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ある少女の恋愛事情

連載してる方が詰まってるため、気分転換のつもりで書いてるうちに出来上がるも、やはり私にはまとめる能力はないようで…短編の予定だったのに…

この際だから一人称で書けない向こうの主人公(別シリーズ)の代わりに主人公のバトルシーンでも書いてやるとはんば勢いで書き殴ってるので更新は不定期です。

あー、ほら前置きも長いよ…まとめる能力欲しい…


彼を見かけたのは春風の吹く四月の頃だった。

いつも通りの見慣れた通学路。

たくさんの学生たちが行き交う通学路を、彼はつまらなそうに歩いていた。特に目立ってもいなかったし、特別地味でもない。

そんな、普通な見た目の彼に私が気に留めたのは偶然だった。

ぼんやりと窓際から新しく入ってきた新入生を眺めていて、ふと、視線を感じたのだ。

視線の主を探してみると彼がジッとこちらを見つめているのが見えた。

校門から少し校庭に入ったところでピタリと動きを止めて、静かに彼はこちらを見ていた。特になんの感情も感じられない胡乱な瞳がそこにあった。

どの子も周りでお喋りしながらだったり、下を向いたりと色々な方向へ視線を向けている中で、彼だけが私を見つめていた。

もちろん、彼はこれから通う学校を見ていたのかもしれないが、私の瞳と彼の瞳は、確かに交わっていたように感じた。

その時の私は、彼から目が離せずにジッと見つめ返していた。

普段ならこんなことはしない。

彼だけが妙に気になった。

2人とも、視線が外れない中、まるで刹那のような永遠のような時間だけが流れていた。

しかしそれも現実ではほんの数秒で、彼はやがて興味が薄れたかのようにしたを向いて歩き出していた。

短く刈り上げれた黒髪に、少し眠たげな表情で彼は校門をくぐり学校に入っていった。


私が次に彼を見かけたのは、新学期が始まってまもなくのことだ。

いつものように教室の片隅で思い出に浸っていると、騒がしい数人の足音と共に男子が賑やかに入ってきた。

ぎゃあぎゃあとバカ騒ぎする彼らに考え事の邪魔をされて苛立ちながら視線を向けると、そこに入学式で見かけた視線の彼が入って来るところだった。

私は自身が高揚するのを感じた。

彼だわ。どうしてここに来たのかしら。

話を盗み聞きしていると彼らはどうやらここを溜まり場にしたくて来たらしい。

騒がしい四人組のうち、一番大柄な男子が教室を見渡して咳払いをした。

埃まみれだと顔をしかめる。

私は少しムッとした。

図書室とはだいたいそんなものだ。

普段からここにいる私にとっては普通なこの空間も彼らには少し異質らしい。

そのことを悪く言われたようで気分が良くなかった。

彼らは私に気がついていなかった。

私が本棚でちょうど見えない隅の椅子にいるせいで死角となっているようだ。

私は彼らに注意しようと思った。

確かにこの場所は人があまり来ないが、私は毎日ここで読書をしているのだ。

うるさく騒がれて邪魔されてはかなわない。

立ち上がり、彼らの方に向かっていく。

いくら男子で人数が多いからと言ってここで我慢しては先輩としての威厳を無くしてしまう。

そう思って話し声の先を見ると、彼が私を見つめていた。

気づいていたのか。

私は思わず目を見開いた。

再び、入学式の時みたくに視線が交わる。

彼は静かに私を見つめ、やがて友人たちに話しかけた。


「ここはやめとこう」


初めて聞く彼の声は安らぎを与えるような落ち着いた声音をしていた。

進言を受けた彼らは不服そうだった。

せっかく見つけたのになんでだと口々に彼を攻め立てる。

しかし、彼は理由を言おうとしなかった。

いいからと急かして彼らを部屋の外に出してしまうと、自分も扉を閉めていなくなった。

部屋には再び、私1人だけになった。

私は静かな教室で口元がにやけるのを必死に抑えていた。

あぁ。

なんて、優しいのかしら。

彼はきっと私のために友人たちを追い出してくれたのだ。

私は彼に恋をしてしまった。

それからというもの、彼が視線の片隅に現れるたびに目で追うようになった。

彼はどうやら最初にやってきた騒がしい男子たちと普段からつるんでいるようだった。

彼らはいうなれば不良という部類に入るメンバーのようだ。

不良といっても、別に悪さをするわけでも喧嘩をよくしているわけでもない。主には授業をボイコット…つまりサボりが多い不真面目な連中らしい。

