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最終話 言伝(ことづて)

 五月六日、午後七時半を少し回った頃のこと。四頭鬼二丁目十二番地の古びた木造家屋の居間で、一組の老夫婦がちゃぶ台を挟んで向かい合い、のんびり夕食をとっていた。しかし不意に何やら振動のようなものを感じ、二人は手を休めて室内を見回した。

「おい、婆さんや。今、ちょいと揺れなかったかい?」

「ええ、少し。でもこんな遅い時間に工事はやっていませんよ。地震ですかねえ」

 夫も妻も首を傾げた。昼間であれば、多少家が揺れても不思議ではない。実は自宅の隣、区画の北側で温泉の掘削工事が行われていたからだ。先月の中旬、桃の湯のオーナーと施工業者の現場監督が家を訪れ、「工事中は多少揺れることがあります。ご迷惑をかけますが宜しくお願いします」と、挨拶に来ていた。今夜の食卓に並べられた焼き海苔も、その際手土産としてもらった物だったのである。

 気を取り直し、二人は汁椀に口を付けた。が、味噌汁をすする間もなく、今度は卓上の食器がカタカタと音を立てて踊り始めたのだ。中身をまき散らしながら食器は畳の上へ転がり落ち、箪笥が倒れんばかりの勢いで家が揺れ始めた。

「な、何ですか、これ!」

「や、やっぱり地震じゃ! 家が壊れるぞ! 逃げろ!」

 慌てふためき、転び転び老夫婦は家の外へ出た。見ると同じように突然の「激震」に驚き、家から飛び出した近所の者が数名、路上に蹲っていた。皆着の身着のまま、裸足の者すらいる。

 凄まじい爆音が工事現場から轟いたのは、まさにその時であった。設置してあった掘削機をなぎ倒し、工事現場の中央から土が空高く噴き出て――揺れがピタリとおさまったのだ。地面にはぽっかりと穴が空いている。直径四、五メートルはありそうな深く巨大な穴が。

「何処ダ……。近クデ奴ノ気配ガスル……」

 くぐもった、ぞっとするような声が上空から聞こえてきた。人々は心臓を鷲掴みされたかの如く感覚を覚え、身が竦んでその場から動けなくなってしまった。

「ソチラカ、柴山六郎! 今コソアノ時ノ恨ミ、晴ラシテクレルワァ! ウワッハッハ!」

 大気を揺さぶりながら、笑い声は瞬く間に遠ざかっていった。一体何が起こったのか、皆よくわからなかった。ただ一つ明確なのは、姿見えずしておぞましい声が聞こえたということだ。

「よ……妖魔じゃ。妖魔があの穴から出てきたんじゃあ……」

 夫は妻の腕の中で意識を失った。周囲は騒然となり、人々は右往左往するばかり。妖魔の行方を気にする余裕など、誰にもなかったのである。


 凰香の部屋の中で惚けていた鳳太は、地面が揺れるのを感じ、我へ返った。

「何だ? 地震か?」

 ふと見上げると、照明器具のスイッチの紐がかすかに揺れている。震度二くらいか……と鳳太が思った時、急にシャツの内側で天の邪鬼がバタバタと暴れ出した。

「どうした、天の邪鬼。何かあったか?」

「ウン、旦那。コッチニ来ルヨ」

「こっちに来るって、何が?」

「大将」

「大将って……おい、まさか! 四面鬼が来るのか!」

「来ルヨ来ルヨ。大将、地面カラ出キテコッチニ来ル」 

 四面鬼の復活は鳳太にとって青天の霹靂だった。四面鬼が地上へ出てくるまで、今少しの時間がかかるはず。されどよくよく考えてみれば、それは五日前――今月の一日の時点での話。工事は連日続き、今日土曜日も午前中まで行われていた。結果、天の邪鬼の言う「土の中に突っ込まれた変な物」ーー温泉の掘削機は着実に地中深く入り込んでいき、ついには宮司が施した封印を完全に破ってしまったのだ。

「でもどうして四面鬼がこっちに来るんだ!」

「ソコマデハオイラモ知ラナイ。大将ニ訊イテミテヨ」

「馬鹿っ、この極楽とんぼめが! 誰が訊ける……」

 凄まじい殺気を感じ、鳳太は口を噤んだ。何かがすぐ近くまで迫って来ている。間違いなく妖魔だ。しかも今まで遭遇したことがないような、恐ろしい者が。

 鳳太は立ち上がり、窓を開けて庭の方を見た。先程の殺気は空から近付いてくる。そう、西の空から人の顔のような物が真っ直ぐこちらへ向かって飛んできたのだ。

「天の邪鬼! あれが四面鬼の首か!」

「ソウダヨ。大将、ソコノ空キ地ニ行キタガッテイル。何カ捜シニ来タミタイ」

「畜生、よりによって何でうちの区画に!」

 悪態ついた鳳太が庭のサンダルへ足を突っ込んだ途端、破鐘のような声が響き渡った。

「フハハハ! ソコカア、柴山!」

 鳳太は庭と私道との境にある弊の陰から空き地の中を覗き込んだ。問題の物は周囲の家の屋根をかすめ、空き地の上空数メートルの地点で停止。暗闇に浮かぶのは白い輪郭線や体表の筋、目鼻等の顔の各パーツのみ。優に人の背丈は、いや二メートルはありそうな巨大な鬼の生首――不可視状態の四面鬼の首であった。

「出テコイ、柴山! ソコニイルノハワカッテイルゾ! アノ時ハ不覚ヲトッタガ、今度コソ捻リ潰シテクレルワ!」

 耳元まで裂けた口を目一杯開け、四面鬼の首は空き地の中央目がけて雷撃を吐き出している。落雷する度に地面は砕け、足下が大きく揺れた。区画内の住民も異変に気付き、外へ出るも彼等の目には不可視状態の妖魔は映らない。空中の一点から放たれた光の矢が、地面へ突き刺さっているようにしか見えないのだ。

「ま……まずい! 早く近所の連中を避難させないと!」

 このままではいつ飛び散った雷が家を破壊したり、火災を起こすかわからない。妖魔の出現を知らせて避難させようと、鳳太は区画周囲の公道へ回った。だが住民を逃がすことに夢中で、全く疑問に感じなかったのだ。何故四面鬼の首が柴山の名を叫びながら、空き地を執拗に攻撃しているかを。


「キャーッ!」

 凰香は脳天を手で覆い、蹲った。地下室が揺らいでいる。壁には亀裂が入り、天井から剥がれ落ちたコンクリート片がバラバラと降ってくるのだ。それでも三木塚は冷静さを失わうことはなかった。

「何か外であったみたいね。ここは危険だわ。早く地上へ出ないと天井が落ちてきて、全員生き埋めになってしまう。お婆さん、立って下さい」

 三木塚の呼びかけに、泣き崩れていた暮里はようやく立ち上がった。

「だけど十郎さんが許しちゃくれないよ。あの人はあなた達を逃がさないように見張っているんだからね」

「でも大家さん、このままじゃ……」

「ならあの人は私に任せて、凰香ちゃんは他の部屋を開けておくれ。男の人達も逃がさないと」

 鍵束を受け取ったものの、凰香の手は震えていた。生き埋めになる恐怖もあったが、それ以上に折妖渡が恐ろしかったのだ。部屋から通路へ出ると案の定、不安は的中。通路の壁により掛かっていたあの男――折妖渡が、足早に近付いてきた。両手をスッと持ち上げ、脱走者に触らんと。あの手に触られたら……迫り来る相手の姿に戦慄を覚える凰香。そこへ暮里が両手を広げ、折妖渡の前に立ちはだかった。

「十郎さん、お願いです! あの人達をここから逃がして下さい! このままでは――」

 再び地下室全体に激しい衝撃が走り、壁や天井のひび割れは一段と大きくなった。暮里は足をふらつかせ、その隙に折妖渡が脇をすり抜けた。

「止めて、十郎さん!」

 暮里は折妖渡へ飛びつくと、額を背中へ押し当てた。

「もうこれ以上殺さないで下さい! あの時の……五十年前の十郎さんに戻って下さい。人の痛みがわかる優しいあなたに……」

 背が濡れるのを感じたのか、折妖渡は振り返った。感情など微塵も感じさせない冷たい眼が、啜り泣く老婆を捉えている。だが一瞬、僅かではあるが眉尻がぴくりと動きーー折妖渡の右掌が暮里の肩へ下ろされた。

 ――ああっ! 大家さんが干物にされちゃう……!

