか。ふいにアラシが「聞こえた…!」と声をあげた。


良かった!無言もう限界だった!


喜びを思いっっきり!表現したいが、アラシがメッチャ集中してるから我慢した。しばらく集中していたアラシは、はぁっ…と大きく息をつくと、首を振った。



「まだ遠くて、内容が聞き取れないな。方向は間違ってないから、しばらくこのまま歩こう。ちなみに、可愛い女の声だったぜ?」



よっしゃ!元気100倍!

頑張って歩こう!


ミュウが「ホント現金なんだから」と、呆れ顔でグチるけど、おっさんのダミ声より女の子の可愛い声の方が助けようって気になるのはしょうがないじゃないか。



「だって何キロも歩くんだし?ゴールのご褒美考えながらじゃないと、テンションあがんねぇよ」


「そうだな、可愛い娘だといいな。ま、ドラゴンだけどな」



アラシが楽しげに笑いながら、サラッと現実に引き戻す。次の街に着くまで、ホンっっとに地味に歩くだけなんだから、ちょっとくらい夢みさせてくれたって、いいと思う……。


だだっ広い草原を、俺達は他愛もない話をしながら歩いていく。たま~にザコモンスターが出るくらいで、旅路は平和なもんだ。



「なぁ、アリアってどんな感じなんだ?ギルドの古株ドラゴンから、凄い、って話はよく聞くんだけどさ、イマイチ掴めないっていうか」


「超!美人だよ~!」

「うん、美人だよな」

「優しくて、料理もうまくて、理想のお母さんだよね?」

「俺にはすげぇ過保護だけどな」

「頭もいいし、魔法の知識ハンパない」

「ただ、ちょっと天然だよな」



口々に言う俺達を、アラシは面白そうに見ている。俺にとっては育ての親、でもあの村で育った人間にとっちゃアリアは第二の母みたいなモンで、誰だってアリアが大好きだ。もちろんミュウだって。


アリア元気かな。

ほんの数日会ってないだけなのに、凄く恋しい気がする。


アラシは一通り俺達のアリア評を聞き終えると、「アリアがめっちゃ愛されてるのはガンガン伝わってきたぜ?」と笑った。



「あと、お前らが結構なマザコンだってのも分かったな!」



この野郎…!

聞きたい、って言うから頑張って話したのに!


それから4キロ程北に位置する街、カースで、俺達は宿をとった。駆け出し貧乏冒険者の俺とミュウは、野宿する気マンマンだったが、アラシがどうしても宿に止まると言い張るからだ。



「風呂入れないとか、あり得ないぜ?メシも美味いの食いたいし。頼む!おごるから」



ドラゴンってそんなキレイ好きなわけ…?


予想外だが、おごると言うなら文句はない。長年生きてて、そこそこ金もあるアラシ様に、気持ち良くおごって貰う事にした。


ゴチになります!



宿のメシは最高だった!

豪快な女将さんだったが、料理の味付けは意外と繊細で、バール貝のクリームパスタもザザ豆の冷製スープも絶品。


俺達は大満足でゆっくりと風呂に入り、今はふかふかベッドでゴロゴロしている。アラシが「声を探ってみる」と精神集中しているからだ。



「………つながった!」



一言だけ漏らして、アラシはふたたび精神を集中している。時々無意識に頷いているところを見ると、相手と交信出来ているのかも知れない。


見守る事いくばくか。



「よし!目的地がハッキリしたぜ。コンルートっていう、こっから北に丸7日くらい歩いた街だな」



な…7日か…。なかなかだな。



「そんな顔すんなって!明日はオレが飛んでやるし。お前ら二人くらいなら、乗せられるだろ」


「ええっ!飛ぶ!?飛ぶの?俺達も?」



爽やかに笑うアラシの後ろに光り輝く後光が見えた。


うわぁ~!

うわぁ~!凄過ぎる!