そんな彼らに混じり、彼はのびのびと学校生活を送っていた。

たまに彼1人だけがメンバーから外れることがあったが、その際に彼がどこに行っているのかは残念ながらわからなかった。

眺めているだけで幸せだった。

彼はたまに私に視線を向けてくれるため、時々目が合うことが私の一番の楽しみになっていた。

確証はなかったが、彼も私を気にしてくれているようで、なんだか嬉しかった。


けれど、それは誤りだった。


彼には…私よりも気になる存在がいることが、ずっと見つめているうちに分かった。

時々、帰宅する彼の横に綺麗な容姿の女の子がいることがあるのだ。

楽しそうに談笑する2人は見るからにお似合いで、私はどうしようもなく苦しくなった。

ぼんやりしていることが多い彼が彼女の仕草に敏感に反応し、彼女が笑うと朗らかに微笑む。

どう贔屓目しても、彼が彼女に気があることは明確だった。

私は酷い孤独感に蝕まれた。

1人でいることなど慣れっこで、今までならなんともなかったのに、彼があの女に取られてしまったようで辛く、悲しく、苦しく、そして…憎かった。

あんな、突然出てきた女に彼を奪われた。

あの女がいなければ私の彼だったのに。

憎い。

あの女が憎い。

私は次第に彼よりもあの女を目で追うようになっていた。

睨みつけて、恨み言をつぶやいていた。

言うだけなら、思うだけなら自由だと開き直り、あんな女死ねばいいと何度も何度も考えた。

それこそ一日中でも、何度も、何度も、何度も…


そして、ある日を境に、まるで私の願いが通じたかのように彼女の姿は彼の横から消えた。

帰り際にも、学校内でも、彼女の姿は見当たらない。

風の噂で、つい最近、階段から落ちた女生徒が病院に入院したと聞いた。

はっきりとは分からないが、彼女に間違いないと思った。

少し気になったが、私は彼のそばに彼女がいなくなったことが嬉しくて、彼女の怪我に対しては特に何も感じなかった。

私は何もしていないのだから、罪の意識を感じる方がどうかしているはずだ。

私はまた彼を見つめ続ける日々を過ごした。

声をかけたいとは思っていた。

ただ、勇気が出なかった。

いつか話せたらいいな。

そんなことを願いながらぼんやりと過ごしていた。


そして今日もいつものように私は窓際から彼を探していた。

普段ならこの時間には彼が帰宅する姿が見えるのに、今日はどこにも見当たらない。

もうすっかり夕暮れの時間は過ぎて、すでに暗くなり始めている。見落としたのかなと眉を寄せていると、ガラリと教室の扉が開く音が私の意識を背後に引き寄せた。

暗い教室に静かに一人分の足音が響く。

目を見張って、音の方を見ていた私は現れた人物にギョッとした。


現れたのは彼だった。


一体どうしてここにいるのか私は混乱した。

彼はどうやら1人で来たらしく、他にひと気はない。

彼はゆっくりと歩を進めて、私の目の前にやってきて止まった。

どうしよう。

どうすれば。

何を言えば。

私は必死に冷静を装い彼を見つめ返した。

心臓がばくばくと鳴り、頬が高揚している。

私とは裏腹に彼はひどく落ち着き払っていた。

長い沈黙の後で、彼が静かに口を開いた。


原井(はらい) 知子(ちこ)さん…だな」


私はさらに驚いた。

彼は私の名前を知っていたのだ。

あまりにも急な展開に胸がいっぱいで息が詰まってしまって何も言えない。

私の様子などお構いなしに彼はさらに私を驚かせることを口にした。


「あんたは、いつだって俺を見てた。そうだな?」


私が見ていたことも知っていたのだ。

私はなんとか頷いて見せた。

あぁ。

今日はなんて素敵な日なのだろう。

あなたが私を知っていたなんて、

私が見ていることもわかっていたなんて、

きっと、私と目があっていたことも偶然なんかじゃなくてあなたも私を見ていたからよね。

それって、なんて素敵なことかしら。

私は嬉しくなり彼に近づこうとした。


(ばく)


その拍子に彼が小さく何か呟いた。

とたん、私の体はまるで石のように固まった。

どうしたのかしら。

なぜ足が動かないの。

私は助けを求めて彼を見た。

彼は、同じ目をして私を見ていた。

暗闇の中、夜目の効く私にはよく見えた。

彼の瞳は冷めていた。

なんの温かみも感じない、暗く冷たい目が私を写していた。

私は、初めて彼を怖いと感じた。

初めてあの目に見られたくないと思った。

彼の目から逃れたい。


私を見ないで。私を見ないで!