 凰香は正視出来ず、目を背けた。だが悲鳴は聞こえこない。視線を戻してみると、意外な光景が凰香の目に映った。折妖渡が通路の端へ寄っていたのだ。

「有り難う、十郎さん……」

 暮里は大粒の涙を流しながら、折妖渡の手をしっかりと握り締めていた。折妖渡も凶行に及ぶ気配はない。相も変わぬ鉄仮面づらではあったが。

 凰香は我が目を疑った。秋野一家の命令にしか従わないはずの折妖渡が、暮里の説得に折れたのだ。ただ、今はその理由についてあれこれ考えている時間などないことは、凰香もよくわかっていた。残る二部屋から手早く須藤と二人の市議会議員を解放した。

 ところが凰香達が駆け出すと同時に、折妖渡が小走りで後を追ってきた。何処までも囚われ人を監視する気なのか、己の意思でこの地下室から脱出した方がよいと判断したのか……。相手は折妖人間。何を考えているのか、凰香にはよくわからなかった。

 階段を駆け上がり、天井についた扉を押し上げて地上へ出てきたものの、何故か周囲は真っ暗。てっきり秋野家の家の中に出ると思っていた凰香は、些か面食らった。暫くして暗闇に目が慣れてきた頃、凰香はやっと今いる場所が何処であるか理解した。がらくたや古ぼけた日用雑貨が、床や棚の上に雑然と置かれている。何と秋野家の物置の中だったのだ。秋野一家は地下室の出入口を庭に設置した物置で隠し、一見しただけではわからないようにしていたのである。

 物置の戸を開け、秋野邸の庭へと凰香達ーー三木塚や須藤、暮里、二人の市議、そして折妖渡も出てきた。が、直ぐに凰香の耳に聞き覚えがある人物の声が飛び込んできた。庭から家の中を覗き込み、窓を叩きながら大声を張り上げるその人物とは――

「お兄ちゃん!」

 凰香の声に気付き、鳳太はそちらを向いた。周辺住民に妖魔の襲撃を知らせて回り、鳳太は最後に秋野家にやってきたのだ。しかし家の灯が点いているにも拘わらず、いくら呼び鈴を鳴らしても何の応答もない。庭へ回って窓越しに室内を見てみると、秋野一家の三人が食卓を囲んで呑気に鼾をかいていたという次第。

「凰香、無事だったのか!」

 妹の無事な姿に鳳太の顔はぱっと明るくなったが、後ろに続く者達の姿を見てあっと声を上げた。

「え……? 大家さ……何でここに西村さんが!」

「お兄ちゃん、詳しいことは後で話すから、今はここから早く出て警察に行きた――」

 凰香は急に口ごもった。得体の知れないおぞましい気配を感じ取ったのだ。

「う、う、あわわっ!」

 須藤がいきなり引きつった声をあげた。

「ね……姉さん! あれ、まさか四面鬼の首じゃ……」

 須藤が指さす先ーー空き地の上空を見た三木塚は真っ青になった。鬼の眼持ちの姉弟にも、そして凰香にもはっきりと見えたのだ。咆哮をあげて荒れ狂う鬼の生首が。

「何で四面鬼の首が……。言霊の力は失われていないのに!」

 三木塚は力無く崩れ落ちた。歴代の塚守の努力を無に帰してしまったのだ。だが三木塚は直ぐに毅然たる態度を見せた。塚守のすべき事はまだ残っていたのである。

「ここは危険です! 皆さんは早く逃げて下さい!  私が鬼の首を引きつけます!」

 たとえ鬼の首は見えなくても、市議の二人には危険が迫ってきていることは直ぐにわかったのであろう。三木塚の声を聞くまでもなく、牧原と高倉は一目散にその場から逃げ出した。

 しかしあとの者は立ち去ろうとしない。三木塚はその責務から到底無理。凰香は暮里や須藤姉弟を置いて兄と逃げることはとても出来ない。凰香が逃げない以上、鳳太もこの場から動けない。さらに行方知れずの人物が突如現れ、状況が把握できず混乱している。暮里は折妖渡の許を離れたくないのか、やはり足を止めたままだ。

 須藤はその性格からして真っ先に逃げても不思議ではなかったが、上空を見上げる姉の手を半べそをかきながら引いた。

「姉さんを残して行けないよ! 姉さん、逃げよう!」

「駄目よ。私は塚守。四面鬼の首に背を向ける訳にはいかないの。もう一度封じられるかどうか、やってみるわ。先祖が宮司から教わった封印術、少しなら使えるから」

 再度封印を試みると言っても、それは無茶苦茶なことだった。過去に宮司が封印に成功したのは、四面鬼の首が身動きもままならぬ程の深手を負っていたから。傷も完全に癒えた状態で、封印術のプロでもない三木塚が行っても、万に一つも上手くはずがないのだ。

「ソコカ。ソコニイタカ、柴山ァ」

 四面鬼の面がくるりと振り返り、秋野邸の方を向いた。その二つの眼はしっかりと三木塚と須藤へ据えられている。柴山の血の気配に反応しているのだ。

「フフフ……。折妖ノ気配ガシナイゾ。折妖ノナイ貴様ナド、虫ケラ同然ヨ」

 四面鬼は口をカッと開いた。奥に炎の塊が見える。着弾すると大爆発し、周囲を灼熱地獄に変える火の球――爆炎球を放とうというのだ。相手の目論見を覚った鳳太は、凰香の身体の上に倒れ込み、覆い被さった。自分を盾にして妹を守ろうと。

「圭一、早くお逃げ!  早くーっ!」

 三木塚は須藤を突き飛ばしたが、もはや手遅れ。四面鬼の首は爆炎球を発射した。しかし直ぐに熱の炎玉は突如出現した白い柱に行く手を阻まれ、濛々と蒸気をあげて消滅。突如上空から降ってきた氷の渦によって相殺されたのである。

「オノレェ! 邪魔ヲシオッテ!」

 四面鬼の首は悔しさあまって空中で転がり、吠えた。翼長六、七メートル程もある真っ白な鷲が、頭上を旋回している。背に一人の男を乗せて。

「朋子! 怪我はないか!」

 その声に三木塚ははっと空を見上げた。鷲に乗っている人物は墨田だったのだ。

 この夜、三木塚の様子を見に行こうと、墨田は自宅から鉄町にある彼女の家を訪れた。家に三木塚の姿はなく、墨田が行方を捜そうとした矢先、乗ってきた折妖鷲がそう遠くない場所で起こった異変を察知。急ぎ駆け付け、三木塚と四面鬼の首を発見したのである。

 墨田は折妖鷲を降下させ、秋野邸の庭にいる三木塚の側へ降り立った。

「奴は四面鬼の首だな。それならここは俺に任せて、お前達は早く逃げろ」

「それは出来ません。私には塚守の使命があります」

「何を言うか! 紙士でもないお前に何が……うっ!」

 背に凄まじい悪寒を覚え、墨田は顔を上げた。四面鬼の首が殺気をまき散らし、息巻いている。墨田はスーツの内ポケットから睡眠状態の折妖虎を取り出した。

「汝を折りし折士が命じる。起きてあの鬼の首を倒せ!」

 宙高く放り投げられた折妖は瞬時に覚醒。体長二メートルほどの銀色の虎と化し、一声高く鳴くと空を駆けて四面鬼の首に襲いかかった。折妖鷲も墨田の命を受け、再び舞い上がって後に続く。

「小癪ナーッ! 折妖共メ、折人オリビト諸共八ツ裂キニシテクレル!」

 四面鬼の首は怒り狂い、敵を食い殺さんと牙をむいた。二体の折妖は敵と距離を置きつつ、口から吐く吹雪や衝撃波の「息の攻撃」を武器に応戦する。かくして妖魔と折妖二体、空中戦の火ぶたが切って落とされた。

「よーし、俺も! 汝を折りし折士が命じる。起きて巨大化し、折妖の加勢をしろ!」

 鳳太は立ち上がり、自分の持つ折妖犬を解き放った。巨大化して空へ駆け出す折妖犬を見て、凰香は目を丸くした。

「え? お兄ちゃんの折妖、いつからあんなに凄くなったの?」

「それには種がある。天の邪鬼、出てこい」

 鳳太の襟首から鼠――天の邪鬼が顔を出し、凰香は思わず叫んだ。

「これ、天の邪鬼なの! 四面鬼の分身で、紙士の力をひっくり返すって言う、あの!」

「凰香! お前、知っているのか!」

「うん。三木塚さんから教わったわ。これ何処で捕まえ……あっ! お兄ちゃんが桃の湯の前で見付けた、あの尾長鼠ね!」

「ああ。こいつが俺の折妖犬のランクを上げてくれたんだ」

「だったらその『天の邪鬼の力』、私にも貸してよ!」

 秋野が凰香にやらせようと企んでいた「あること」。それは天の邪鬼の力を利用し、四面鬼の首を紙漉きさせようというものだった。秋野は留守で、他の三人も今は夢の中。紙漉きするなら今しかないという訳だ。

「凰香……。お前、こいつを使って四面鬼の首を紙漉きする気か!」

「だってそうする以外、手がないじゃない! お兄ちゃんや墨田さんの折妖じゃ、あの化け物は倒せないわ!」

 凰香の言葉は間もなく現実のものとなった。首一つだけとはいえ、相手は30レベル相当の不死身の妖魔なのだ。最初にこれといった攻撃能力も持たない鳳太の折妖犬が、四面鬼の火炎放射で消し炭となり、次いで墨田の折妖虎が雷撃放射の一撃で撃墜された。最後まで残っていた折妖鷲も氷の渦を吐いて対抗したが長続きせず、目から発射された光線に身体を真っ二つにされ、空き地にドサリと落ちてきた。

「くそっ、やはり駄目か!」

 墨田は悔しげに拳を握り締めた。墨田は今夜、三木塚の様子を見るために七釜戸市を訪れた。そのため持参してきたのは、移動力や探索能力に優れた12、3レベルの折妖二体だけ。あのランク7黒虎を瞬殺した自慢の折妖は、自宅へ置いてきてしまったのだ。

「フハハハ、他愛モナイ。コノ程度ノ折妖ゴトキデ我ニ刃向カウトハ、笑止千万ヨ」

「おのれっ、これでも食らえ!」

 墨田は外壁を飛びこえて空き地へ出ると、懐から拳銃を取り出し、四面鬼に向けて発砲した。だが急所の眼球に命中したにも拘わらず、弾丸は呆気なく弾き飛ばされてしまった。高レベル妖魔には拳銃程度の銃器では掠り傷一つ負わせることは出来ないのだ。

