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見つけた場所

学校に居場所を作る際に必要な条件は2つある。

まず一つ目に、他者が集う場に信頼し得る第三者がいること。

これは、非常に重要なことだ。誰か一人でも信頼できる相手がいるだけで随分と世界が変わってくるものだ。

まあ、最近はその条件をクリアせずに生活する学生が多々いるというけれど。


僥倖なことに、一つ目の条件はクリアしているリョウは問題となる二つ目に頭を悩ませていた。

二つ目は、その名の通り、場所…つまりは空間のことだ。

安心して身を任せられる場があること。

この二つが揃うことで人は初めてそこに存在していられると言っても過言ではない。

しかし、これが存外難しい。

すでに入学してから数ヶ月経過したこの時期に他者に占領されていない空間など皆無に等しい。

リョウたちはそれをひしひしと感じていた。


「…ま、予想はしてたがな」


ケントが深い溜息を吐いて肩をすくめた。

リョウたち、サボり仲間四人は自分たちが安心して休めるサボりスポットを一日中かけて探し回ったが、一向に見つけることができないでいた。


「もう旧校舎行くしかないって。あそこ以外にいいとこなんてもうないよ」


ヨシマサは、げんなりとした表情でリョウを見て言った。

このメンバーの中で旧校舎を推してないのはリョウだけだからだ。

周りにいる他のメンツも皆が頷いてリョウを見つめる。


「なんだよ。俺が決めんの?」


「お前が決める云々の前にお前の意見はどうなんだ。俺たちは満場一致で、旧校舎しかないと思ってるぜ」


ケントの言葉にフウタもヨシマサもしきりに首を縦に振った。


「嫌がるなら理由を話してくれよ」


フウタは幾分優しげな口調で問いかける。

どうやらここはリョウが折れなければ話が進まないらしい。

そう悟ったリョウは深いため息を吐いて手を振った。


「わかったよ。旧校舎行こう」


「結局理由は言わねぇのかよ」


ヨシマサが不満を隠そうともせずに口を尖らせたが、リョウは無視を決め込む。


「…無理してないか?」


フウタの心配げな顔にリョウは笑って首を振る。


「別に大した理由じゃねぇし。埃っぽいのがやだっただけだよ」


そう言ってその後は追求されないようにさっさと先陣を切って歩き出す。

まさかこれから向かう旧校舎に幽霊が居てつい先日封印したばかりだから近づきたくないからだとは言えない。

言ったところで信じてなどもらえないだろうし、彼らを前にリョウも真実を話す気など毛頭なかった。

彼らとともにいるときくらいは、ただの高校生の角白リョウでいたいからだ。


本当はあまり近づきたくないが、封印はしっかりとしてあるし、問題はないだろう。

そう判断してリョウは旧校舎に向かう。

数年前に今の新校舎が完成してからほとんど使われることなく、存在し続けるソレに生徒が不審がっていることも、生徒会が使いどころを模索していることも学校内では有名な話だ。

教師の話では当分は取り壊しの予定はなく、使い道も現在は職員会議で決めている最中らしいが、果たして決断が下るのはいつになるのか、そもそも決める意思があるのかさえ定かではない。

教師のあいまいにぼかしたモザイクだらけのホームルームでの現状報告に、クラスメイト全員が旧校舎の存在意義を見失ったのは確かだろう。

だからこそ、有効活用してやろうではないかと暇を持て余した学生がこうしてのこのこやってくるわけだが…


「あいっかわらずボロいな」


目の前にそびえ立つ木材建造物は、誰が見てもわかる古めかしさだ。

メッキは剥がれかけ、木材がむき出しで全体的に埃をかぶっている。

旧校舎を勧めた3人も少しばかり自分の発言に後悔したのか、渋い顔つきをしている。


「贅沢言ってらんねぇよ」


ヨシマサが鼻息荒くリョウを見てぼやく。

リョウに言うというよりも自分自身に言っているように見える。


「陣地獲得に多少のマイナスポイントはつきものだ。不満ばかり言っていては何も始まらない」


「誰かの格言か?」


フウタの偉そげな口調にケントが不思議そうに尋ねた。


「いや。オリジナルだ」


「なぁ、図書室はなしにしないか?

