八百屋な少年は誘拐される
ジークが行方不明となってすでに数日が過ぎようとしていた。
母フレイは荒れていた。整った顔立ちの女性の怒りの威圧は周囲の者たちに死を錯覚させるほどに。
「許さない。絶対に犯人を見つけ出して、産まれたことを後悔させるの」
フレイは意図せずに今にも爆発しそうなほどに魔力を激しく迸らせる。
ゲオルはそんなフレイを宥めるしかなかった。自分にも言い聞かせるように。
「フレイ・・・落ち着くんだ。まだ目撃者もいないのにそんなことを妄想しても無駄に疲れるだけだ」
「あなたはジークが心配じゃないの!?」
「心配に決まってるだろう! 俺も冷静に考えるのが限界なんだよ! なにもかも全部ぶっ壊してでも見つけ出そうって・・・でもそれじゃあ絶対に見つからないんだ」
ゲオルはこういう経験を何度もしてきたのだ。
フレイが知らないところでゲオルはフレイを狙う輩と何度も衝突してはその陰謀をあばいてきた。ときにはフレイが誘拐されかけたことも有った。
その経験から暴れただけじゃジークが見つからないのを良く知っているのだ。
「うぅ ジーク」
「大丈夫・・・なんて気休めだな。でもあの子は強い。きっとどんなことをされていたとしても俺たちの救助を待っているさ」
「ええ」
「俺はもう一度騎士団に掛け合ってくるよ!最悪、血統の事を言えば向うも躍起になって探してくれるだろう」
「——!? それは・・・そうね。今はジークを見つけてあげることが一番大事なことよね」
血統をばらすのは駄目だと言おうとしたフレイ。しかしそれを隠したままジークが見つからないのはもっと嫌だったのだ。
同時期にマズールとアリアナもシルバリオンの闇組織を駆け回っていた。
シルバリオンの裏通りには闇のギルドがいくつか存在する。暗殺や融解を請け負う組織があるのだ。
マズールとアリアナはその拠点を回り強襲を繰り返しては壊滅させ、ジークの情報を集めて回っていた。
元B級冒険者と復帰したA級冒険者。闇ギルドの拠点はすでに10以上が壊滅している。
「ここもハズレか! クソ! ジークよどこのおるのじゃ!」
「次に行きましょう」
「うむ。叩き潰してくれる! 皆殺しじゃ!」
「はぁ 全部殺さないでよ? 拷問するのは私なんだからね、死んでちゃ聞き出せないの」
「分かっておるわい!」
激情しているマズールとは違いアリアナは比較的冷静だった。
マズールは孫であるジークを表には出さなかったが心の中で溺愛していたのだ。それに誘拐された原因は自分だと責任を感じている。
最近ジークを放置気味だった所為だと悔やんでいるのだ。冒険者にして力をつけさせれば大丈夫だと思い込んでいたのだ。そう思ってしまうほど血統の力というものは凄まじい。
対してアリアナは感情を押し殺して合理的に物事を考えていた。隻腕と言えど流石はA級冒険者といえるだろう。感情で動いてもロスにしかならないとよく理解しているのだ。
「おかしいわね」
「何がじゃ?」
「これだけ闇ギルドを壊滅させてるのに、全くと言っていいほど情報が集まらないことよ」
「それがなんじゃ! 知らないだけじゃろうが」
「いえ。闇の組織っていうのは情報が命なのよ。情報を集めることにそれこそ命を懸けるような奴等が、誘拐事件について何も知らないってことがおかしいのよ。さっき誘拐を専門にしているクズから聞きだしたんだけど、ここ数か月はそんな案件は来ていないって」
「ただそやつに話が来なかっただけじゃろう」
「そいつはシルバリオンで三本指に入る情報通でもあるのよ?」
「・・・」
「犯人は誘拐の依頼を闇にせずに自分で誘拐したかもしれない。ジークを誘拐できるほどの実力者とすると限られてくるわね」
「どういうことじゃ?」
「ジークってものすごく強いのよ。キングアナコンダを一撃で両断するぐらいに。あの力はアンタの血統でしょ? そんな怪力な子供を誘拐できるのは相当な奴ってことよ」
「うむ。闇ギルドにそれを実行できる奴は?」
「いないこともないと思うけど、誘拐を成功させてる事実から、相当な準備をしてるはず。もしかすると一人じゃないかも・・・でもそうなってくると情報が漏れないなんてありえないの」
闇ギルドの者たちは100%成功しなければ実行に移さない。それだけの準備をする。
もしも依頼に失敗すれば二度と闇へもどれないからだ。失敗した者にはあの世へと旅立たせる。それが闇の掟だ。
アリアナは闇を良く知っていた。それゆえに情報が一切ないことがおかしく思ったのだ。
「要はどういうことじゃ?」
「犯人は一人。闇に頼らなくてもドワーフ族の怪力を抑え込める実力者ってこと。闇の人間じゃなくて表の人間である可能性が高いわ」
「なんじゃと!?」
「それでも闇が関わっているのが確率的に一番あり得る。ジークを誘拐する奴に心当たりなんてないし。それこそあんなかわいい子だったら誰でも誘拐したくなるんじゃないかってなると犯人候補なんて山ほど出てくるわ。今できることはこのまま闇を潰して情報を集めていくことよ」
表はソドメとゴモレを筆頭にジークちゃんファンが動き回ってくれているからこそ、二人は闇に掛りきりになれるのだ。
「うむ。ならば闇を全て潰す勢いでよいのじゃな」
「ついでに街の汚い部分を洗い流せるって思えば徒労にはならないでしょう? 今後の事を思えば」
「その通りじゃな」