「フン、カユイカユイ……。サテ、手駒ハ終イカ? ナラバ次ハ貴様ノ番ゾ!」

 墨田に狙いを定め、四面鬼は眼光線を発射した。普通の人間であればあえなく身体を貫かれていたところであろうが、流石はエスピー。信じ難い素早さで巨躯を転がし、きわどいタイミングで光線を避けた。しかし勢い余って後頭部を秋野宅の外壁に強打、意識を失ってしまった。

「せ……先輩!」

 墨田の許へ走り寄る三木塚。すると弊の向こう側から凰香の声がした。

「三木塚さん! 天の邪鬼を使って私があいつを紙漉きしてみます! お兄ちゃん、行こう!」

「よし! 天の邪鬼、妹の肩に乗れ! 妹がいいと言うまで一緒にいろ!」

「了解、紙使イノ旦那」

 鳳太の襟元から飛び出した天の邪鬼は、凰香の肩へ軽やかに移った。術者に密着させなければ、天の邪鬼の力を利用出来ないからだ。

 四面鬼の首は墨田ばかりに気をとられ、兄妹が空き地へ出てきたことにも気付かない。凰香は右手を突き上げ、大きく息を吸い込んだ。

「ロックオン!」

 夜空に澄み切った声が響くと同時に、透明だった四面鬼の首が色着いていった。史話に記された通りの闇の色ーー漆黒に。爛々と赤く輝く目さえなければ、暗い空と見分けがつかないだろう。

「小娘、貴様カ!  我ヲ露ワニシタノハ!」

 四面鬼の首は燃え上がる眼を凰香へ向けた。多頭鬼は数ある和州の妖魔の中でも最高位にある上位種、四面鬼はその頂点に君臨する「長」。五日前に遭遇したランク3突撃獣など、足下にも及ばない程の強烈な妖気を発する。恐怖の毒気に犯され、凰香は全身が麻痺してしまった。蛇に睨まれた蛙も同然だ。

 ――こ……怖い……。やっぱり私、駄目漉士なんだわ……。

 紙士三役の中でも漉士は、度胸がものを言う。臆病者には勤まらない。自分で紙漉きすると言っておきながら、四面鬼の首に一睨みされただけで、その気迫もあえなく萎えてしまうとは……。凰香は逃げ出したい気分だった。

「凰香、しっかりしろ。課長さんが言っていただろう。お前にも度胸があるはずだって」

 鳳太が後ろから励ますように背中を叩いた。

「だってあんな凄い妖魔、見たことないもの……。私……」

「心配するな。俺がついている。俺が必ずお前を守ってやる。だから今は奴を漉くことだけに全神経を集中させろ」

「怖くないの、お兄ちゃんは……」

「俺は怖くはない。お前を守るためだったら、俺は何も恐れないぞ」

 正直なことを言えば、鳳太も四面鬼の首が恐ろしかった。しかし今、敵を紙漉き出来るのは凰香だけ。その妹を何が何でも守りたいーーその思いが強気な台詞を吐かせたのだ。

 兄の力強き言葉に勇気づけられただろうか。凰香は両掌をそろそろと目の高さまで持ち上げた。

「ま……魔性のものよ」

 震える手の親指と人差指で正方形の枠を作り、凰香は「印」を結んだ。ところが印の内側が虹色に光り出しても、四面鬼の首は悠然と構えている。

「愚カナ。最強ノ多頭鬼ト言ワレシ我ニ、ソンナ術ガ通用スルトデモ……ムッ!」

 余裕の笑みは瞬時にして消え去った。凰香の肩の上に乗る小さな生き物が目に留まったのだ。その生き物の正体を四面鬼の首は一目で見破った。

「天ノ邪鬼ゥ! 貴様、何故人間ノ許ニ……。エエイ、コウナレバ貴様モ人間モ、纏メテ葬ッテクレルワァ!」

 四面鬼の口の中で火花がぱちぱちと音をたて、舞い始めた。雷撃放射をしようとしているのだ。それを目にしてもなお凰香は固まったまま。恐怖を拭えないのか、光を放とうとしない。

 ――まずい! 間に合わない!

 鳳太は咄嗟の判断で、ジーンズのポケットから自宅の鍵二束引っ張り出し、四面鬼の首目がけて投げ付けた。相手の眉間に当てて気をそらせ、発射を遅らせる作戦に出たのだ。ところがコントロールが幾分狂ったようで、鍵は狙った位置よりやや低めーー口の中へ飛び込んだ。

 バチーン!

 何かが弾けて爆発するような音がした。同時に細かい破片が四面鬼の口から四方八方へ飛び散り、そのうちの一つ、赤い小さな塊が凰香の額にぶつかった。

「痛たた……。え……何が……。あっ!」

 固まっていた凰香は足下へ視線を移した。そこに落ちていた物ーーぶつかったのは自分のキーホルダーに着けていた、赤い熊の小物だ。額をさすりながら、凰香が改めて相手を見るとーー

「グ……ゴワァ……!」

 おぞましくも奇妙な叫びをあげ、四面鬼の首は舌をだらりと垂らしていた。舌の真ん中から煙が上がっている。貯め込んでいた電撃が鍵束へ落ちたのだ。放電準備中はむやみに舌を動かせない。鍵を吐き出したくても出来なかったのだろう。

「これで奴は口から何か吐けないぞ。凰香、今がチャンスだ! 光を放て!」

 鳳太の声に凰香は勇気百倍。背筋をピンと伸ばし、再度印を組んだ。

「うん! 魔性のものよ。その異形の身を溶かし、二次元の存在と化せ! えいっ!」

 全身全霊の力を込め、凰香は印より四角い光を放った。光はまっしぐらに四面鬼の首目指して突き進み、見事黒い額に命中。虹色の光が覆い始めた。

「コレシキノ術ナド……。ウ……ヌワゥ……」

 四面鬼の首は煌めくベールをふるい落とそうと七転八倒、宙でもがいた。しかし如何に暴れようにも、妖力を用いてもベールは消えず、ますますその輝きを増してゆく。

「バ……馬鹿ナァーーーッ!!」

 魔物の絶叫が辺り一帯にこだました。光が消滅したと同時に鬼の首は真っ黒い一枚の紙へ姿を変え、空き地の中央部へゆっくりと舞い落ちて来た。

「や……やったぞ、凰香! 四面鬼の首を紙漉きしたぞ!」

 鳳太は両拳を突き上げ、飛び上がって喜んだ。三木塚は墨田に寄り添いつつも目頭を押さえ、あの須藤までも「凰香ちゃん、凄い!」と手を叩いている。暮里はほっとした表情を浮かべ、佇んでいたが。

 印を解き、身体から力を抜くと凰香は肩の上にいる天の邪鬼の鼻面をさすった。

「お疲れ様、天の邪鬼。あなたのおかげで紙漉き出来たわ。もうお兄ちゃんのところへ戻っていいわよ」

「了解、紙使イノ姐サン」

 天の邪鬼が鳳太の肩へ乗ると、凰香は妖紙の方へ走り出した。あとはあれを燃やすだけ。そうすれば何もかもが終わる。こんな厄介な物を狙う者もいなくなる。三木塚も重責から解放される。そのはずだった。

 が、凰香が妖紙を手にした時、馬蹄の音を轟かせて一台の馬車――空タクシーが、猛スピードで空き地へ突っ込んできたのだ。タクシーは凰香の直ぐ側で急停車、一人の男がヒラリと御者台から飛び降りた。

「あ、あなたは……。いやっ、何をするの!」

 男は妖紙を奪い取って懐へ突っ込むと、凰香の顔面に一発拳をお見舞いし、細い身体を羽交い締めにした。鳳太は血相を変え、妹の許へ駆け寄ろうとしたが、男が握る物を見て足が竦んだ。ナイフの刃が、凰香の喉にぴったりと押し当てられていたのである。

「あ、あの野郎! 一体妹に何を……」

 鳳太は愕然とするばかりだった。この白髪交じりの男――秋野満はクックと笑声を漏らした。

「有り難う、お嬢さん。心から感謝するよ。あんたのおかげで、喉から手が出るほど欲しかった妖紙を手に入れることが出来たんだからな。いや、ここまで上手く事が運ぶとは。今夜の仕事が取り消しになったのは、本当に幸運だったよ」

「あなた、だからここへ戻ってきて……。それで私が紙漉きするのを待っていたのね!」

「その通り。倅や義弟おとうとじゃ力不足で無理だからな。出来の悪い漉士と天の邪鬼の協力がないとね」

「何てことなの……。お兄ちゃん! 全ての事件はこいつが仕組んだのよ! 西村さんや議員さんを誘拐したのも、折妖人間を作ったのも! こいつが黒幕……」

 凰香は悲鳴をあげた。ナイフの刃が僅かに喉に食い込み、傷口から血が流れ出る。

「全員動くな! この娘がどうなってもいいのか!」

 秋野は目を血走らせ、怒鳴った。妹を人質にとられては、鳳太には為す術がない。今自分が下手に動けば、相手は躊躇することなく凰香の喉を切り裂く――そう思うと、鳳太は微動だに出来なかった。

 されど須藤は黙っていられなかったようで、弊の上に立ち、大声を張り上げた。

「秋野満、観念しろ! もう既に議員さんや周辺住民は逃がしてある。騒ぎを聞きつけ、直に警察がここに来るぞ!  そしたらお前は御用だ!」

「黙れ、この裏切り者めが! 捕まるのは貴様も同じであろう!」

「俺は腹を括ったぞ! 警察に全てを告白し、罪を償うからな! 姉さんのためにも!」

「ちっ! ならば警察に言えないようにしてやる。おい十郎! 十郎は何処だ!」

 命令者の呼び声に応じ、庭で待機していた折妖渡が、秋野邸の裏口から空き地へ姿を現わした。足を地上から離し、ユラユラと身体を揺らしながら。その姿に須藤は腰を抜かし、空き地へ転げ落ちた。

