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八百屋な少年の厄日2

驚愕して固まっている場合では無かった。


滝のように降ってくる血のことなどジークは頭に無い。全身が血で汚れていることなど気にもならない。


とにかくこの場を離れなければ、落ちてくるドラゴンの巨体に潰されてしまうからだ。


「ぎゃあああああああああ」


ジークはわき目もふらずに全力疾走する。

ドラゴンの胴体部分が落下してジークを押しつぶす刹那にダイブした。


地鳴りと共にドラゴンの首なしの巨体が朝市の会場を押しつぶす。


つづけて首より先の頭の部分が落下してきた。まるでジークを狙いすませたかのように大きな口を開いて。


「死ぬぅうううううう!」


ダイブしてしまって動けないジークの真上へドラゴンの頭が落ちた。


目撃した人は誰もいない。大空を旋回している天馬騎士団も下に人がいるとは思っていない。全員避難していることを前提に戦っていたの。


「あれ? 俺、生きてる!」


なんとジークは生きていた。ジークは牙がずらりと並んでいる開いた口の間にいた。奇跡だと誰もが思うが、目撃者は一人もいない。


ジークはドラゴンの口の間から這い出て辺りを見渡す。


巨大なドラゴンの生首など初めて見た。むしろドラゴン自体初めて見た。モンスターで初めて見て触れたのがドラゴンだ。

野菜にしか興味が無かったジークは無言でドラゴンの鱗をおそるおそる触ってみた。


「意外と冷たいしツルツルしてる」


そしてジークは現金な奴だ。つねに金儲けを考えている。


「これ高く売れるのかな? とりゃ!」


鱗の一枚を引っぺがし太陽の光に当ててみた。

真っ黒いのに光に当てるとまるでステンドグラスのように反射する。


「・・・絶対売れそう! 天馬騎士団が下りてくる前にもっと貰っちゃえ! トマトが全部だめになっちゃったんだし、このぐらいはいいでしょ!」


ジークの言うとおりせっかく潰して瓶詰めしたトマトは全部ドラゴンの巨体の下敷きだった。


ジークは調子に乗って鱗だけでは無く牙まで引っこ抜いて懐にしまった。

もう入らないぐらいにパンパンになるとジークはトンズラした。


「高く売れそうだ! 独り立ちして店を構える資金にしてやる!」


ジークは急いで家へと帰った。血だらけになっていることなどスッカリ忘れて。


「ただいまー」


家に帰るとゲオルとフレイに抱きしめられた。


「無事でよかった!」


「心配したのよ! まったく!」


「うげ ぐるじい」


お腹にいっぱいドラゴンの鱗や牙が入っている所為で、両親の抱擁は嬉しかったけど苦しかった。


「あ・・・父さんごめん。トマト全部だめになっちゃった」


「そんなことどうでもいい! あの場に残れなどと言って悪かった!」


「うん」


「お風呂に入りましょう 私達もトマト塗れになっちゃったわ」


フレイもゲオルも血まみれなジークをトマト塗れなのだと勘違いしていた。

当人のジークも血だとは言わなかった。もしも血なんだよとでも教えたならば、両親が大騒ぎするのが目に見えてた。


「そうだな! 久しぶりに一緒に入ろうかジーク!」


「ぜったいヤダ!」


両親がお風呂の準備をし出したすきを見て、ドラゴンの鱗や牙を自室の『たからもの箱』に大事にしまっておいた。


「ジーク! お風呂湧いたわよ!」


フレイの呼ぶ声が聞こえたので風呂場へと向かった。

今日は一番風呂をゲオルに譲ってもらって、湯船でのんびりする。


「あー きもちー」


「よし! 父さんが背中を流してやろう!」


ボーっとしているとガラガラと戸を開いてゲオルが乱入してきた。

見事なスッポンポンのムキムキのおっさんにジークは風呂桶をブン投げる。


「入ってくるなよ!」


「ぐはぁ!?」


いつもなら高笑いしながら余裕でジークの投げた風呂桶をキャッチするのに、今日はゲオルの顔面にクリーンヒットしたのだ。


「へ? 大丈夫父さん?」 


流石にジークもぶっ倒れたゲオルを心配して体を揺する。


「ふはははー 腕をあげたなジーク!」


ちょっとするといつものように高笑いして起き上がった。


「ったく!」


「むっ! ジークよ・・・お前っ!」


ジークの身体をまじまじと観察してゲオルは驚愕したように声をあげた。


「今度は何?」


「ますますママに似てきたな! なんか父さん興奮してきたぞ!」


「死ねクソオヤジ!」


この時は冗談だとジークは思っていた。いつもの事だったからだ。着ている服次第では女の子に間違えられるような容姿で、父とのこんなアホみたいなやり取りは日常だった。


まさか浴びてしまったドラゴンの血がジークの美貌をさらに女性の方向へと引き上げているなどとは気が付かなかったのだ。


先に上がったジークはフレイが用意してくれた服を着る。

その時にいつも以上に銀髪の髪がツヤツヤしていたり、肌がプルプルになっているなど分からなかった。

いつもきにしていないことは気がつかなかった。


お風呂からリビングへと戻ると既にフレイが昼食の用意を終わらしていた。

ジークの好きなものばっかりのラインナップだ。


「やったから揚げだ!」


「先に食べちゃっていいわよ。 でもしっかり手は洗うこと」


「はいはい。 いただきまーす」


椅子に腰を下ろして自分のフォークを掴んだ時だった。


バキッ 


木製のフォークがジークの手の中で木端微塵になっていたのだ。


「へ?」


「あら? もう古くなってたかしら?」


「・・・」


そんなはずは無かった。

今手の中にあるフォークだったものは去年にジークが作ったものだった。

やたら硬い木の枝を手に入れたのでフォークとスプーンを作ってみたのだ。


「まあいっか! また作ればいいし。違うの貸して母さん」


「ええ」


そして新しく受け取ったのは金属製のフォークだ。ゲオルやフレイが使っているのと同じやつだ。


金属製のフォークを手に握る。


すると今度はグニャリと折れ曲がってしまったのだ。

これには流石にジークもフレイも吃驚して目を見開く。


「食事をする道具で遊んではダメよ?」


フレイはそう解釈した。

とうぜんジークにそんなつもりはない。

いつものように手に取っただけだった。


「遊んでないし」


ジークはダメになった金属製のフォークをなんとなく元に戻せるんじゃないかと引っ張る。


「おおっ もどった」


折れ曲がったフォークは元に戻った。すこし他のモノより長くなった気もする。

そしてジークは慎重にフォークを握って、好物だらけの昼飯を堪能したのだった。





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