八百屋な少年は蒼炎を燃え上がらせる4
「ザックリ話すとね、ジーク。君はすでに人じゃなくなった」
アースレイの言葉にジークは黙って耳を傾ける。
近からず遠からずジークはそんな気がしていたのだ。
「順を追って説明していくよ。まずあの邪竜の事からだね。あれは悪しき存在と手紙にも書いたけど、途轍もなく危なかったんだ。邪竜の名はファブニール。全ての生き物を殺し喰らう使命を受けた邪神の使徒でね、帝国に巣食う闇組織がその封印を解いてしまったんだ」
「封印されてたんですか?」
「帝国の立ち入り禁止地域にね。王族しか知らない情報をどうやって知りえたのか分からないんだけど、目下捜索中だと帝国は言っていたよ。それで目覚めたファブニールは帝都の一つの街を荒れ地にしたと思ったら、姿を消して今度はシルバリオンに急に現れたんだ。あのときは本当に驚いたよ瞬間移動でもしたかと思ったんだ。本当にアリスが居なかったらこの国は消え去っていただろうね」
「そのファブニールは聖剣じゃないと倒せなかったんですか?」
「その通り。毒素が濃かったからね。それにファブニールは不滅だから、完全に倒せたわけじゃないんだ」
「・・・」
「察しはついたかな? ファブニールはアリスに葬られて肉体を失くした。けれど血を媒体にして君の魂に憑依していたんだよ。あの時は流石に私も驚いたよ」
「見ていたんですか?」
「見ていたというより感じ取っていたが正解だね。これも本当は超級秘密事項なんだけどジークならいいかな。実はこのシルバリオンの街は巨大な魔道具でね」
「え!?」
「ああアリスもいたのか・・・まあいいか。君は口が堅いと言うより伝えるのが下手糞だから問題ないかな。監視感覚魔法が街全体に掛けられているんだよ。うーん説明が難しいな。簡単に言うとシルバリオンの国土で誰がどんなことを考えて何をしようとしているのか、それは善行なのか悪事なのかが私には分かるんだ。だから君が意図せずに血を浴びてしまったことも、力を使うたびに殺人衝動に苦しめられていたのも、城の地下でバルムンクと契約して仲良くなったのも、感じ取ってたんだよ。だからこそ君が逃げ出しても動じなかったんだけどね。まあ、まさか君がバルムンクを見つけるとは思ってもみなかったけど、あんな隠し部屋があったなんて知らなかったよ。あくまでシルバリオンに存在する生物に対してのみ有効だからね」
「酷い魔法ですね。シルバリオンの人たちはなにもかも筒抜けなんですね」
「あはは。これも代々嫁が逃げるのが悪いのさ」
「逃げたくなるようなことをする歴代王様たちが悪いと思いますけど」
「それを言われたら痛いなぁ」
「話を戻すけど。君の魂にとり付いたファブニールは虎視眈々と君を乗っ取ろうとしていたんだ。ファブニールは生き物だからねその悪事は読み取れたんだよ。魂から少しずつ君を竜の血統目覚めさせる計画だったみたいだよ。でもまあすぐにじゃないみたいだから放置していたんだ」
「それもどうかと思いますけど」
「こんな事いうのはアレだけど最初は君は死ぬと思っていたんだよ。邪竜の血は猛毒で放っておけば勝手に死んでくれるかなってね。もしも生き抜いて竜の血統に目覚めて暴走しだしたらアリスに殺させるつもりだったんだ」
ジークは知らなかった。モンスターの血には微量だが人体に対しての毒素が含まれている。
一般的に冒険者でも倒せるようなモンスターには極々微量しか含まれていないので、血を飲んだり浴びたとしても毒にはならない。
しかし邪竜ファブニールは違う。直に触れるものなら人は毒素に蝕まれ爛れて死んでしまう。そう古くから王族に言い伝えられていたのだ。
天馬騎士団もファブニールと上空で激戦を繰り広げてはいたが、絶対に接近戦はアリス以外には禁止していたのだ。
「!?」
「監視魔法も万能では無くてね。監視のくせに視覚情報が無いんだよ。あくまで事象と感情がデータとして私のここに入ってくるんだ」
アースレイは頭を指差した。
「まあファブニールを討伐したって伝えに帝国に外交へ行っていた帰りに、君を見つけてね。ここからはもう教えたよね。一目惚れだったんだ。邪竜にとり付かれていようが関係なかった。国宝の破邪のチョーカーを使えばいいんだってナイスアイデアだったんだけど・・・ダメだったねあれは」
「あれ国宝だったんだ・・・壊しちゃったんですけど弁償しなきゃだめですか?」
「いいよべつに。国庫に収まってホコリ被ってたし、なにより破邪しきれてないんだもん。使い物にならない国宝なんて無益だよ」
「よかったー」