「この役立たずが! どうしてそいつらを逃がした!」

 秋野は折妖渡を睨みつけたが、ひとまず怒気を治めた。

「まあ説教と仕置きは後でたっぷりしてやる。まずはそこにひっくり返っている須藤圭一をーー」

「止めて!」

 暮里が折妖渡の足下まで走り寄り、膝を折ってワイシャツの裾に縋り付いた。

「満さん! もうこれ以上十郎さんに人殺しをさせないで下さい! この人は確かに折妖人間で、あなた達の僕だけど、私の大事な人には変わりありません。だから……」

「何戯言を言うか! この老いぼれめ!」

 秋野は鼻先でせせら笑った。

「その折妖人間を作ったのは俺と女房。どう使おうと、俺の自由だ! 四面鬼の妖紙が手に入った以上、貴様ももはや用無し。十郎! そのババアを始末しろ!」

 折妖渡の視線が下の方へ流れた。殺されるとわかっていても、離れようとしない暮里を瞬き一つせず、じっと見詰めている。

「貴様、俺の命令が聞けないのか!  その女を――暮里東を干物にしろというんだ!」

 秋野が叱咤した時だった。折妖渡が何やら呟いたのだ。側にいた暮里にしか聞こえないようなか細い声で。

「デ・キ・ル・カ。ソ・ン・ナ・コ・ト・ガ」

 折妖渡の頭の中で、何かがブチリと切れた。

「許さん! 貴様ーっ!」

 溜まりに溜まったものを全て吐き出すかのように、折妖渡が叫んだ瞬間ーー表情が「鉄仮面」から「鬼面」へと化した。暮里を振り払うと、折妖渡は浮遊状態のまま滑るように走り出した――秋野へ向かって一直線に。

「や、止めろ! 止めろ十郎、止めてくれーっ!」

 凰香を放り出し、秋野はナイフを振り回したが、折妖渡の疾走を食い止められない。凰香を救出しようとする鳳太の横を駆け抜け、身を屈めて刃をかい潜ると、折妖渡は秋野の腹へ拳をお見舞いした。相手の手からナイフが地面へ落ちるよりも早く、折妖渡の右手が相手の顔面をがっちりと掴む。

「いやああ、お兄ちゃん!」

 惨たらしいシーンを見まいと、凰香は兄の胸板へ顔を押しつけた。そして――

「うぎゃああああーっ!」

 耳を覆いたくなるような悲惨な絶叫。秋野の断末魔の声だった。凰香を抱きしめながら、鳳太は顔を上げ、折妖渡の様子をそろそろと窺った。その足下に転がる物体から即座に目を背けたものの、戦慄きが止まらない。

「そんな……そんな馬鹿なことがあり得るのか……? 折妖が命令者の命に背いたばかりか、命令者を殺すなんて……」

 折妖は命令者に絶対的な忠誠を誓う。これが覆ったことなど、紙士四百年の歴史の中で一度たりともない。今まで黙って秋野の命令に従っていた折妖渡が、何故突如として怒りを露わにし、主を殺害したのか……。鳳太にはもう何が何だかわからなかった。

 だが驚いたことに、折妖渡は更に信じ難い行動に出た。秋野の遺体に背を向けると、足を地に着けて数メートル前進。自分から暮里へ話しかけたのだ。

「あずさ」

 柔らかな声だった。鬼面が剥がれ、折妖渡の顔は優しげな面差しへと変わっている。

「十郎さん……。ああ、あの時の――五十一年前の十郎さんだわ」

 感涙に咽びつつ折妖渡の許まで駆け寄ると、暮里は歓喜のあまりその場に崩れ落ちた。無理もない。作られて以来九年間、決して感情を表に出すことがなかった折妖渡が、昔と変わらぬ微笑みを見せてくれたのだから。

「十郎さん! やっぱり私のことがわかるんですね!」

「勿論だ。いくら歳月が流れようと、僕にはわかる。そして僕の思いも変わらない。愛しているよ、あずさ」

「嬉しい……。こんな嬉しいことはありません……」

 二人のやり取りを鳳太も凰香も呆然と眺めているだけだった。折妖渡は命令者でも何でもない暮里と、本物の人間と変わらぬやりとりをしているのだ。完全に自分の「意思」だけで動いているのである。

「十郎さん! 私達、これからもずっと一緒にいましょう!  あなたとなら私、何処へでも行きます。ついていきます!」

「それは……出来ない」

「え……?」

 思いも寄らない言葉に暮里ははたと相手の顔を見詰めた。折妖渡の顔からは笑顔が消え、静かな表情だけを浮かべている。

「どうして……どうしてなんですか」

「僕は人間じゃない。折妖だ。解るかい、あずさ。僕はたった一つの目的を果たすためだけに作られたんだ。あることを君に伝えるためにね」

「あること……って」

「そう。あずさ、僕は君に――」

 折妖渡が寂しげに目を伏せた時ーー

 パン。

 突如乾いた破裂音が響き、夥しい量の血飛沫を吐いて折妖渡は仰向けに倒れた。前方より飛来した一発の銃弾が暮里の頭をかすめ、折妖渡の左胸を貫いたのだ。

「じゅ……十郎さん! しっかりして下さい」

 暮里が懸命に声をかけるも折妖渡は致命傷を受け、虫の息だ。

「誰……誰がこんなことをしたの! 私の大事な恋人を!」

 だが暮里は背後を見て蒼白となった。拳銃を構え、怒りに震えるある人物の姿が、目に飛び込んできたのだ。

「よくも……よくも俺の家族を!」

 発砲したのは墨田だった。気絶していた墨田だったが、ようやく意識を取り戻して空き地を見ても、四面鬼の首は何処にもない。目にしたのは折妖渡が秋野満を殺める場面であった。

 ーーあいつ脱水を……。もしや!

 墨田の直感は的中した。側にいた三木塚が事情を説明してくれたのだ。あの折妖人間が家族を殺したと。捜し求めていた仇を目の前にした墨田は、反射的に落ちていた自分の拳銃を拾い、怒りと恨みをこめた銃弾を発射したーー

 家族の仇はとった……と思った墨田だったが、相手の手が微かに動いていることを知ると、ギリリと音を立てて歯を噛んだ。

「未だ息があるか……。ならばもう一発、頭にぶち込んでやる!」

「あ……先輩、待って!」

 とどめを刺そうと走り出す墨田を、三木塚が止めた。

「朋子、何をする! 奴は俺の家族を殺した張本人だぞ!」

「あの様子では助かりません。それにあの折妖人間、命令者のいいつけを無視して、逃げようとした私達のことを見逃してくれたんです」

 三木塚の意外な発言に声も出ず、墨田はその場に留まり銃を握りしめた手を下げた。

 一方、息も絶え絶えの折妖渡は、うっすらと目を開けた。最後の力を振り絞り、「恋人」へ向かって懸命に声を発しようとする。

「あ……あずさ……。すまない……。約束を……あの時にした約束を守れなくて……」

「十郎さん! 約束って、桜の木の下で交わした、あの約束ですか!」

「そ……そう……だ。僕は……どうしても君に謝……っておきたか……った」

「え……。十郎さん……」

「ああこの思……い、やっと……君に……伝え……ら……れ……た」

 その言葉を最後に、折妖渡は事切れた。満足そうに笑みを浮かべて。その死に顔が暮里の涙で濡れていく。暮里はまだ暖かみが残る折妖渡の頬を愛おしげに撫でていたが、異様な気配を察してその手が止まった。墨田が右手に銃を握り締めたまま、直ぐ後ろに立っていたのだ。

「あんたが暮里東か? 俺の名は墨田仁。墨田智明の孫だ」

 相手の名を聞くやいなや、暮里は地面にひれ伏した。老体に氷の如く視線が矢となり、突き刺さる。

「話は朋子から聞いた。覚悟は出来ているな」

「……はい。どうぞお気のすむようになさって下さい」

 墨田は暮里へ銃口を向け、引き金に指をかけた。

「先輩、いけません!  折妖人間ならともかく、人を撃つことだけは絶対に……!」

 三木塚の訴えが届いたのか、墨田は歯を食い縛った。全身から滝のように汗を流し、腕を小刻みに震わせて。だが最終的に良心が復讐心に勝ったようで、指に力を込める寸前で墨田は銃を下ろした。

「……あんたを罰するのは、俺じゃない」

 銃をスーツ下のホルダーへ収めると、墨田は振り返ろうともせず暮里の傍らから離れた。暮里はその背中へ向かって深々と頭を下げ、三木塚は胸を撫で下ろした。

 事の一部始終を近くで見守っていた鳳太は、まだ腫れの残る凰香の頬へ手をやった。

「凰香、大丈夫か? 首の傷は? 殴られたところ、痛むか?」

「うん、平気。有り難う、お兄ちゃん。ちょっと怖かったけどね」

 舌をぺろっと出す凰香と、それを見て微笑む鳳太。そこへ墨田が二人の側へやってきた。

「四面鬼の首はどうなった?」

「妹がこの鼠――天の邪鬼の力を借りて、紙漉きしました」

「その娘、漉士なのか。天の邪鬼の力とは何だ?」

「あ、それは」

 今度は兄に替わって凰香が話し出した。

「何て言うか、紙士の能力をひっくり返すって言うか……。詳しいことは三木塚さんに訊いてください。よくご存じのはずです。あ……、墨田さんはこの子に触らない方がいいですよ。優秀な紙士には疫病神でしかありませんから」