ガタン、と本棚が揺れた。動くはずのないそれに、彼は振り返るどころか瞬き一つしない。

私は後ずさりしたい衝動にかられていた。

目をそらしたい。

彼を見たくない。

逃げ出したい。

なのに、私は一向に動くことができず、ただ彼を見つめ続けていた。

彼が人差し指と中指を立てた状態で手を私の前に向けたまま口を開いた。

以前感じた穏やかな声質は凍てつく氷のように冷たいものに変貌していた。


「俺はさ、あんたがいようがいまいがどうでもよかったんだ。見たところ害はなさそうだし、俺を見てるだけなら放っておいて構わないと思ってたんだ」


一歩、彼が私に近づく。

嫌な感じがする。


「けど、それは間違いだった。あんたは人を…しかもよりにもよって…アヤメを呪った。だから俺も決めたんだ」


ーーー容赦しないって。


彼はつぶやくように一方的に喋り続けた。

私には彼が何をいっているのかわからない。

ねえ、お願い。助けて。

足が動かないの。


彼がさらに一歩近づく。

変だ。

彼に助けてもらいたいのに、彼から嫌な感じがずっと続いている。


私はついに怖さに耐えられず叫んでいた。

ビリビリと空気が振動する。

それでも彼は歩みを止めない。


「いまさら怯えたっておせぇんだよ。どのみち、俺はもうあんたを見過ごせない」


私は、彼の次に発した言葉に言葉を失った。


「自分で気がついてんのか?あんた、地縛霊から悪霊になりかけてんだぜ」


彼は…なにを、言ってるのか。

某然とした私の背後で夜空に輝く月が教室を明るく照らした。

私はふいに下を向いて唖然とした。

月明かりにより、備品や彼の影が伸びる中、私の影は、なかった。


「あ……あぁ…」


その瞬間、私は全てを思い出した。

あの日、ここのこの席に私は座っていた。

この図書室で、胸を高鳴らせて人を待っていた。

図書室は埃っぽくて、喘息持ちで、気管の弱い私は本当ならあまり長時間いてはいけない場所だったけれど、あの日だけはそんなことまるで気にしていなかった。

前々から気になっていたクラスの男の子から呼び出されたからだった。

少し、照れたように放課後に来てくれと言われて、私は本当に嬉しかった。

だからずっとずっと彼を待っていて…途中で胸が苦しくなった。

埃を吸い込み過ぎたのか、発作を起こしてしまったらしかった。

すぐに吸入器を取り出したかったが、酷い過呼吸で…気づいた時にはもう、全てが終わった後だった。

幽霊になってから知ったが、アレはクラスメイトの遊びだったようで、彼はあの日、図書室に行くつもりなど微塵もなかったらしい。

少し刈り上げた黒髪の彼は、目の前にいる彼によく似ていた。


私は、どうしてもこの世に残っていたいという未練があったようだ。

今の自分の姿を改めて見る。

きっちり結ばれた長いおさげ髪、古臭い学生服、膝したまでの長いスカート丈、一体いつからここにいたんだろう。

ぼんやりとそんなことを思った。


「おとなしくなったな」


彼はもう歩みを止めていた。

私を見て指を下ろす。

少しだけ体が動くようになった。


私は、どうやら長い間幽霊となってこの教室に住み着いていたらしい。

きっと、彼はそんな私を解放してくれるためにここに来たんだ。

私の心残りなことは、私がよくわかっている。

あの日の続きがしたい。

嘘だったとしても、騙されていたとしても、私が彼を好きだったのは事実だ。

だから、どうか、聞いて欲しい。

本当の彼じゃないけれど、伝えたい。


私は、あなたが…


「ーーーす…」


「誰が動いていいと言った」


私の口からでかかった何十年越しの思いの丈は、彼の一睨みで押さえつけられた。


えぇ!?ちょっと待って!

ここできちんと告白できればたぶん私、成仏できるのに!


しかし、何かの力によって押さえつけられて、何も言うことができない。

彼は私の内心の訴えなどまるで気づかずに、ゴソゴソとズボンから一枚の紙切れを取り出した。

その紙を額に押し当てて目をつぶり何かを唱えてからふらりと私を見据えた。

彼は笑っていた。

しかし目だけは全く笑っていない。

こうゆう笑みを悪代官のようだと言うのだろう。


「金払いがないシゴトはしない主義なんだけど、特別待遇でやってやるよ」


手に持っている札といい、先ほどの呪文のような言葉といい、彼は霊能力者というものなのだろうか。

告白させてもらえなかったのは心残りだが、プロが除霊してくれるというならきっとラクにあの世に行けるはずだ。

私がそう考えていると、札を掲げながら彼が思い出したように言った。


「言っとくけど、あんたにこれからするのは除霊なんかじゃないからな。俺は、霊能力者でも霊媒師でもない…封印師なんでね」


封印師とは何だろうか。

私は再び感じる嫌な感じをひしひしと間に受けながら彼を見ていた。

彼がゆっくりと札を私に近づける。


「封印師ってのは、封印することだけに特化した術師だ。俺はこれから、あんたをこの場に縛り付けて封印してやるのさ。

もう悪さできないように身動き一つ取れないよう頑丈にしっかりとな。数年後、覚えてたら霊媒師呼んでやるよ」


待って…私は、ただあなたのことが……


「じゃあな。原井知子さん」


名前を呼ばれ、まるで悪魔のような笑みを最後に私は魂を拘束された。





こっちも一人称じゃーん!と思った?

残念!主人公じゃありませんでしたー

最後になんかしてたのが主人公です。

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