膨らむデリバティブ・バブル (4)
さて、ここまでCDSを保険として買うプレヤー、CDSを投機の手段として買うプレヤー、そして、債券の代用品としてCDSを売るプレヤーを紹介してきた。他にもCDSを売買するプレヤーとして、保険会社が新たな収益源としてCDSを売る場合と、銀行がCDSを売ってそこから発生する保険料収入を元にCDO(債務担保証券)という新たな金融商品を組成して顧客に販売する場合もある。
CDSという新たなデリバティブの登場で投資やヘッジの手段が多様化したとデリバティブ擁護派は言う。しかし、このCDSには大きな問題がある。今回取り上げたパナソニーが2,000万ドル分の社債を発行したとして簡単に説明しよう。CDSの取引そのものには、パナソニーという企業はまったく関わらないし、売り手と買い手が条件で同意さえすれば、10億ドル相当分のCDSを売買することも可能だ。(2,000万ドルしか発行されていないのに!)この取引の結果一方が利益を得られれば、他方はそれと同じ金額を失うだけのゼロサム・ゲーム、つまり、パナソニーという会社が潰れるかどうかの賭けをパナソニーそっちのけで2人のプレヤーがしているだけと言っても過言ではない。したがって、実態経済への波及効果もなければ、パナソニーという企業に対しても何の利益ももたらさない。実際に2,000万ドル分の社債を購入して、その2,000万ドルがパナソニーという企業の口座に振り込まれ、設備投資や研究開発に使われるのとは大違いなのだ。
日本では、いくつもの中小企業年金がAIJ投資顧問という詐欺的運用会社に騙され、預けた運用資産のほとんどを失った事件は記憶に新しいだろう。この事件は、ゼロ金利という厳しい運用環境下で少しでも多くの金利収入を得ようと、知識のない年金運用担当者がもがいたがゆえに起きた悲劇でもある。そのAIJはオプションというデリバティブ取引により巨額の損失を出し続けていた。
低金利政策は、誰もをハイ・リスクなデリバティブの取引へと導いていき、デリバティブの取引額を膨らみ続けさせている。そこが、破滅へと繋がる危険なゼロサム・ゲームの世界であるにもかかわらず。