「そうか。それで四面鬼の妖紙は?」

「秋野がーーさっき折妖に殺された人がまだ持っているはずですけど……。多分、服の中にあると思います」

「わかった」

 墨田は秋野の干涸らびた死骸へ近付くと、無言で懐へ手を突っ込み、闇色の妖紙を取り出した。その様子を見て、三木塚は強ばった表情を浮かべた。

「先輩、その妖紙をどうなさるつもりですか? まさか政府に……」

「そう思うか?」

 固まったように立ち尽くす三木塚の前まで墨田は大股で歩み寄った。

「いいか朋子、よく見ていろ。こうするんだ」

 ズボンのポケットからライターを取り出すと、墨田は何の躊躇もなく四面鬼の妖紙に火を着けた。メラメラと燃え上がる妖紙。直後ーー

「ギャーッ! 熱イ、熱イーッ!」

 天の邪鬼が火達磨となり、鳳太の肩から落ちた。

「あ、おい天の邪鬼!」

「旦那、助ケテーッ! 熱イーッ! ギャアアアーッ!」

 愕然とする鳳太の目の前で、天の邪鬼はのたうち回った。天の邪鬼は四面鬼の分身。作り手と同じ運命を辿るのだ。その悲鳴はまさしく四面鬼の断末魔の叫びでもあった。

 墨田の手から離れた妖紙は地面へ落ち、間もなく燃え尽きて灰となった。勿論、天の邪鬼も。

 あっという間に焼死した天の邪鬼を見て、鳳太の心は僅かであれ痛んだ。折士は普通、支配下にある折妖にあまり情をかけない。実際、井上や墨田も自分の折妖が殺されても、悲しむ素振り一つ見せなかったし、鳳太も折妖犬を失っても平然としていた。所詮は有害生物が原料の家畜、使い捨ての「物」としてしか見ていないからである。さすがに己の手にかけて殺すのは嫌がるが、事故死しても「あー、勿体ないな」と思う程度で、死を悼むようなことはまずしない。

 しかし天の邪鬼は自分に懐き、突然迎えた最後で助けまで求めた相手。鳳太も何となく可愛いく感じていたのだ。かつて多くの人を殺害し、蘇った今も恐怖をまき散らした四面鬼。無邪気でどことなく愛嬌があっても、天の邪鬼はその四面鬼が作った分身ーーそうわかっていても。

 一方、そんな鳳太の気持ちを知る由もない墨田は、地面に散らばる妖紙の灰を執拗に踏みにじった。如何なる辣腕染士の技を以てしても、妖紙が復元出来ないように力を込めて。灰は跡も残さず完全に土と同化し、同時に鳳太の足下にあった「遺灰」も消失した。

 事をすませ、一息入れると墨田は三木塚に向かってさり気なく言った。

「これでお前も何も思い残すことなく、須藤朋子に戻れるだろう」

 墨田の心遣いが心底嬉しかったのだろう。三木塚は目を潤ませ、最敬礼をした。

「有り難う御座います、先輩……!」

「……朋子。ところでお前は、いつまで俺をそんな風に呼ぶ気だ?」

 些か照れくさそうに墨田が訊くと、三木塚は急に落ち着きを失った。

「それなら仁さん……で宜しいんでしょうか?」

「……取り敢えずそれでいい」

「わかりました。それで先……仁さんは、何故四面鬼の妖紙を燃やされたんですか? 上司からそのような指示が……」

「いや、俺の仕事は鬼の首塚の場所をお前から聞き出すことだ。妖紙を燃やせとは命令されていない。ともあれ、俺は任務に失敗した。これで警視庁にはいられなくなるな」

「そんな……。私、申し訳ないことを……」

 戸惑う三木塚に、墨田はほんの少し首を横へ振って見せた。

「気にするな。俺は警視庁に来たくて来た訳じゃない。俺は県警に留まりたかったのに、警視庁が半ば強引にスカウトしたんだ。どうも警察庁ーー警視総監の差し金だったらしいな」

「それってもしや、私と顔見知りだったことが原因じゃ……」

「さあな。そこまでは俺も知らん。それでお前、今後どうするつもりだ?」

「会社を辞め、七釜戸市から去ろうと思います。四面鬼の首が消滅した以上、もうここにいる必要はありませんから」

「それなら丁度いい。俺もこれを機に――」

 墨田は不意に言葉を切った。複数の警邏馬車パトカーのサイレンが聞こえてきたのだ。サイレンの音はどんどんこちらへ向かって近付いてくる。

「あーあ課長さん、やっとこの騒ぎに気付いてやって来たな。もう遅いけど」

 鳳太が苦笑いしている間にもサイレンは鳴り止み、三台の馬車が天目荘の横に急停車。沢崎が大木と数人の係員を率いてどかどかと現場へ乗り込んできた。

「ちょっと砂川君! 一体何があったの!」

 沢崎は空き地を見回し、思わず叫んだ。目に飛び込んできたのは馬車の近くに転がる一体のミイラと、点在する三体の折妖の死骸。そして男の遺体に寄り添う老婆だ。

「その事ならきちっとお話ししますよ、課長さん」

「わかった。でもその前に――」

 サッと手を上げると、沢崎は鳳太の頬を強か打った。

「あれ程大人しくしていろって言ったのに、あんたは……! まあ、済んだことはもういい。で、どうしたって? 私達、妖魔が出たって通報聞いて飛んで来たんだけどね」

 鳳太はヒリヒリする頬を押さえつつ、凰香と共に大まかな事情を説明した。話を聞き終えると、沢崎はてきぱきと部下に指示を出し、現場検証を開始。遺体の回収や重要参考人の身柄確保――家の中で眠りこけている秋野家の三人も含めて――なども手際よく済ませた。

「圭一……。辛いでしょうけど、償いはしなければならないわ」

 警察官に伴われ、警察馬車へ乗り込む須藤へ向かい、三木塚は言った。

「わかっている、姉さん。俺、罪を償うから。自分で撒いた種だから」

「私は待っているわ、圭一。お前が帰ってくるまで……」

 三木塚は目を閉じた。もう見ていられなかったのだ。警察に連行される弟の痛々しい姿を。

 続いて暮里がパトカーの前へ連れてこられたが、兄妹を見ると足を止めた。

「二人共ご免なさいね。こんな事になってしまって……。悪いけど、静代さんに伝えておいて。あなたのお孫さん達を巻き込んで、申し訳なかったって。あ……」

 暮里は首を伸ばした。折妖渡を乗せた担架が横を通り過ぎていったのだ。

「さようなら、十郎さん……」

 か細い声で一言呟き、暮里は馬車へ乗り込んだ。その曲った背中が兄妹には小さく見えてならなかった。

 

 鬼の首騒動から瞬く間に一週間が経過した。事後処理も一段落したこの日――五月十三日の午後、鳳太と凰香は沢崎から呼び出しを受け、七釜戸署へ出向いた。

「……何か事件の記者会見、大変だったみたいですね」

 事務所のソファーに腰を下ろしたところで、鳳太はムスッとした表情で前に座す沢崎に恐る恐る声をかけた。

「もう、大変なんてもんじゃなかったよ。記者が矢継ぎ早にあれこれと質問してくるのに、署長も本部長もあたふたするばかりでろくすっぽ答えられないと来た。午前中のうちにちゃんと私が事件について二人に説明して、打ち合わせまでしたのにさ。結局、私が殆ど応対する羽目になったんだよ、全く! 最後には鶏冠に来て、『うるさーいっ!』って怒鳴ってやったけどね」

 沢崎は眉間に皺をよせ、煙草を吹かした。

 事件の翌日、五月七日の夕方に如月県警察本部にて今回の事件の会見が開かれた。沢崎はこの会見に七釜戸署署長と如月県警察本部長と共に出席、事件の詳細発表及び質疑応答に当たったのだ。

 報道機関の反応は、県警察の予想を遙かに上回るものであった。市議会議員の誘拐、折妖人間の作製、鬼の首の復活……。前代未聞の事件に各報道機関は目の色を変えて飛びつき、会見会場へ殺到。記者やカメラマンが入りきれずに会場の外まで溢れるわ、テレビカメラが持ち込まれて全国に生中継されるわ、フラッシュの嵐のせいで会見が一時中断するわ……と大混乱となったのだ。一週間経った今でも熱は冷めておらず、新聞やテレビ・ラジオで連日この事件が報じられている有様だった。

「全く、あんなヒルみたいな奴等に付きまとわれたら、えらいことだからね。あんた達のことについて、大事な点を伏せておいたのは、ある意味正解だったよーー上の命令とはいえね」

 そう。沢崎は二人のことについて、「肝心な点」は一切公表しなかったのである。特に凰香について公表したのは、彼女が犯人ーー秋野に誘拐されたことと、その理由のうちの一つだけだった。即ち「砂川凰香は特製折妖人間を見破れる能力を持っていたため、事件の発覚を恐れた犯人によって誘拐された」という。最も重要な点ーー凰香が天の邪鬼の力を借りて、四面鬼の首を紙漉したという事実は伏せられのだ。誘拐されたもう一つの理由、秋野が凰香に四面鬼の紙漉きをさせようと企んでいたこと共々。

 さらに鳳太に至っては、詳細は殆ど明かされなった。自宅にいた時、四面鬼の首が空き地を急襲。その姿が見える鳳太は付近の住民に知らせて避難を促し、その途中で地下牢から逃げ出した妹と再会し、二人で避難した……ということにしたのである。「妖視能力者を生かして住民を救った青年」というわけだが、この事件の重要性から見れば印象は薄い。報道陣の関心をひくことはなかった。

