八百屋な少年は誘拐される4
「うーん迷った」
ジークは部屋を飛び出したはいいものの、迷っていた。
大きすぎる城な内部構造は異質だった。それもそのはず、もしも襲撃者などが入り込んでも迷う様につくられているからだ。
だだっ広く長い廊下に、装飾された壁、天井から吊り下げられているシャンデリア、ところどころに絵画や騎士甲冑の置物が、全く同じ仕様で繰り返し置かれている。
角を曲がっても、階段を下りしても、視界の映像が全く同じなのだ。
「窓もないしサッパリだよ。 どうしよう~」
ジークは半泣きだった。部屋から出さえすればもっと簡単に逃げられると思っていたからだ。
巡回している執事やメイドに見つからない様に甲冑の陰に隠れたりしてコソコソと移動する。
「うぅ~ 兎に角下に行く階段を見つけて降りてけばいいんだよね・・・自信ないなぁ」
何階かも分からないが、あの部屋がとても高い位置にあったので降りればいいという事だけは分かっていたのだ。
部屋に入るドアはたくさんあったけれど、どこも施錠されていた。執事やメイドが掃除した後にしっかり鍵をかけているのをジークは隠れて目撃した。
「優秀過ぎるでしょお城の従者さんたち。メイドさんも鋭いし・・・もう俺が逃げたのバレてるよねあの変態にも。でもなんで追いかけてこないんだろう?」
ジークが逃げ出してからすでにかなりの時間が過ぎているのに、追っ手が来ないのだ。
巡回している従者たちは平常運転で、ジークを探す素振りすらない。
「ラッキーなのかな? コレ壊しちゃったし、俺の事諦めてくれたのかも」
今だに首に着けていた忠誠のチョーカーを手に取ってみる。
対して高価なものには見えない金属製だ。
「返したほうがいいんだと思うけど、俺みたいな被害者が次に出ない様にしなきゃ」
ジークは思い切り強くチョーカーを握りしめる。バキメキと割れて歪んだ。
もうその金属の塊を見てチョーカーだと分からないだろう。
ジークは廊下の装飾品に置いてあった壺の中に捨てておいた。
「うんっ これでいいんだよね!」
少し気分が腫れたジークはどんどんと脚を進め、階段を見つけては駆け下りた。
結果的にジークのとった行動は正しかった。
やけに長く続く階段を下りた先には、今までと違う廊下・・・回廊があったのだ。
途轍もなく太くて大きな柱が何本も並び、床には赤いカーペットが敷かれていた。
「おおっ 玉座がある! すげー金ぴかだ」
ジークがたどり着いたのは玉座の間だったのだ。
王に謁見する際には必ず使われる重要施設だ。当然そこには見張りもいる。
「ん? 今声がしたような?」
上の階にいた従者とは違い。手に槍を持つ騎士が居たのだ。甲冑を着込みガチャガチャと五月蠅い。
ジークはそのおかげですぐに隠れることができたのだ。玉座の後ろに。
「気のせいか・・・だが一応伝えておくか」
騎士は去っていった。もしかすると侵入者が居るかもしれないと報告するために。
玉座の後ろに隠れていたジークの顔は青ざめていた。
「まずいよぉ 見つかるかと思った。どうしよう」
ふとジークは玉座の後ろに不思議な取っ手を見つけた。
よく見なければ気が付かないくらいにとっては床の大理石に埋もれていた。
開けてみる。だがピクリとも動かないのでジークは引っ張ると、
ギギギギと音を立ててその扉がスライドした。
そこにあったのは地下に通じる階段だったのだ。
怪力のジークが全力でやっと開いた隠し扉。重要なものだとジークでも分かる。
「これって・・・脱出通路かな? てことは外に出られる?」
恐る恐る階段を下りていく。階段には証明も無くて真っ暗だ。
隠し扉の空けたすきま分の僅かな光しか刺しこまない。まるで街灯が一切ない真夜中のような暗さだ。
「ちょっと怖いかも。ゴーストが出てきそう」
子供を早く寝かすためにこの世界の親はゴーストをつかう。早く寝ないとゴーストに呪われると。
ジークはゲオルのその言葉を信じていままでずっと早寝していた。
家族のことを思い出してジークは早く帰りたくなった。
「母さんも父さんもじーちゃんも師匠も心配してると思うし、早く帰らなくちゃ」
その時、上の方からギギギギと音がした。
開けた隠し扉がひとりでにしまったのだ。僅かな光源すらなくなった隠し階段はもう何も見えない。
「・・・泣きたい。めっちゃ泣きたい。でも頑張ろ」
目にたまる涙を袖口でふき取ってジークは泣きそうになる心に喝をいれた。
壁を伝い一歩一歩進んでいく。
どれほどの時間が過ぎたのか分からない。
お腹も減っているし、暗くて怖く、早く帰りたい。
ジークが限界を迎えようとした時、階段が終わった。
「光がみえる! 出口だ!」
まっすぐ延びる地下道の向うに光が見えた。
嬉しさと喜びいっぱいのジークはその光に向かって駈け出した。
ただその光は白光ではなく黄金に光っていた。
地下道を走り抜けるとそこは外へと通じていなかった。神殿のような空間だった。
ジークが見つけた光は空間の中心に位置する台座に突き刺さった黄金の剣が発していた光だったのだ。
「なにこの剣・・・俺を呼んでる?」
ジークはそう感じた。外に通じてなかったという折れそうになる心よりも、黄金の剣の意識が寄っていた。
黄金の光はまるでジークが此処へやってきたのを歓迎するように煌びやかに輝いたのだ。
ジークは導かれるがままに台座へと歩み寄り、そこに突き刺さっている黄金の剣の鞘を握る。
抜けそうにないほど突き刺さっているにも拘らず、黄金の剣はジークによってスルリと抜かれたのだ。
「バルムンク? あれ? なんで剣の名前が分かるんだろう」
黄金の剣の名を意図せずに口に出していた。
バルムンクは何故か手になじんだ。何十年も愛剣にしているかのようだった。
すると、バルムンクは声に呼応するように燃え上がったのだ。
黄金に輝く剣は鮮やかな蒼炎となってジークを包み込む。
やがて蒼炎はジークの身体の中へと入っていったのだ。
「ぐ!? あぁあああああああああああああ」
ジークは心臓を抑えて奇声をあげた。
まるで心臓を直接握られたような痛みだった。
だがその痛みは長く続かなかった。ほんとに一瞬の出来事だったのだ。
「はぁはぁ・・・熱くない。むしろなんか温かい。そっか・・・ずっとずっと俺を待っていたんだな?」
ジークにはバルムンクの意志のようなものが伝わってきたのだ。
歓喜に震えるバルムンクの喜びが。




