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アタッチメント!  作者: 緒川公平
四日市東高校陸上競技部へようこそ!
3/6

(2)

「えー、みなさんお疲れ様でした。以上で部活紹介を終わります。えー、生徒は教室に戻ってください」


 教頭先生のこの言葉を皮切りに、生徒があちらこちらで立ち上がり始めた。

 事前に知らされていたスケジュールでは10時から12時となっていたが、各持ち時間の2分をオーバーした部がそこそこいた事、交代でもたついて時間をロスしてしまった事などが響き、結局終わったのは12時半だった。

 流石にみんな疲れたのか、周囲では「あぁー」とか「疲れたー」とか言って首や肩を回しているやつが多かった。男子も女子も、疲れ切ったおっさんみたいな声を出していた。


 かくいう俺も、尾骨がイカレれるかと思った。後半の方はほとんど痛みとの戦いだった。

「いやぁ、いっぱいあったなぁ」

 手島も最初の方はほえーとかすげえとか呟いていたが、後半になるにつれて無言になっていった。まあ毎回そんな反応してたら、そりゃあ疲れるわ。

 手島は「ああー」と息を吐き出して天井を見つめていた。こいつもおっさんになっている。


 そう、何よりも驚いたのがその数だ。

「それな。いくつくらいあったよ、絶対40以上はあったよな」

「俺数えとったんやけど、54あったよ」

 そう、事前に手島から数が40以上あると聞いていたので覚悟はしていたが、まさか50を超えてくるとは思わなかった。

 そりゃ紹介だけで2時間半を要するのは当たり前である。


 すぐに立ち上がって帰らなかったのは、どうせ今帰ろうとしても出口が混雑して止まってしまうからだ。今、やっと動き始めたのが見えたので、立ち上がって「行こうぜ」と言うと、手島は「どっこいせ」と力んで立ち上がった。どうやらこいつも同じ意図だったらしい。やっぱりおっさんだなこいつ。


 うちの高校は、鳥瞰するとカタカナの「ヲ」という形が一番近い。

 上の横線が教室棟で、大抵のクラス教室がここにある。

 下の横線が職員室や保健室などがある特別棟で、それにプラスして化学室や生物室などが入っている。

 その2本を繋ぐ縦線が、図書館や視聴覚室、美術室などがある新棟だ。それと、教室棟に収まらなかった一部のクラス教室がある。

 そして、「コ」から飛び出した下の部分が渡り廊下であり、はらいの先端に体育館や武道場がある。

 そして、2本の横線の下ではらいの左側に当たる部分は、グラウンドである。


 この渡り廊下が割と狭くて長いため、こうやって全校生徒が出てくる集会などの帰りは渋滞で苦労する。東名高速と新東名高速みたいに、渋滞緩和のために2本作ればいいのにね。

 ちなみに、連休のニュースではいつも四日市IC(インターチェンジ)で渋滞している。あれを聞いて、いつも余所よその人に申し訳なく思ってしまう。うちのIC(インターチェンジ)がご迷惑をおかけしまして……。


「それにしても長かったなあ」

「な、流石に20キロは混みすぎだよなー」

「??何の話しとんねん」

「あー……、ごめん、何の話だっけ」

四日市インターの話ではなかったらしい。手島は気にした素振りもなく、話を続ける。

「部活紹介の話。ムネは、何かここや!って部活あった?」

 うーん、と考え込んでしまう。何せ各部の個性の強さに、選ぶと言うよりただただ圧倒されてしまった感がある。


 大体の部活が部活名、活動場所、時間、実績を紹介した後、ミニパフォーマンスをして終了というのが大まかな流れだったが、中にはこの流れから逸脱している部もあった。


 特撮研究部は、3分間延々と好きな怪獣を列挙していっただけで。

 ドイツ語研究部は、最初から最後までドイツ語で紹介を行った。果たして1年生のうち何人が理解できただろうか。俺は無理だった。

 読書部は、「本を読みます。以上です」とだけ言うと、そそくさと体育館から出て行ってしまった。アナウンスが短すぎて、詳しい活動が不明である。あれでは、読書好きは全員、似たような活動をしている文芸部(ぶんげいぶ)に流れてしまうだろう。何せ謎すぎる。


 とまあ他にも色々あったが、何せ54個だ。途中で集中が切れたこともあって、全ての詳細を覚えてはいなかったが、確かに各部、楽しそうではあった。

 まさに「持て余す青春の活力を、燃やし尽くしている」という感じだった。


「たくさんあって迷ってるなぁって感じかな」

 俺がそういうと、手島は胸元をごそごそと探り、小さい手帳を取り出した。

「情報が欲しかったら言ってくれ。今日の順番通りに、言っとったことが書いてあるから」

 こいつ、メモしてたのか……。マメだなあ。

 小学生並みの感想しか出てこないが、ちょっと見せてもらい、パラパラめくってみると確かに各部の内容がびっしり書かれていた。将来の為にも、これは見習わなくてはいけない。


 そして何となく、「No.28 陸上部」の欄を見てしまう。

 そこには、「グラウンド ほぼ毎日」とだけ書かれていた。実績が何も書かれていないというのは、最近は上の大会に進めていない事を示していた。


 陸上部のアナウンスは、実に味気ないものだった。

 制服を着た3年の男女が、マイクで淡々と喋っただけで終わってしまった。

 俺はてっきり、ハードルとかを持ち込んで派手にやるものかと思ったが、若干肩透かしを食らってしまった。


 前の番の硬式テニス部がラリーをし、次の番の軽音学部がアコースティックギターで弾き語りしながらアナウンスした。その間にあんな地味な喋りでは、1年生に印象付けるのは難しいだろうな。

 入部希望者も少ないだろうし、陸上部はナシだな。

 まあ、どのみちやるつもりは無かったけれど。


 そう、決意を新たにした。

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