 では表向きは、四面鬼の首がどのように処置されたことになっているのか。「たまたま」近くに居合わせた名高い漉士が、その実力をもって紙漉きした……と県警側は発表した。事実、二十二段漉士である紙士養成学校の本校長が、今回の事態に備えて四頭鬼町を当日の昼間視察している。勿論首塚の場所もわからないので、どの辺にあるのか見当をつけよう……程度のものであったが。本校長はこの日帰宅せず、市内の旅館に宿泊していた。本人が現場へ駆けつけた頃には警察の現場検証も終わりかけていて、もはや後の祭り状態だったが、このことが幸いしたかたちだ。

 ちなみに紙漉きの際に折士が一人同行し、折妖を使って支援したが、折妖は鬼の首に撃墜されたとしている。事件現場周辺の住民は皆避難して空き地の出来事を直接目撃した者はいないが、折妖が空中で何かとーー不可視状態の妖魔と戦っていたのは遠目からでも見当がつく。その対策として、こんな虚偽の話が持ち上がった訳だ。

 無論、実際に撃ち落とされたのは鳳太と墨田の折妖だったのだが、鳳太は妹と逃げたことになっており、墨田はその場にいたことすらなっていない。紙漉きの瞬間を目撃したのは、須藤と暮里、そして塚守の使命を全うしようと踏みとどまった勇敢なる女性ーー三木塚のみ。須藤と暮里は逮捕されて報道陣の前へは出てこない。三木塚には事前に沢崎が「これこれこういうことにするから、口裏合わせをよろしく」と話を付けた。三木塚も兄妹を報道陣から守るため、天の邪鬼の力を公にされたくないために喜んで同意した。

 虚偽の話はこれらに留まらない。四面鬼の首の妖紙は墨田がその場で燃やしてしまったのにも関わらず、妖紙は紙漉きした漉士が妖魔局に持ち帰り、その日のうちに焼却処分した……ということにしてしまった。もし現場で燃やしたことが発覚すれば、誰かがその灰を求めて捜しに来るかも知れない。墨田が入念に踏みにじってはいるが、欠片すら見つかるのは妖魔局としては避けたいのだろう。第一、「事件とは直接関係がない、しかも所轄外である警視庁の警察官が、自己判断で勝手に燃やしてしまった」とは、警察庁も口が裂けても言えなかった。

 会見の途中で記者の一人から、「発砲音が数回聞こえたという近隣住民からの話があるようなのですが、あんな住宅地で誰が撃ったんですか?」という質問があり、沢崎は些か焦った。発砲の件など、上司との打ち合わせにはなかったからだ。そこは県警本部長が、「あー、同行折士が拳銃を携帯しておりまして、彼が威嚇のため四面鬼の首に向かって発砲しました。また折妖人間も被疑者の一人を殺害したことから彼が危険と見なし、射殺しました」と回答、上司としての意地を見せた。いくら報道陣への素早い対応が苦手といっても、さすがに地方署の一課長に全てを委ねるのは、プライドが許さなかったのだろう。咄嗟の判断で話をでっち上げた訳だが、その内容に不自然な点はなかった。紙士も特別な許可をもらえば、銃器の携帯が可能なのだ。もっともそれは人里離れた場所で妖魔狩りを行う時の話であって、住宅地では許されていない。「緊急事態ですから、我々もその件は当人に注意はしても、責任は問いません。発砲による被害も報告されておりませんし」と、本部長はしらっと言ってのけたが。

 その様なわけで、会見で発表された昨夜の事件の概要はこうだ。主犯と思われる秋野満が市議二名と三木塚、そして凰香を誘拐し、裏切った須藤も監禁。しかし暮里がこの五人を解放し、その直後に四面鬼の首がかつての敵を求めて現場となった空き地を急襲した。凰香は鳳太及び市議二名と共に逃げ、駆けつけた辣腕漉士と同行していた折士が協力して鬼の首を漉いた。そこへ秋野満が現れて妖紙を奪い取り、逃走を謀ったものの「狂った」自らの折妖人間に襲われ、死亡。直後その折妖人間も銃殺された……という次第。

 逮捕者は死亡した秋野満を除けば五人。秋野家の三人と須藤、そして暮里だ。秋野家の三人は主犯の家族でもぐり紙士であり、まずはその件での容疑によるもの。須藤は秋野満が鬼の首塚の場所を捜す手助けをし、行動を共にしたため。暮里は折妖人間を作製するための情報を秋野満に提供した事に加え、四頭鬼町の土地を与え秋野家のもぐり紙士稼業の幇助をしたため。何故か九年前の事件ーー墨田一家殺害の件については、一切触れられなかった。この事件は「犯人は妖魔の幽鬼」ということで一応の決着がついている。今になって掘り返し、「実は折妖人間が犯人でした」などと公表して恥を晒すのは、警察の沽券に関わることなのだ。しかし報道機関に伝えられないだけで、実際には暮里の殺人依頼の罪が許されるわけではない。検察はその事についても抜かりなく追求してくるだろう。

 ……とまあ嘘と秘密で塗り固められた記者会見だった。最も恐れられている妖魔の一つである四面鬼。その首を新米の下級紙士に退治されては、妖魔局もその上部機関である警察庁もメンツ丸潰れだ。兄妹を報道陣から守るためと言うより、己のプライドを死守するためーーそんな御上の本音は、沢崎も兄妹もよくわかっていた。特に凰香は手柄を横取りされた格好だったが、意外にも一切根に持っていなかった。国を救った英雄として大々的に報じられ、マスコミに追っかけられる。そんなことは真っ平御免だったのである。

「有り難う御座います。おかげで日々平穏に暮らしております。事件のことで家に取材に来た人は何人かいて、『誘拐されて怖くなかったんですか』とか『凄い妖視能力をお持ちですね』とか言われましたけど……」

「あんたがそう言ってくれるのなら、こっちも少しは気が楽になるよ。いつだって上層部は自分達の名誉やら体面を保つことばかり考えて、下の者や現場の者の苦労なんて何一つ気にかけちゃくれないんだから。本当に悪かったね」

 沢崎も本当は報道陣の前に兄妹を連れ出して、「あんなに都合よく本校長があそこに駆けつけられる筈がないだろう! 鬼退治をしたのはこの子達なんだよ!」と褒め称えたかった。それが出来ないのは沢崎にとってかなりのストレスにーーそれこそ怪獣サワゴンになり、火を吐いて暴れたくなるほど腹立たしい事だった。

 その思いは鳳太も同じだった。鳳太は目の前で折妖が立て続けに倒されるのを目にし、妹に寄り添って四面鬼の首と対峙した。故にその恐ろしさを身にしみて知っている。何も知らない呑気な妖魔局の幹部に「はいはい、よく四面鬼の首を始末してくれたね。ご苦労さん。でもこのことは無かったことにしてね。僕達の格好がつかないから」というようなことを言われた時は、手加減抜きでぶん殴ってやろうかと思った。しかしどうにかこうにか思いを抑えて、差し出された口止め料を「いるか、そんなもの!」と叩き落としたに留まった。

 その時の不愉快な出来事を思い起こし、むくれる兄を横目でみつつ、凰香は沢崎に尋ねた。

「それで課長さん、大家さんや須藤さんは今後……」

「暮里さんの刑期は相当長くなるね。あの歳だし、気の毒だけど、娑婆には戻れないだろう。須藤君は執行猶予は無理だけど、長くても数年で出てこられるんじゃないかな。ただ秋野家の人間は、こんなもんじゃ済まされないよ。もぐり紙士で殺人、折妖人間作製、誘拐、密輸妖紙の使用、更に首相暗殺未遂まで立証されたら死刑は確実、よくても一生刑務所で臭い飯を食べることになるね。それに連中の供述によれば、まだ他にも折妖人間を作って、しかも販売までしていたらしい」

 秋野一家は折妖渡の「優秀さ」を確信した後、この「紙士にも見破れない特製折妖人間」を闇市場に密かにアピールした。結果、ここ数年間で十件以上の依頼を受け、折妖人間を作製。依頼主から大金をふんだくっていたのだ。闇市場からの依頼はその殆どが犯罪がらみ。折妖人間を事故を装って殺し、保険金をだまし取った……などはまだ可愛い方。殺した人間の身代わりにして殺人の発覚を遅らせ、依頼主が海外へ高飛びする時間を稼がせる。自分と同じ折妖人間をアリバイ工作に利用する。陥れたい人物そっくりの折妖人間に罪を犯させ、濡れ衣を着せる……といった疑惑も浮上しているという。勿論、今後は秋野一家のみならず、依頼主にも捜査の手は及ぶことになるだろう。

「幸いというか、秋野家の者はこの作製法を『企業秘密』とし、外部に漏らさなかった。だから例のノート――渡が残したノートを押収するだけで済んだんだよ」

 沢崎はふうと息をついた。最も恐れていたことーーこの特製折妖人間の製造法が、もぐり紙士の間に広まることは回避出来たからだ。もぐり紙士の中には俗に「裏妖魔局」とも呼ばれる、マフィアのような組織を作っている者達もいる。だが秋野一家はそうした組織とは一線を画し、独自に事業を展開する言わば「家族経営」のもぐり。折角手に入れた金儲けの手法を同業者に教える気はさらさらなかったのである。