「気持ちいいぜ~!楽しみにしてろよ?」



アラシの言葉に、イヤでも期待が高まる俺たち。


マジか、空を飛べる日が来るなんて!早く明日になって欲しくて、俺とミュウは、いつもよりも早くベッドに入った。





その夜、不思議な夢を見た。



暗闇の中で頭上から光が差し込んで来るんだ。


見上げると、まん丸に空いた穴から、冴え冴えとした満月が見える。深い、深い、穴の中から……満月を見上げてるみたいだった。


目が覚める寸前、冴えない男がウードという楽器を奏でているのが見えた。俺を見下ろす笑顔が優しくて、なぜか、幸せだった。




ビッッッ……クリして目が覚めたし!


なに!?今の夢!

俺どこの乙女なんだよ!?


飛び起きた俺に驚いたのか、アラシが真顔で「どうした?」と聞いてくる。



え……あの……

うう、言いたくないっ……!なんか超恥ずかしい。



「あ……いや、なんか、夢見悪かったっつうか……気にしないで」


「夢?どんな?話してみてくれ」



アラシが真剣な顔で聞いてくる。



「いや、あの……なんか穴の中から、月、見上げてるみたいな。別に、話す程の事じゃ……」



しどろもどろになる俺。

アラシはなぜか考えこんでいる。



「カイン、その夢、男が出て来たか?」


「えっ!なっ…なんで知ってるんだ!?」



慌てる俺を見て、アラシは吹き出した。



「何、赤くなってんだよ。それ、ルナだから」



赤いと言われると、余計に恥ずかしい。ルナとか、意味わかんないし。



「カインは意外と感応力が高いんだな。多分その夢、今から助けに行くルナってドラゴンの記憶だよ。夢に出て来た男、弦のある楽器弾いてただろう?」



オレにも、ちょいちょい断片的に見えるんだよ、とアラシは笑っている。


な、なんだ。

良かった。ムダにビビった……俺に乙女ちっくな妄想癖でも出来たかと思ったわ。



それにしても、あの夢がルナってドラゴンの記憶だとしたら…彼女は、深い穴の中にいるんだろうか。


あの記憶からは、胸があったかくなるような、幸せな気持ちしか生まれなかった。彼女が助けを求めるなんて、あの気持ちからは想像出来ない。


あの夢に出て来た男は、彼女が助けを求めてるってのに、何をしてるんだろう。


わからない事だらけだ。


アラシが言ってた街に着けば、全てがわかるのかな…。


考えてたらミュウも起きてきた。今日のミュウは、長い金髪を複雑に編み込んである。



「すげぇな、どうなってんだその髪」



「可愛いとか、もうちょっとマシな事言えないかなぁ。…まぁ、今日は飛べるっていうから、風にも負けない突風対策ヘアなんだけど」


「なんだよ、実用性オンリーじゃねえか」



くだらない事を言いあいながら、食堂に向かう。朝ご飯も絶品だった。


食べながら、アラシは「ちょっと大事な事なんだけど」と、俺達の顔を交互に見る。



「お前達ってさ、魔法の威力を強化する系の魔法って、何か使えるか?」


「あ、うん。二人とも増幅術、使える。他人にもかけられるよ?」



なんせ俺達の村は、子供達をあわよくば優秀な冒険者に育てようと思ってるから、村人総出で役に立つスキルはなんでも教えていくんだ。


増幅術は回復の次に必ず教えられる。


自分や他人の術や力を増幅出来れば、重宝がられて仲間も見つかりやすい。適性がある子供には、徹底的に教え混まれる術だ。



「増幅術か!強化系でも上位じゃねぇか!術も力も強化出来る」



え?上位なのか?

俺達の村では、多分、村人の三分の一はこの術使えるけど。



「よし!なら安心だ。早速出発しようぜ!」



アラシが爽やかな笑顔で立ち上がった。

いよいよ空が飛べるのか!


俺とミュウは嬉しくて、お互いの肩を叩きあい、外に向かってダッシュした。

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