あそこ以外ならどこでもいいから」


リョウの意見にヨシマサが再び見つめる。


「なんでだよ」


「い、いや、特に理由はないけど…」


うまいごまかしが思いつかずまごつくと目ざとくリョウを観察するように見ながらヨシマサがしたり顔をした。


「はは〜ん?さてはお前……」


「な、なんだよ」


ヨシマサは少し溜めてから自信満々に言い放った。


「本が嫌いなんだろ!」


「…はあ?」


ポカンとするリョウをよそにヨシマサは勝手に話を続ける。


「妙に旧校舎を嫌がるからなんだと思えば、なるほどねぇ。図書室が嫌だとはね。そんで、図書室嫌いイコール本嫌いだろ」


「安直すぎないか?」


ケントのツッコミもどこ吹く風と笑い飛ばしヨシマサは自分の意見に確信があるらしい。


「ケンちゃんにはわからないのさ。静かにすることを強要される辛さ、張り詰めた空気、見渡す限り文字だらけの分厚い本の山!…俺にはわかるぜリョウ…図書室は確かにキツイ…」


どうやらかなり大きな勘違いをしているらしいヨシマサの言葉にしばし呆れたリョウだったが、特に他にいい言い訳も思いつかなかったため、不本意ながらヨシマサの勘違いに乗ることにした。


「あー、やっぱりわかるかヨシマサ!実はそうなんだよ!」



「おい、聞き捨てならないな。本が嫌いだとは」


フウタが文句を言うのも無理はない。無類の本好きを誇りに思っているやつだ。


「いいかフウタ!俺は前々から言いたかったことなんだ!本ばっか読み漁るのがそんな偉いのか?お前はよく本を読め、本を読めってまくし立てるけど、それは嫌がる人間に強制させるほど必要なことなのか?」


「当然だ。本は、あらゆる知識の宝庫だ。読めば知識がついてその分だけ成長できる。本はあらゆる時代に生きた先人たちからの贈り物だ」


ここまで本を愛せる人間も、このデジタルに特化した時代で珍しいだろう。

フウタの大真面目な力説をヨシマサは鼻で笑う。


「本なんて読まなくても生きていける。知識なんかなくてもこの世の中にはネットっていう便利なもんが全部教えてくれるんだよ」


見下した言い方をするヨシマサに対しフウタは持っていた本をさすり無愛想に反論した。


「インターネットなんて所詮は虚偽に埋もれた場所だ。根拠も裏付けすら怪しい情報に踊らさせるくらいなら時間がかかろうとも確かな真実の書かれた書籍こそが最後にすがるべきものだ」


「………う、うるせぇな!よくわかんねえけど、俺は本は嫌いなんだ!図書室はなし!これは決定!」


もう対抗するだけのボキャブラリーが底をついたらしく、勝手に話を終わらせるヨシマサにフウタも話を聞いていたケントも呆れた顔をした。


「こうなったら意地でも動かないんだからフウタも諦めようぜ。別にここじゃなくても、ちゃんとした図書室はあるわけだし」


常に仲裁のケントはなだめるようにフウタに話しかけた。


「…別にどうしても図書室が良かったわけではないからいいけど…」


ムッとした顔のままフウタはリョウを見据える。


「リョウがそんなに本が嫌いだったのがショックだった」


「え、いや、嫌いじゃないって!苦手っていうか…」


ごめんと謝るとフウタはしばらく黙ったかと思うと、手に持っていた本を渡してきた。


「これは?」


「苦手なら克服しろ。リョウはヨシマサと違って根っからのバカじゃないんだから」


「おい!どーゆー意味だこら!」


ヨシマサが怒鳴り散らしたが、フウタはリョウにそれだけ言うとそっぽを向いてしまった。

本を渡してくれたことから、どうやらメンバーの中に本嫌いが2人もいるのは嫌なようだ。

リョウは苦笑して大人しく本を受け取ることにした。


「で、結局どうすんだよ。図書室がなしなら空き教室にするか?」


ケントの言葉にみんなしてうなる。


「あんまおっ広げにサボってちゃバレるしなぁ。無難に隠れ家的な教室があればいいけど…」


「とりあえず入ってから考えようぜ!モタモタしてちゃ放課後になって下校時間になっちまう」


珍しくヨシマサの意見に皆は賛同し、古めかしい旧校舎に入ることとなった。




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