「まーでもその特製折妖人間も、とんでもない欠陥が判明した以上、誰も欲しがらなくなるんじゃない? 『この折妖人間は、命令に背くことがあります。最悪の場合、命令者を殺害することもあります』なーんていうんじゃ、お話にならないしね。折妖は人の言うこと聞いてなんぼだから。カッカッカ!」

「それで課長、そのノートの中は御覧になったんですか?」

 自席で書類を纏めていた井上が手を休め、会話に割り込んできた。途端に沢崎はビクリと肩を動かし、首を勢いよく横へ振った。

「じょ、冗談じゃない!  誰があんな物見るかい! あれは染士にとって、目の毒以外の何者でもないよ!  証拠品じゃなければ、直ぐにでも焼いてしまいたい代物なんだよ!」

「そうですか。それにしても渡が折妖人間を作ろうとした理由は、意外なものでしたね。戦死者の代わりに遺族の許に置くのが目的だったなんて。なあ、和さん」

「ああ。ま、渡の気持ちもわからんではないよなあ……」

 大木が天井を見上げながら頷くと、沢崎はきっと目尻をつり上げた。

「そうかい? 私はそうは思わないね。第一そんな折妖人間を欲しがるのは、人の死を受け入れられない人間がすることだよ。そりゃ誰だって身近な者の死は悲しい。でも悲しみも時間が経てば少しずつ薄らいでいく。そして笑顔で故人のことを思い出せるようになるもんさ。あの人といた時にこんな楽しいことがあった、あんないいことがあったってね。それが出来ずにいつまでもぐずぐず人の死を引きずって生きるなんて……最低だよ! 死んだ人だって残した者が気になって、成仏できないじゃないさ!」

「大家さんも結婚して気が別の方向へ逸れていただけで、心の奥底で渡さんの死をずっと引きずっていた。そして旦那さんが死んで独りになって、本に挟まれた『遺書』を見た時、その引きずっていたものが一気に弾けたってことなんですね……」

 凰香がふとそんな事を呟いた時、沢崎が怒気を治めて兄妹の方を向いた。

「あ、遺書で思い出したんだけどね。私達も暮里さんのところから遺書が挟まれた本と一緒に、渡の日記も押収したんだよ。で、捜査途中だし、まだ詳しいことは言えないけど……」

 渡の日記には、確かに暮里が話したように五十年前の事件に至る経緯や経過が記されていた。しかし意外なことに暮里に関する記述は一言もなかった。当時の二人の関係は極秘にされていた。そのため渡はこのことを日記にすら残さなかったのだ。当然の事ながら墨田智明は親友の恋人の存在など知らない。もし暮里のことを知っていれば、あの実直で親友を裏切った罪に苛まれていた墨田智明のこと。必ずや暮里を捜し出し、謝罪していただろう。

「それじゃもし墨田さんのお祖父さんが大家さんに会って、『自分が警察に通報しました。申し訳ない』って謝っていたら、墨田さんの実家で起きたあの事件はなかった……」

「かも知れないね、砂川さん。更に言えばね。渡はどうやら墨田智明のことを恨んじゃいなかったみたいなんだよ。それどころか日記の最後の方には、『妻子持ちのあいつを巻き込んでしまった。悪いことをした』なんてふうに読める記述すらあった。暮里さんにそのことを話したら、えって顔をしていたよ。暮里さん、渡が裏切られたことばかりに目がいって、最後まできちんと読んでいなかったんだね」

 鳳太も凰香も沢崎の話を聞いて、黙り込んでしまった。墨田家の惨劇は、数々の不運な出来事が重なって起こったのだ。墨田智明が暮里に会っていたら。暮里が渡の日記を最後まで読んでいたら。いや、それ以前に暮里が渡に会っていなかったら。暮里があの日、渡の家の軒下で雨宿りしなかったら。いいや、そもそも戦争なんてなければ。戦争さえなければ渡が折妖人間など作ることも無く、二人は結ばれて幸せな家庭を築けた筈なのに……!

 暗い面持ちで俯く二人を見てまずいと思ったのか、沢崎は表情を和ませた。

「ところで二人共、この後どうするんだい? 暮里さんがいないんじゃ、あのアパートにはもう住めなくなるんだろう?」

「あ……俺達、訳あって井澄市の生家へ戻れないんです。だから藍滑町あいなめまちにあるお袋の実家に身を寄せようと思います。祖父母とも元気ですし。そこでまた二人で紙士修行をしますよ」

「そうかいそうかい。それならこれ、餞別ね」

 沢崎は封筒を一つ、テーブルの上に置いた。

「今日はこれを渡そうと思って呼んだのさ。大した額は入っていないけど」

「そんな……。色々お世話になった上に……」

「そうです。俺も課長さんには迷惑かけましたし……」

 兄妹が困り果てていると、沢崎は豪快に笑った。

「遠慮しなくてもいいよ。これの半分以上は和さんが出したんだからね。和さん、あんた達に食事を三日間、おごるって約束しただろう? でも結局二日目の昼までしかおごれなかったから、その残額って訳さ」

「砂川、覚えておけよ。おかげで俺の来月の小遣い、パーになったんだからな!」

 大木が恨めしげに睨み付けても、鳳太は知らぬ顔。隣で凰香はクスリと笑った。

「二人共、元気でやっていくんだよ。最後に、私の方から一つ言っておきたいことがある」

 煙草の火を押し消すと、沢崎は兄妹の顔を交互に見詰めた。

「あんた達もいずれは別々の道を歩むことになると思う。でも絶対に独りになっちゃいけないよ。誰でもいい。最低でも一人、誰か信頼出来る人間に側にいてもらいなさい」

「どうしてですか? やっぱり寂しくなるから?」

「砂川君、確かにそれもある。でもそれだけじゃない。人間独りぼっちになると、何かにのめり込んだり、思い込んだりした時に怖くなる。周りが見えなくなって暴走するんだよ。暮里さん、取り調べの時に涙ながらにこう話していたそうだよ。『私があの人の側にさえいれば……。折妖人間を作るなんてこと、止めさせられたのに……』ってね」

「でもその大家さんも、渡さんを蘇らせたい一心で暴走しました。大家さんにとって唯一の友人だった俺の祖母さんも、家庭のことで手一杯で相談に乗ってやれなかったし……」

「人に相談出来ず、独り思い詰めた人間が起こしてしまった事件が、今まで一体幾つもあったことか。だからこそ人は独りになちゃいけないんだ。わかったね、二人共」

 はい、と凰香と共に答えた後、鳳太は胸を張って宣言した。

「俺、もしも凰香を守る役目から降りたとしても、見守ることは止めませんよ。何かあったら真っ先に飛んでいきますから」

 鳳太は妹の肩へ手を回し、自分の方へ引き寄せた。凰香は敢えて抵抗はしなかった。ただその顔は真っ赤に染まってはいたが。


「課長さんがくれたお金、本当にもらっちゃっていいのかしら?」

 七釜戸署からの帰り道。夕焼け空の下、野々瀬川沿いの遊歩道を歩きながら、凰香は鳳太に問いかけた。

「いいんじゃないのか。引っ越し費用の足しになるし」

「でも昨日もお金じゃないけど、もらっているじゃない。三木塚さんのご両親に」

 実は昨日の昼過ぎ、三木塚が両親と共に二人の家を訪ねてきたのだ。須藤の荷物の引き取りや諸手続を行うために、両親はわざわざ青波県から出てきたという。

 ーーお二人には倅が大変な迷惑をおかけし、まことに申し訳ありませんでした。もとはと言えば私が慣れない事業に手を出し、借金を抱えてしまったことが全ての元凶。私の借金さえなければ、倅はあんな馬鹿な真似をしなかったはずです。倅が金と引き替えに首塚の場所を教えるなんて約束しなければ、あのもぐり紙士がこの町へ来ることもなかったのに……。

 三木塚の父親は妻と共に平身低頭。兄妹が恐縮してしまう程にひたすら謝罪し、せめてものお詫びと相当額の百貨店の商品券を差し出した。これを凰香が兄を制し、丁重に受け取りを断った。三木塚の父親が抱えている借金は、まだ大部分が残っていたからだ。すると三木塚は兄妹に向かってこう告げた。

 ――父の借金のことなら、けりはついたわ。仁さんが肩代わりして下さったの。

 三木塚の話によれば――五月十日、事前連絡なしで墨田は一人貸主の家へ押しかけ、自腹をきって三木塚の父の借金を現金で全額返済。借用証を唖然とする貸主の目の前で破り捨てると、領収書を受け取って引き上げ、それを三木塚の実家へ届けたという。

「墨田さん、すげえよな。ウン百万って金をぽーんと払ったんだろう? エスピーは高給取りだって言うけど、他人の借金の肩代わりするなんて、簡単に出来ることじゃないぞ」

「だけど墨田さん、エスピー辞めるのよね。本人がそれを望んだってことだけど」

 事件の翌日、墨田は梶原から呼び出しを受けた。昨夜の問題行動について訊きたいことがあると。ところが梶原が追及したのは任務失敗の件でもなければ、住宅地で発砲したことでもなかった。ましてや二体の折妖を失ったことでも折妖渡を撃ち殺した件でもなくーー何と無断で四面鬼の妖紙を焼いたことについてだったのだ。あまりに身勝手な上司の言い分に墨田は爆発しかけたが、それを飲み込むと怒気を含んだ声で尋ねた。

 ーーでは総監はあの妖紙をどうなさるおつもりでしたか? いずれ処分するのであれば、早いに越したことはないはず。それとも処分はせず、何か別の目的にでも?

 刃のような視線を向ける墨田を前に、梶原は答えに詰まった。その狼狽える姿に相手の腹の内を悟った墨田は、

 ーーあんな物、この世から永久に葬り去ってしまうべきなのです!

