八百屋な少年は冒険者見習いになった4
血の臭いに誘われて寄ってたかったのは大量のガルムだ。
この草原で一番の嗅覚をもつモンスターで群れで行動する。
一匹一匹は対して強くないが、群れで行動しているときのガルムが非常にクレバーで厄介なのだ。
ただ今回この場には予想外のモンスターが混ざっていたのだ。
普通のガルムより一回り大きく毛並みが光沢をもった銀色に輝いている。
シルバーガルムだ。この草原ではめったに出ないはずなのだ。
「おいおい 今日は何であんなんまでいらっしゃってやがんだぁ!?」
「兄弟! 無事か!」
「ああ問題ねぇよ」
ソドメとゴモレはお互いの背中を守る様に周囲を警戒しつつ、飛び掛かってくるガルムを斬り落としている。
「勝手に喰うとはいい度胸ね。この犬っころ! あんた等も解体してあげようじゃない!」
アリアナはリュックから自分の身長ぐらいはある鋸を隻腕で振り回しキングアナコンダに噛り付いているガルムを斬り飛ばしていた。
荷車を引いて付いてきた下っ端の運び人は、怯えて荷車の下へと避難していた。
そして
「やぁあああ!」
ジークはというとロングソードを手にしてガルムの群れの中に突っ込んでいた。ジークがロングソードを振るうと数匹のガルムの首やらなんやらの体の部位が斬り飛ばされて宙に舞っていた。
もうそれにソドメとゴモレは何も言うまい。下手したら自分よりも強いからだ。それにかく乱要因が居てくれた方がガルムの群れを倒しやすくなる。
その様子を見ていたのはシルバーガルムだ。
「ガルァ!」
腹に響くような大きな声で一吠えすると、ガルム達が動きを止めてジーク達から距離をとった。
乱戦では上手くいかない。そう結論づけて戦略を変えてきた。
のしりと自らが前に出てアリアナとジークを鋭い目つきに睨み見比べる。
二人の匂いをクンクンと嗅いだ後にジークの正面に移動したのだ。
「こりゃ一騎打ちするきね。隻腕の私じゃなくてジークを選んだってところね。紳士じゃないの」
「えっと・・・どういうことですか? 勝てそうになくて攻撃をやめてくれたんじゃ?」
「違うわ。シルバーガルムの特に群れのトップに立つモンスターで賢い個体はたびたびこういう行動に出るのよ。一騎打ちで勝敗を決めて勝とうが負けようが群れには手を出すなってね」
「そうなんですか・・・でなんで俺?」
「そいつがジークをコッチのリーダーと思ってるんだよ」
「えぇええええ! まだ見習いなのに?」
「実力じゃ私が飛びぬけて強いのは嗅ぎ分けただろうけど、この腕をみてから闘うのは避けたよそいつは。人間だったらいい男だろうね。まったく紳士だよ」
「・・・」
ジークが救いを求めてソドメとゴモレに視線を向けたが、エールを送られてしまった。
「「ジークちゃんファイ!」」
ガクリとうな垂れたが、目前にいるシルバーガルムを見据えて気合を入れ直した。
「それでこそ私の弟子になる子よ。勝ったら特別特訓をしてあげるわ」
アリアナの言葉にジークは心の中で『授業料取られないってことかな!やったー!』と叫んでいた。
実はと言うと剣を教えてもらうのには普通お金がかかる。授業料や入門代を払わなければならないのだ。
ジークが今まで剣を教わらなくて見よう見まねだったのはその費用を渋っていたからだ。
「リーダーじゃないけど、やってやりますよ!」
「ガウゥ!」
戦闘開始の合図も何もないがジークがロングソードを構えると、シルバーガルムが身を低くして戦闘態勢をとった。
さほどにらみ合いは続かなかった。ジークから攻撃を仕掛けた。
ジークはこういうところの戦闘経験が極端に少ない。
今まで数十回モンスター討伐の依頼をこなして何体ものモンスターをを倒したがどれも先手必勝だった。爆発的な急加速のスピード故に、計らずともモンスターの虚をついていたのだ。
だがシルバーガルムはジークと同じくスピードがあるモンスターである。さらに相手の攻撃を読み群れの指揮もできるほどだ。
シルバーガルムはかるく横へ飛ぶと、ジークその脇を通り過ぎてしまった。
ジークは初めてロングソードの突きを躱されて動揺した。
「わ! 避けられた!」
隙を見せたジークにシルバーガルムは容赦なく前足の鋭利な爪をくりだした。
「ガルァ」
「うわぁああああ!」
シルバーガルムの攻撃は空振りした。ジークは驚きすぎてその場に尻餅をついたのだ。
身体の大きさはシルバーガルムの方が大きく、地面に尻を付けたジークに爪が届かなかった。
「あ 危なかったー」
「気を抜いちゃだめよジーク!」
「へ?」
アリアナに助言されたが気が抜けていた。
初めてといっていい死ぬかもしれない攻撃を意図せずに避けたのだ。
「ガルルル」
「あぁあああああああああああ」
再び爪を振るってジークを攻撃するシルバーキング。
またしてもジークはその攻撃を避けた。こんどは頭を抱えて地面に這いつくばって。
「ガルガァ!」
「ひぃいいい?」
「ガルァ」
「にょぉ!?」
「ガルル」
「おっと!」
「ガァアアアアア!」
「ひょいっ」
「グラァ!」
「ひょひょいのひょい!」
気が付くとジークはシルバーガルムの攻撃を余裕で躱していた。最初はへっぴり腰で半泣きだったのに、最後に至っておもちゃにしていた。
シルバーガルムが肩で息をして疲労が目に見えているのに対し、ジークは鬼さんこーちらー♪と挑発する次第である。
「ねえ、これは何してるの?」
「「さあ」」
アリアナは呆れた様子ですでに戦闘かもわからくなったジークとシルバーガルムを見据えた。ソドメとゴモレも緊張感を失くしたようでジークの応援をやめていた。
最後の力を振り絞ってシルバーガルムが牙をジークへと突き立てたが、やはりかすりもしなかった。
ジークは楽しそうにその攻撃を避けてシルバーガルムに止めの一撃を喰らわせる。
止めの一撃は――ロングソードを鞘に戻し、へばったシルバーガルムの頭を撫でたのだ。
「ナデナデ~ うわー もふもふだね!」
「グフー」
シルバーガルムは屈服した。抵抗することなくジークにモフられている。
ジークはずっとシルバーガルムの銀色に輝く毛並みを堪能したかったのだ。
小さいころから犬を飼いたかったのだが、フレイが動物が苦手なために飼えなかった。
今はフレイもいない。寝泊まりする所はマズールの工房のである。
そして・・・導き出されたジークの一言は此処にいた全員にため息をさせた。
「コイツ飼えないかな?」
わんわんゲット?




