膨らむデリバティブ・バブル (3)
「米著名投資家バフェット氏は160億ドルの地方債CDS売りのほぼ半分を解消する・・・」
ちくしょう!こんな記事が新聞に載ってはこれまで以上にCDSの売り方が慎重になってしまう。急がねば。
私はバフェット氏と比べれば、アリのようにちっぽけな投資家だ。しかも、株を買って上昇するのをじっと待つような投資家ではない。臭う企業を見つけ出し、多少荒っぽい手段を使ってでも調べ上げ、その企業の不正を見つけ出す。そして、その株を空売りしてからその企業の腐った実態を子飼いの記者に垂れ込んで記事を書かせる。ニュースを見て初めて知ったその企業の株主たちが慌てふためいて我先にと株を投売りして急落したところを買い戻し、利益を確定する。いわゆる空売り屋だ。
その私が今狙いをつけている獲物は企業ではない。経済の低迷により税収が落ち込んでいるアメリカの地方政府だ。今年に入ってからでも、カリフォルニア州のストックトン市、マンモスレイクス市、サンバーナーディーノ市と相次いで破綻している。空売り屋の私にとってカリフォルニア州はまさにお宝の山だ。その中でも特に有力と思われるレモン郡の現地調査から今戻ってきたばかりだ。あそこも間違いなく近いうちにお陀仏だ。経済の低迷により税収は落ち込むし、怠け者の公務員は厚遇されたままで危機感がなく、ストを繰り返してはリストラを拒否している。そんなレモン郡で唯一危機感を抱いているのが収入役だ。彼は少しでも郡の財政の足しにしようと、ウォール街に奨められるまま怪しい金融商品を買い込んでいる。たとえばこんな商品だ。米国債と連動する利回り5%の仕組み債。3.4%も金利が上乗せされている。もちろん、この手の商品には「ただし」という条項が付いている。それは、米10年国債の金利が一度でも2%を上回った時点で利払いは停止される。それだけではなく、さらに毎年の金利見直しにおいて金利が2%から0.1%上昇するたびにペナルティーとして5%のマイナス金利が課されるという代物だ。米国債の金利が4%に上昇すれば、その時点で元本が吹っ飛んでしまう詐欺的金融商品だ。FRBの行き過ぎた金融緩和がインフレを引き起こし、近い将来にFRBが金利を引き上げざるを得なくなることをウォール街の連中は知っているのだ。その上で、税収の低迷を補おうともがいている素人同然の収入役に近づいてこんなハイリスク商品を売りつけている。これは、昔破綻したオレンジ郡と同じ構図だ。
「レモン郡は2~3年以内に終わりだ!」
地方政府の場合、上場企業と違って株を空売りするわけにはいかない。債券を空売りしたくてもそんなニッチな債券を取り扱っている市場もない。そこで私が使うのがCDSだ。狙った地方政府が発行している債券のCDSだけを買うのだ。これは、たとえが悪いかもしれないが、車も持っていないのに自動車保険に入るのに近い。そして、他人の交通事故で保険金を受け取るようなものだ。自動車保険でこれをやれば、もちろん保険金詐欺で捕まる。しかし、CDSだけを買うことは金融取引の一つであってなんら問題はない。