 と一言言い放ち、辞表を突きつけて退室してしまった。一介の折士に戻り、故郷の青波県で再出発する決意を固めたのである。

 慌てたのは梶原――警察庁だった。墨田は十四段折士、辞められるのは痛い。優秀な人材を手放すまいと、警視庁は辞表を受理せず、青波県警察への「左遷」を決定した――

「墨田さん、結局その辞令を受けたそうね。よかったわね、青波県に戻れて」

「ま、墨田さんほどの折士なら、何処の企業や団体からも引く手数多、転職先には困らなかったんだろうけどなあ……。あー羨ましい」

「そう言えば三木塚さんも実家に帰るって話していたわね。弟さんがあんな事になったから、ご両親のためにも自分が側にいなくちゃって思ったみたい。でもよかったわ。せめてあのネックレスだけは三木塚さんにお返し出来て」

 凰香は須藤家の三人が訪ねてきた際、折妖西村が身に着けていたシルバーチェーンのネックレスを三木塚へ渡していた。ネックレスは警察が証拠品の一つとして回収していたが、凰香が沢崎に無理を言って返してもらったのだ。須藤はこれを他人に触らせないほど大切にしていた。たとえ行方をくらましていても、姉のことを慕っていたのだろう。姉弟の絆の証でもある、思い出の品。だからこそ凰香はどうしても三木塚に預かってもらいたかったのだーー須藤が刑期を終えて帰ってくる日まで。

「三木塚さん、嬉しそうな顔していたよな。『あの子がそんなに大事にしてくれていたなんて』って」

「だけど三木塚さん、実家に戻っても大変でしょうね。家から犯罪者が出たんじゃ、世間の目も厳しいし」

「大丈夫だって。三木塚さんの実家、墨田さんの転勤先の管内にあるっていうじゃないか。何かあったら墨田さん、直ぐに駆けつけられるだろう」

「そう……ね。三木塚さんも須藤姓に戻るって言っていたわね。だけどいつまで『須藤朋子』さんでいられるのかしら?  ねえ、お兄ちゃん」

 凰香はそう言って笑いかけたが、何か思い出したように真剣な眼差しを鳳太へ注いだ。

「お兄ちゃんのカン、当たっていたわね。あの折妖人間のこと」

「奴等が自分の意思で行動したってことか?」

「うん。しかも不思議なことに、渡さんの折妖は二度も命令に逆らったわ。私達が牢から逃げる時と、秋野から大家さんを殺せと言われた時と」

「命令者には絶対服従――そんな目に見えない鎖で折妖は縛られている。その鎖を解いたりかけ直したりするのが、『折妖馴し』だ。だからこの術を使う時、折士は『汝を縛りし鎖を解き、今、我が新しき鎖をかける』って言うんだ。こうやってな」

 鳳太は右手の人差指と中指を凰香の額へ当て、術を施す真似をして見せた。

「折妖は覚醒しても素妖のーー妖魔の心は完全に封印され、絶対に出てこない。あるのは鎖に捕らわれた、忠実な下部としての心だ。だからどんなに素妖が人間のことを恨み憎んでいても、折妖が命令者に危害を加えることはない。わかるな?」

「うん。紙解きをして、妖紙を妖魔に戻さなければ、妖魔の心が目を覚ますことはないわ」

 そう言って凰香が頷くと、鳳太はさらに話し続けた。

「だが折妖渡には下部の心に加え、本物の渡の記憶があった。あいつには大家さんは掛け替えのない女性ひとであるという、とてつもなく強い意識があったんだ。だから大家さんが切なる願いをした時、その意識が鎖を緩めた。そしてあいつにとって最も許せないこと――大家さんの殺害を秋野に命じられた時、ついに鎖が切れ、己の感情や意思が完全に表へ出てきたんだ」

「そう……か。ねえ、もしその鎖がもっと早く切れていたら、折妖渡は墨田さんの家族を殺したりはしなかったんじゃないかしら。だって渡さん、墨田さんのお祖父さんのこと恨んじゃいなかったんでしょう?」

「多分な。殺したのはあくまでも秋野の下部である折妖渡。下部は命令者の命令を守ることしか考えていない。いくらあの特製折妖人間が『己の意思で判断』出来ると言っても、あくまでもそれは命令に反しない範囲での話だ。渡本人の意思は関係ない……ってたとえわかっていても、墨田さんは絶対に発砲していただろうな。長年捜し続けていた仇が目の前にいたんじゃ」

「……うん。それでね、お兄ちゃん。私、わかったの。渡さんは桜の木の下で交わした約束を守れなかったことを悔いて、その事をどうしても謝りたくて『僕を蘇らせてくれ』って大家さんに遺書を残したんだと」

 立ち止まり、凰香は静かに流れゆく川へ目をやった。

「大家さんはずっと思っていた。二人が一緒になるため、渡さんは折妖人間を作ってくれと頼んだと。でもそれは違った。だって折妖渡ははっきり大家さんに言ったんだもの。『それは出来ない』って。そして死ぬ間際に『ああ、やっとこの思い、伝えられた』って言ったじゃない。九年間、伝えたくても鎖のせいで言えなかった思いこそが、大家さんへの謝意。渡さんは自分そっくりの折妖に、自分の真の気持ちを託したのよ。文面じゃなくて、自分の姿と声で心からのお詫びの言葉を伝えたかったのよ」

「成程、そういうことか。普通なら絶対に切れない鎖。それを切ったのは、さっき話した大家さんに対する意識に加え、本物の渡が折妖に託した『どうしても彼女にお詫びをしたい』という強烈な思いと、それを守ろうとする奴自身の使命感だったんだな。この人を殺めてしまったら伝えられなくなる。謝罪の言葉をこの人に伝えるために自分は作られたのに……っていう」

「それが折妖渡が言っていた『たった一つの目的』なのね」

「そうだ。奴は自分の使命を最後の最後で果たした。満足だったんだろう」

「幸せそうな死に顔だったものね」

「ああ。だが俺が渡だったら、折妖に言葉を託すなんてことはしないぞ。見ろ、凰香」

 鳳太は川面を覗き込むと、そこに映る自分の姿を指差した。

「お前、ここにいる俺にそんなこと言われて嬉しいか?  感動するか? 折妖は本人じゃない。所詮は影でしかないんだ」

「ならお兄ちゃんだったら、どうするの?」

「俺だったら生きているうちに何としても会って伝えるさ。声が駄目なら態度でも何でもな。なあ、凰香。祖父さんの家に行く前に、一度お袋の墓参りをしないか?」

「そうね。七釜戸ここであったこと、お母さんに報告しなくっちゃね」

 二人は再び石畳の道を歩き始めた。橙色に染まった空を仰ぎ、鳳太はふと漏らした。

「それにしても天の邪鬼は惜しかったよなー。あいつがいれば昇級試験、楽々合格出来たのに。ハンカチにでも化けさせて、ポケットの中に隠しておけば試験官にもばれないし」

 凰香はえっと小さく叫び、兄の顔をまじまじと見詰めた。

「……呆れた。お兄ちゃん、そんなずるをしようと思っていたのね。やっぱりお兄ちゃんは私が見張っていなきゃ駄目だわ。目を離すと、何をしでかすかわからないもの」

「何だと? そんなこと言うともうお前のこと、守ってやらないからな!」

「結構よ。私も墨田さんみたいに強くて素敵な人、見付けるから」

 べーっと舌を出すと、凰香は走り出した。

「こいつ! 待て凰香、待てったら!」

 拳を振り回し、妹を追いかける鳳太。兄をからかい、はしゃぐ凰香。そんな二人の傍らを、爽やかな皐月の風が吹き抜けていった。


 *    *    *    *    *

 

 最終話は大幅に加筆したため、投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。

 本編はこれにて終わりとなりますが、活動報告に暫く設定資料を掲載していく予定ですので、そちらもよろしくお願いします。

 「紙使い~鬼の首塚伝説」、如何だったでしょうか。最後まで読んで頂き、有り難うございます。

 実はこの小説、十年も前に書いたものなのです。当時ファンタジー小説を書いてはコンテストに応募する……ということを繰り返しておりまして、当作品も二つのコンテストに出しました。でもあえなくどちらも第一次選考で落選。お蔵入りとなるはずでした。

 しかし自分で言うのもなんですが、この小説の世界観は気に入っていました。そこでまず昨年、自分のブログに掲載。後日友人よりこのサイトに投稿してはどうかと勧められ、加筆して投稿に至ったというわけなのです。

 さて、妖魔を紙にして折り、使役する……というアイデアは、どうやって思いついたのか。明確には覚えていませんが、恐らく「ミスティックアーク」というスーパーファミコンのゲームが意識にあったのだと思います。このファンタジーRPGは遭遇したモンスターをフィギュアへ変え、敵と戦わすことが出来る……という特徴がありました。モンスターを一度物にし、戻して支配下に置く。ヒントはここにあったようです。

 さらに私自身、折り紙には結構興味がありました。大人向けの折り紙の本を買った事もありますし。ただそこに掲載されている作品を実際に折っても、上手くいきませんでした。早い話、不器用なんです。こんなことでは鳳太のこと「下手」なんて言えませんね(笑)。

 この小説、出来ればシリーズ化したいとは思っています。実のところ、次回作のタイトルと大まかな流れは出来ています。ただ、細かいところは全然なので、完成出来るかどうかは不明です。もし上手く話がまとまって、完成したらこちらのサイトで発表したいと思います。その時はまた読んで頂ければ幸いです。それでは。

 

 

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