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膨らむデリバティブ・バブル (1)

 私はアメリカ・ライム郡の収入役だ。やっていることは、公立学校や上下水道局、交通局などライム郡内の公的機関の資金運用だ。私が管理している資金は、ライム郡の住民から預かったものであるという資金の性格上、リスクは取れない。運用においては安全が第一だ。だが、今は非常に難しい判断を迫られている。FRBが超が2つは付くような金融緩和を続けているせいだ。

 私の前任者はよほどアメリカ経済の先行きに悲観的であったらしい。10年物米国債がまだ4%以上の金利をくれていた時代にたくさん10年物米国債を買い込んでくれていた。この古きよき時代の高い利回りがあるおかげで、あと2~3年は2%程度の利回りが確保できればなんとか現状程度のサービスを維持することはできそうだ。しかし、残念なことに今の10年物の米国債の金利はわずか1.6%でしかない。これではサービスの質を下げるか、公共料金を値上げするかしなければならない。だが、ライム郡の住民は両方とも受け入れないだろう。かと言って、わけのわからない金融商品に手を出して大損をし、破綻に追い込まれた隣のオレンジ郡のようにもなりたくない。運用担当者として頭の痛い問題だ。

 「FRBのクソったれめ!我々ふつうのアメリカ国民が受け取るべき金利を掠め取ってウォール街にばら撒いていやがるんだ!」

 そんな運用難に苦しんでいる私に、地元の銀行はこんな提案をしてくれた。ハイイールド債とクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)という債券の保険をセットで買ってはどうかと。たとえば、格付けがBクラスの危ない国や企業の債券ならば7%の利回りもざらだそうだ。(本来なら、私はそんな危なっかしいものには近寄りすらしないのだが。)ところが、そんなハイイールド債でもその債券のCDSという魔法の薬を一緒に買えば、あら不思議!ハイイールド債がトリプルAの米国債と同じ安全な商品に早変わりというのだ。しかも、ハイイールド債の利回りとそのCDSの年間保険料の差が2%以上ある組み合わせまで銀行が探して紹介してくれるという。なるほど、銀行も米国債だけを売るより手数料を多く稼げるわけか。さすがに、銀行はどいつも抜け目のない連中ばかりだ。

 まずは手始めに、この利回り7.8%のパナソニーとかいう聞いたことがあるようなないような会社の10年債と、これの年間5.6%のCDSをそれぞれ1,000万ドル分ずつ買おう。パナソニーから受け取る7.6%の利回りから保険料として5.6%をCDSの売り方に支払う。こうしていれば、万が一パナソニーが破綻して社債が紙くずになった場合でも、この売り方が元本だけでなく利回りまで補償してくれるそうだ。これで目標の2%以上の利回りを安全に確保できるわけか。

 「よし。これなら私の在任中は何とか住民から突き上げられずに済みそうだ。」

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