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八百屋な少年は初恋をする5

あっちにフラフラこっちにフラフラ。

最初はドネルケバブから始まり、串焼き、チキンやポテトの揚げ物、たい焼きのような粉物、エトセトラ。


食べ物のいい匂いに誘われるフェリアを手を引くジークはヘロヘロになっていた。

それでもジークは楽しかった。食べてうれしそうにするフェリアを見てジークも嬉しくなった。


これが恋なのかなと薄々ジークは気づきかけていた。

そして初恋の相手がこんな変わった子だとは思いもしなかったのだ。


「・・・満足した。どれも初めての美味だった、ありがと」


「どういたしまして。喜んでくれてなによりだよ」


だが別れの時はやってくる。もう辺りは薄暗くなり、街灯がちらほらと灯し出している。


あっという間だった。

ずっと食べ歩きをしていたようなものだが、ジークにとってもフェリアにとっても最高の一時だった。


「・・・そろそろ行かなくちゃ」


フェリアがその別れを切り出した。

彼女の耳や尻尾は垂れさがり、言葉とは逆の感情を表している。


「そうだね。じゃあいいお宿を案内するよ」


「いい。自分で探す」


「いや、でもっ! フェリアは何処がいいのか知らないだろう? 俺が」


どうアプローチしていいものか分からなかった。

どうにかフェリアともう少し一緒に居たい。


「大丈夫。今まで一人でやってきた」


「そっかそうだよな」


ジークは頭をガシガシ掻いた。

何を言えば繋ぎ止められるのか分からなかった。


「うん・・・さよなら」


何とも言えない静寂が二人を包む。

ジークがギュッと拳を握ってうつむいていると、フェリアが踵を返してジークから離れていこうとした。

その後ろ姿は寂しげで放っておけなかった。


「まって!」


「・・・なに?」


「ちょっとだけ着いて来て! 渡したいものがあるから!」


いらないと言われると思ったジークは、強引にフェリアの腕を掴んで走り出した。何も言わせないためだ。

意外とフェリアの抵抗は無くてただ黙ってジークに連れられていく。


シルバリオンの街は夜のにぎわいを見せる時間帯。

出店の照明や街灯のオレンジ色の光の中を二人は人々をかき分けて進んでいく。


「着いた。ちょっとだけ待ってて!」


着いたのはマズールの鍛冶屋の前。

以前ジークが陥没させた道は新しく舗装されている。そこだけがまだ汚れておらず綺麗なままだ。


ジークは鍛冶屋の中に跳び込んでいくと、数秒もしないうちに息を切らして出てきた。


「これあげる。是非使ってくれ、俺の自作なんだ!」


キョトンとするフェリアに差し出した手に握られていたのは、フェブニールの素材で作られたペンダントだった。

鎖の部分は銀で作られ、宝石のような黒色の鱗が丸く加工されていた。シンプルだがどこか高級感のある一品だ。前にマズールに見せた時は貴族なら言い値で買うだろうと言っていたレベルのものだ。


「・・・」


「フェリア?」


黙って下を向くフェリアは涙を流していた。ポツリとその雫が落ちている。

ジークがアワアワとしていると、フェリアが顔をあげる。


笑顔だった。

目じりから涙を流しながらも、今日一日見てきたフェリアの笑顔の中で一番の。

ジークは心臓がドクンと大きく刎ねた。やっぱり恋してたんだと確信した。


「こんなに楽しかったの初めてっ それ本当に貰っていいの?」


「もちろん! 俺も、その、楽しかった! そうだ、付けてあげるから後ろ向いて?」


「うん!」


先ほどの後ろ姿とは全然違った。寂しさなんかじゃなくて嬉しそうだ。

ジークはフェリアの綺麗な首にペンダントを付ける。

手を回してペンダントを通そうとした時、フェリアの呼気を感じだ。温かい。このまま抱きしめたい。そんな気持ちを押し殺してジークはペンダントの留め金を止める。


付け終るとフェリアがその場でクルリと回る。


「良く似合ってる」


ジークは思った言葉がそのまま出た。

灰色の髪のフェリアに黒いペンダントはお互い主張し合わなくいい感じにまとまっている。


「・・・ありがと」


「街灯に照らしてみて」


ジークに言われた通りにそのペンダントを光に照らす。すると真っ黒だった鱗の宝石がまるで万華鏡のように七色に輝いたのだ。


「すごい綺麗」


「フェリアみたいにね」


「————!?」


ジークも自分自身の言葉に吃驚して、言われたフェリアはもっと吃驚していた。

アースレイのアホの褒め言葉がうつったのだ。常日頃からジークが言われている。それがつい口に出てしまった。

やらかしたかなと思ったが、フェリアは嬉しそうにそのペンダントを握る。


「・・・大事にする。ジークに逢えてよかった!絶対に今日の事は忘れない!」


「俺もこんなに楽しい日は初めてだった」


「ジーク」


「フェリア」


名を呼び合って近づく二人の影は重なった。

ほんの一瞬の触れ合っただけ、それでもジークは嬉しかった。

初恋を成功させた。そう思った。


「また明日。会えるかな?」


「・・・」


フェリアは黙って首を横に振るだけだった。

冒険者の依頼の予定が詰まっているのだろう。ジークはめげずに合う約束をしようとする。


「じゃあ明後日は! いや、三日後でも四日後でもいつでもいい!」


「・・・だめ。私はもう・・・会えないよ」


「な!? どうして?」


「・・・ダメなの!」


泣き叫ぶようなフェリアのその声に、ジークはただ固まるしかできなかった。

フェリアの瞳には何かを決意したそんな強くて折れそうにない意思が宿っていたからだ。


「分かったよ。でも、いつかまた会おう」


頷いてフェリスは今度こそジークに背を向けて離れて行く。

ただ黙ってジークは小さくなっていくフェリアを見つめ真一文字に唇を噛み締めていた。

涙は流さない。そんなプライドだけだ。


「・・・さようならジーク」


小さな小さなフェリアの呟きはしっかりとジークの耳に聞こえていた。

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