八百屋な少年は冒険者見習いになった2
ジークは付き添いの冒険者2人と一緒にシルバリオンの外の草原へとやってきた。
付き添いの二人は男で名前はソドメとゴモレ。双子だ。二人とも中級のランクCの冒険者である。
「郊外の草原にゃあ強いモンスターはいねぇが、油断わならねぇぜ」
「まあ俺たちがいれば危険はねぇけどなぁ!」
二人はご機嫌だ。
ジークの付き添いになるために日も上がらない早朝からギルドで待機していたのだ。
若干目の下に隈があって不安だがジークはそれでも感謝している。
「付き添いいつもありがとうございます」
「「いやいや良いってことよぉ」」
「うわぁー 草原っていつ来てもいいところですね! 風が気持ちいい」
街から出たことのないジークは行く場所すべてが新鮮だった。
草原以外にも森や川、湖にも依頼で訪れた。
どこも市場には出回らない野菜や果物があって楽しかったのだ。
「そうだな!」「まったくもっていい気分だ!」
「ところで依頼のモンスターってあの犬みたいなのですか?」
しばらくだだっ広い草原を歩いているとジークが目を細めて遠くを指差す。
ソドメとゴモレよりも早くモンスターを見つけたのだ。灰色のツブツブが見えてきたのだ。
実はジークの視力は信じられないほど上がっていた。
これは断じてドワーフ族の血統によるものではない。
「ん? よく見えたなぁ!」「ガルムはアレであってるぜぇ」
「たくさんいますね」
三人はガルムの群れに気付かれない様に風下にまわって接近する。
「群れは厄介だなぁ 俺たちだけだったら何の問題もなく突撃できるけどよぉ」
「ジークちゃんが強くなるためだぁ 一匹ずつ誘い込むかぁ」
「どうやって?」
「「まあ任せとけって!」」
ソドメとゴモレがやって見せたのは力技だった。カウボーイロープを投擲し、遠くから一匹のガムルの首に見事に当てると。二人してそのロープを全力で引っ張ったのだ。
首が締まったガルムは叫ぶこともできず、二人に引きずられ。
気が付くとジークたち三人の前に首の絞められた一匹のガルムが唸っていた。
「すごいっ すごいです!」
「「さあ! ジークちゃん コイツと闘ってくれやぁ!」」
「え?」
冒険者が乱暴なのは根っからだった。
なんとソドメとゴモレはガルムをロープから解放してジークと対峙させたのだ。
「「頑張れジークちゃん!」」
「ガルルル!」
さすがにジークも数か月ちかく見習いをやっているとこれにも慣れた。
腰からロングソードを引き抜いて正眼に構える。様になって見えるがただの見よう見まねの構えだ。
威嚇するガルムに向かって先に攻撃を仕掛けた。
突きをガルムの顔目掛けて突き出す。
「はぁ!」
その突きの速さは見習い冒険者のスピードでは無かった。
ガルムは何もできずに串刺しにされて絶命していたのだ。
ソドメとゴモレもジークのスピードに目を見張る。
それだけではない。ジークが踏み込んだ場所が草が禿て地面がむき出しになっていたのだ。
「「やっぱはえぇなジークちゃん!」」
「そうですか?」
「俺らよりもはやくねぇか・・・」
「対応できなくはねぇけど気を抜いたら俺らでも刺されてたかもなぁ・・・」
「「さすが我らがジークちゃんだぜ!」」
冒険者というものは弱い奴が嫌いだ。そして強い奴が好きなのだ。
見習いなのに、美少女なのに、強い。どれも冒険者がジークを気にいる理由だった。
「将来が楽しみ過ぎてたまんねぇな!」
「ああっ 楽しみだ! きっとエロ強い美女冒険者になってくれんだろぅぜぇ!」
すでにガルムを解体に集中していたジークに二人の興奮した心の叫びは聞こえなかった。
ちなみにジークが解体に使っている解体用小道具は件の竜の鱗で作ったものだ。一度も研いでないが刃こぼれ一つない。
ジークは二人がロープで手繰り寄せてるガルムを一匹ずつ倒しては解体の繰り返しで、気が付くと30匹以上のガルムを討伐していた。
「「そろそろ帰るかぁ」」
「はい!」
シルバリオンへと帰路に付こうとしたが、2人は油断していた。
ジークは見習いなので注意できないのは仕方なかったが、ソドメとゴモレはミスを犯していたのだ。
解体をジークに学ばせるがためにノータッチだったのが悪かった。
解体ででた不必要な廃棄部分をジークはそのままそのあたりに捨ててしまっていたのだ。
本来は土の中に受けるのが草原での解体処理の仕方なのだが、教えていなかった。
血に匂いを草原に吹く風が、最も呼び寄せたくないモノを呼びこんでしまった。
「ジャアアアー」
三人の目の間に大きな大蛇が聳え立っていた。10メートルは優に超えているだろう。
この草原の主であるキングアナコンダだ。アナコンダとキングコブラを足したような姿の巨蛇。
「マジかよぉ! チィ!」
「こりゃあやべぇな」
「大きい・・・蛇?」
またの名を『熟練喰らい』ともいう。
熟練の冒険者であってもこのキングアナコンダにはやられてしまう。そんな危険なモンスターだ。
「「逃げろジークちゃん!」」
ソドメとゴモレがジークを逃がすように戦闘態勢を取ろうとした――
しかし、それよりも早くジークは剣を携えて突撃してしまった。
「「ジークちゃあぁあああああんんんん!?」」
突然のジークの行動に二人は素っ頓狂な声を出して止めようとしたが時すでに遅し。
ジークはキングアナコンダの恐ろしさをまったく知らなかった。ガルムと同じぐらいのモンスターだと思い先手必勝だと駆けだしたのだ。
「てやぁ!」
ジークは跳躍してロングソードをキングアナコンダを頭から縦にに一閃した。
ジークはそのまま着地する。するとキングアナコンダはジーク目掛けて多く名口を開いた。
丸のみにしようとして動いたその瞬間。
「ジャ——
キングアナコンダの眉間からゆっくりと切れ目が現れ、血を吹き出して真っ二つに割れたのだ。
ジークの一閃はキングアナコンダをパックリと両断していたのだ。
衝撃と共に二つに割れたキングアナコンダが草原へ倒れこむ。
立っていたのは血まみれになったジークだった。
「やりました!」
「「・・・」」
返り血を浴びて真っ赤になりながらニコニコと微笑むジークに二人は何も言えなかった。
ちょっぴり無双しました。