八百屋な少年は初恋をする7
ジークはアースレイの執務室で絶賛正座させられていた。
その太ももには重石代わりにノアが座っている。
フェリアとのことを根掘り葉掘り聞きだされたジークはイライラしていた。
アースレイに長時間の間ぐちぐちと言われ続け、とうとう爆発した。珍しく反撃にでた。
「それだけ人の心が分かって悪意も分かってるなら、スラムの子供たちに手を差し伸べたり、闇ギルドとか取り締まったらいいじゃないですか! 俺なんかの心読んでるならそうした方がいいと思いますけど!」
「ジーク。君の訴えはもっともだけどね。それは出来ないよ」
「そうですか。自分のためにしか使いませんもんね」
「自分のためにも私欲で使うさ。この魔法は私自身の能力なのだからね」
でも。とアースレイは続ける。
「一番はこのシルバリオンの為に使っている」
「ん~ ノアも不思議でしたー 危ない人たちは捕まえた方がいいなーって!」
「でしょ、俺なんか覗き見してる暇ないと思います!」
「ノア嬢の言うことはもっともだけれど、それはさっきも言った通りできないんだよ。第一に前提としてこの監視魔法は秘匿中の秘匿なんだ。この能力があることが国外に知られでもしたら二度と他国との外交は不可能になる。最悪、戦争になりかねない」
「ん! そっかー」
ノアはこめかみを人差し指で押さえてクリクリと動かして天使の血統の力を発揮する。
アースレイの意図を読み取って、ジークをほったらかしにしてなったしたようだ。
「ノア嬢は分かってくれたみたいだね」
「俺だって分かってますよ。今の話を聞いて、秘密にしなきゃ厄介なことになるぐらいは!」
「そう・・・とても厄介なことになるね。ジークは知らないだろうけどノアの血統の元である天使族が滅んだのは、人の心を読み過ぎた所為なんだ。味方であれば重宝できるが、敵であれば怖くて仕方がない。情報が筒抜けなんだから。天使族と同様に恐れられて忌避されて滅ぼされる。私のこの能力は、それと全く同じなんだ。ただ殺されたり滅ぼされたりするのが私だけなら隠す気はないさ。でも私=国となり得る。国が滅ぼされるかもしれない」
「・・・」
ジークは黙ってアースレイの話を真剣に聞き始めた。
ノアもジークに習って真剣な顔つきで隣に正座する。
「もしも私がこの能力をフルに使ったとしよう。スラムの子供たちに手を差し伸べ、スラムの人々を救った。そして信じられないほどのスピードで闇ギルドを取り締まった。その噂はすぐに広まる。シルバリオンにくれば孤児は救われる。闇ギルドの無い良い国だ。なんて広まったら各国からその調査が入るだろうね。スラムや闇ギルド許容している国もあるけれど、基本的にはスラムも闇ギルドも解体したい国の方が多いから。それでいざ調査して見れば指導したのは王族だった。何かがおかしい事にはすぐに気が付くだろうね」
「ん~ 悪化する?」
「そう。調査しただけじゃ私やこの力を使える王族が敏腕なだけしか分からない。でも他国はこう思うだろうね。何か裏がある。諜報部員を使って調べよう。せっかく闇ギルドを解体したのに、その奴等なんかよりももっと腕の立つ各国の諜報部員が送り込まれてくるんだ。でもそれすらも見破ることができる。悪意には敏感だからね」
「じゃあそいつらも追放したら良いじゃないですか」
「それも可能だ。でもね危険すぎるんだよ。何故諜報部員が見抜かれたのかって新しく疑問を与えることになる。そのうちに賢い者なら気が付くだろうね。なにかしらの力を持っていると。そして思い当たるのは天使族の血統だ。古代に滅んだけれど世界中の国々はいまだに天使族を恐れている。そして私や王族は天使族の血を継いでいると憶測するんだ」
「え!? それって勘違いじゃないですか!」
「勘違いでも能力としては同じなんだよ。相手の心を見抜くという事には変わりない。それが知れ渡った途端にシルバリオンはまず干される。外交が止まってこっちはオープンなのに鎖国状態になるかな? まあその辺は他国の対応によるから確定は出来ないけどね」
「あれ・・・でもノアちゃんって?」
「そう。やっとノア嬢の稀有さと危険性に気が付いたかな」
「ん! ノアはジークお姉ちゃんに守られてる!」
アースレイがわざわざ10にもなっていない子供のノアを囲い込んでいるのもそういった理由があった。もしもノアが天使の血統だという事がバレた誘拐程度の話では済まないだろう。それこそ奪い合いや暗殺の対象になることは間違いない。
まさにアリス並みの化け物であるジークが現れたことは天啓だったのだ。自分の護衛だけでなく、ノアを守るのに最適だったのだ。
「だから大々的にはスラムに手を出すことも闇ギルドを解体させることもできないんだ。まあこの間のジークの祖父と師匠らには感謝してるよ。ずっと潰したかった闇ギルドを半分以上消し去ってくれたからね」
「ん! でんかは孤児院たくさん作ってる!」
「え? そうなんですか?」
「スラムの子供たちは年々減っているよ。急激じゃなければバレないさ」
「・・・なんかスイマセンデシタ」
「いやいいよ君が国に対して色々と考えてくれているなんて将来王妃になるには良い事じゃないか」
「ぬあ!? 王妃になんてなりません! なるなら王様でしょうが! ちがう! どっちにもなりませんって!」
慌てて否定するジークだが、ノアが心を読む動作をしているのを見てドキリとした。
実は今の生活がそのまま続くなら悪くもないかなっとほんのちょっとだけ思っていたからだ。
「ん~ ジークお姉ちゃんはちょっとなってもいいかなって思ってる!」
「だから読まないでぇえええええ!」
「ほう! それはいい! 挙式はいつにしようか」
アースレイは内心ほくそえんでいた。
監視魔法をフルに使ってジークを心のストーキングしている話から逸らせたのは間違いない。
「ん! でんかはこれからもストーキングするって!」
「ノア嬢!?」
バラされたアースレイにジト目で詰め寄るジーク。一発ぶん殴ってやろうかと思ったが、こんな美男子に見えてもアースレイは女だ。手をあげはしなかった。
「殿下覚悟は良いですか?」
「な なにをする気かな?」
「ん! おーひ様にチクってドレスの刑!」
ジークが思っていることをノアが代弁してくれた。
「それだけはやめてくれ! 頼むからね! もう覗きはしないから!」
「本当は王子じゃなくて王女様なんだから、ドレスを嫌がっちゃダメですよ」
「ノアもそう思う!」




