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家庭事情

「つーか、犯人探しなんて簡単だよな」


謎の生活感溢れる理科室に住まう犯人を捜すこととなったリョウたちはまずは作戦会議と名してクラスメイトの帰宅した教室に集まっていた。

窓からはグラウンドで部活にいそしむ部員たちの活気ある声が聞こえてくる。それをBGMに四人は椅子に腰掛け身を寄せ合いそれぞれが個々の反応をした。


「そうだな。あの教室を見張ればいい」


リョウの言葉に真っ先にケントが同意する。

横で聞いていたヨシマサがなるほど!と手を叩いた。


「でも、いつそいつが帰ってくるか分からないぞ」


「その通りだ。だから一度みんな家に帰って見張りの準備をして戻ってくるってのはどうだ?」


リョウは教室の時計を見つめる。現在時刻は午後5時半過ぎ。もうすぐ下校を促す放送が流れることだろう。


「7時に集合しよう。みんなが来るまでは俺が見張ってる。俺はみんなと違って親もいないし、一緒に住んでるばあちゃんにはモモから伝えればいいから問題ないし」


リョウの提案にヨシマサが妙に食いつく。


「モモって、中等部のモモちゃんか!」


フウタがキョトンと首をかしげる。


「誰?」


「あ、そうか。まだフウタは会ったことなかったっけ。リョウの妹だよ。中等部なんだけど、よくリョウに会いに来るから前までは結構高等部で有名だったんだぜ」


ヨシマサがなぜか自慢げに言う。黙って聞いていたケントが眉を寄せた。


「そういえばなんで最近来なくなったんだ?」


「…俺が言ったんだよ。必要ないって」


渋い顔のリョウにヨシマサがえ〜!と唸った。


「なんでだよ。兄貴をわざわざ迎えにてやってんだからきょうだい仲良くしろよ。照れてんのか?」


「うっせーな。俺の家族事情なんてどうでもいいだろ。呼べばすぐ来るからちょっと電話してくる」


そう言って逃げるように教室を出て行くリョウを見送りながらフウタがヨシマサに話しかける。


「リョウにきょうだいがいたなんて知らなかったけど、その妹ってのはなんで高等部で有名だったんだ?」


「そりゃあ可愛いからな!小ちゃいしツインテールだし、あとリョウに対する態度が普通のきょうだいっぽくなかったからかなぁ」


うーんと顎に手を当てるとヨシマサは微妙な表情をした。


「モモちゃんってリョウに対して敬語で話すんだよ。あとお兄ちゃんって呼ばない」


「じゃあなんて?」


「リョウ様」


「はあ?」


怪訝な声を上げるフウタにケントが淡々と答える。


「だから様付けなんだ。なんでだか知らねぇがな」


「それは…確かに目立つな」


「俺らもなんでか最初の頃に聞いたんだけどさ、あの2人って義きょうだいって奴らしくてさ、家の事情があるからあんまり触れるなって釘刺されたんだ」


ヨシマサがいつになく真剣な表情で語る。

その様子を見ながらフウタはリョウの出て行った扉に視線を向ける。


「そういえば、僕らって一緒に行動はしてるけどお互いの家のこととかなにも知らないんだよな」


「ま、入学したてだし、家族関係なんて興味なかったしな。さっきさらっと流してたリョウの親がいないってのも気にはなったけど、あいつが話さないならわざわざ聞く必要もねぇよ」


ケントの言葉にその場にいた全員が頷く。


「だな。モモちゃんという可愛い血の繋がらない妹がいるってだけでもかなり衝撃的だってのに、これ以上ディープな家族事情知っちまったらもうどうリョウと接していいかわかんねぇもんな」


真顔で言うヨシマサにフウタとケントは2人して項垂れる。


「お前だけ論点ずれてる気がするぞ…」


「え?なにが?」


「…まあいいか。じゃ、リョウが来たら俺らは一度帰るってことでいいんだっけか」


「そうだったな。そういえば呼べばすぐ来ると言っていたが、リョウはその妹をわざわざここに呼んでいるのか?」


「確かにそうだな。家に帰らないことを伝えるだけなら呼び出す必要はねぇよな。なんか別に用でもあるんじゃねぇの?」


フウタとケントが首をかしげる中、ヨシマサは腕を組んで口を尖らせていた。


「にしても、リョウはモモちゃんを便利に使いすぎだぜ。全く…自分がどれほど恵まれた環境にいるか自覚するべきだ」


「なに言ってんだ?お前」


呆れるケントに食ってかかるようにヨシマサはまくしたてる。


「だってそうだろ?敬語で話して自分のことを様付けで呼ぶ妹と同じ屋根の下で暮らしてるんだぜ!?朝なんて『起きてくださいリョウ様』とか呼ばれるんだぜきっと!なんっだそれ!羨ましすぎんだよ!」


「邪心の塊だな」


フウタの軽蔑の眼差しをもろともせずヨシマサは続ける。


「なのにあの野郎!モモちゃんに対して『来なくていい』だの『必要があれば俺から呼ぶ』だの何様だ!?モモちゃんはお前の召使じゃねぇんだよ!」


「どうしたヨシマサ…いつになく熱いぞ」


「前々から思ってたんだよ。あの2人って義きょうだいにしても、全然きょうだいっぽくないっつーか…」


他人の俺がとやかく言うことじゃねぇかもだけど…と唸るヨシマサにケントも考え込んでから確かにと頷いた。


「俺も何回かあの2人のやりとりはみたがあれは、きょうだいっていうよりか…」



「お〜待たせたな」


ガラリと音がしたかと思うと携帯を片手にリョウが教室に入ってきた。

ケントは口を閉じてリョウを見る。


「モモと連絡取れたからお前ら家に帰っていいぞ」


肝心のモモはいないようだ。どうやら電話だけで済ませたらしい。


「ん?なに話してたんだ?」


「いや、大した話じゃねぇよ。じゃ任せたぜ」


ヨシマサが何か余計なことを言う前に引っ張って外に連れ出す。

後を追うようにフウタも教室を後にした。

リョウは特に気にした様子もなく「おう任せろ」と言ってさっさと旧館に向かっていった。

その様子に一息ついてケントはヨシマサに釘をさす。


「余計なことは言うなよヨシマサ。あの2人の問題だ。変に俺たちが割って入ってもなにも解決はしないからな」


ヨシマサは渋々というふうだったがとりあえずは頷いて鞄を背負った。


「…わーってるよ。それより今は変質者見つけるのが先だ」


「旧館にまた戻って来ればいいんだよな」


フウタの問いかけに頷いて三人はそれぞれの帰路につく。

帰り道を歩きながらケントは先ほど口にしかけた言葉を頭で反芻していた。



ーーーあの2人はまるで主従のように見える。


それがはたして正しい在り方なのかどうかはケントにわかるはずもなかった。




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