「でも君が破邪のチョーカーを壊しちゃったときは少し焦ったけどね、すぐに君は聖剣を手に入れたから問題なくなったんだ。もう君の中のファブニールの悪意や害意は消え去っているよ」
「バルムンクのお蔭ですか?」
「そう言う事だね。聖剣の焔は最上級の浄化力を持っているからね。きっと魂も浄化したんだと思うよ」
「これがですか?」
ジークは手の平に蒼炎を燃え上がらせた。
アースレイは面白そうに蒼炎を見つめる。アリスもまじまじと観察していた。
「ジーク嬢と私の焔は少し違うみたいです殿下」
「ほう? なにが違うんだ?」
「ジーク嬢の焔はファブニールを取り込んでます。こんなに私の焔に意思はないです」
「ファブニールをかい? それは聖剣であってもファブニールは乗っ取ろうとしているのかな?」
「違うかと、その逆です殿下。聖剣がファブニールの力を取り込んでいるんです」
「それは面白いね。エクスカリバーはそんなことができるのかな?」
「たぶんできません。エクスカリバーの焔はなんていうか「消してやる!」みたいな感じです」
「・・・わかりにくいね」
「それでジーク嬢のバルムンクはの力焔は「食べちゃうぞ!」って感じなんです」
「アリスさんやっぱり語彙力あがってませんね」
「え!? 叩き込んでくれたんじゃ・・・」
「何の話をしてるのかは置いといてくれるかい?」
「「すいません」」
「私なりにアリスの意見を解釈するけど、エクスカリバーは消滅の焔で、バルムンクは吸収の焔。聖剣にも違いがあるという事だろう」
「吸収の焔・・・あ! アリスさんはこんなことできますか?」
ジークは蒼炎に身を包みアースレイの真後ろに瞬間移送した。
「消えたと思ったらこっちに!?」
驚くアリス。アースレイは何か納得した様子だ。
「それはバルムンクの力では無くてファブニールの力かな。だからあの時帝国から此方に突然出現したのか・・・合点がいったよ」
「すごい私も瞬間移動してみたいです」
「たぶんできますよ」
ジークは羨ましそうにするアリスを蒼炎で包もうとしたが――
「きゃっ」
「うわっ!? 弾かれた」
急にアリスの身体から白く輝く焔が燃え上がり、それを拒絶したのだ。
「これもエクスカリバーの力なのかもね。アリスを守ったんだろう」
「申し訳ありませんジーク嬢」
「いやアリスさんが謝ることじゃないんだけど・・・あのちょっといいですか?」
「なにかなジーク?」
「性別の話です。アリスさんに言ってもいいですか? いい加減に嬢って言われるのむず痒いんです!」
「え? まだ言ってなかったのかい? てっきり此処に来るまでに教えている者だと思っていたよ」
「あー じゃあ今から教えます。アリスさん、俺は男です、それでそのにいる王子は王女なんです。性別が逆なんですよ。だから嬢じゃなくて君か呼び捨てでお願いします」
「え? はぁあああああああ!? でででで殿下は女で、ジーク嬢が男ってことなのですか?」
「うんそうなるね。国家機密だから黙っててねアリス」
「し承知しましたっ」
「ついでにジークの要望を聞いてあげな」
「はい! では今後ジーク嬢のことはジークと呼ばせてもらいます」
閑話休題
「また脱線したけど最初の最初に話を戻すよ。もう邪竜と聖剣のそれぞれの能力については分かったからね。ジークが人じゃなくなったことについてを説明するよ」
ジークは生唾を飲み込む。
「聖剣に選ばれた人族は聖人という人を超越した存在になるんだよ。これはアリスもそうなんだ」
「アリスさんも人ではないんですか」
「私はそんな実感は無いんですが、そうみたいなんです」
「聖人ってどういうところが人じゃなくなってるんですか?」
「聖剣に選ばれた者はその剣を手にしたときに一度死んで生き返る。手紙にも書いたと思うけど、あの隠し部屋でジークは心臓が苦しくなったんだろう? 実はアリスもそうなんだよ。幼いころにエクスカリバーに触っちゃってアリスは三日間死んでいたんだ」
「らしいです私は覚えてないんですけど、火葬されなくてよかったです」
アリスの言っていることは冗談ではない。聖剣に触れて選ばれなければ精神が崩壊してしまうのだ。幾人もの猛者がエクスカリバーの使い手になろうとして挫折してきた。なかには廃人になってしまうものもいたのだ。
「火葬って・・・三日も。俺は一瞬でしたけど」
「そう! その違いがあるね。私の推測ではファブニールの影響だと思うんだ」
「死んだのは一瞬でいいほど元々強かったんだよファブニールの竜の血統の力の所為でね」
「そうだったんですか。血を浴びたのが良かったって初めて思いましたよ今日」




