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コメディ自衛隊 否定しない技術

作者: リフェリア
掲載日:2026/03/13

本作はフィクションです。

作中に登場する「自衛隊」は「自立衛星観測隊」の略称であり、現実のいかなる組織・制度・人物とも一切関係ありません。

なお、万一よく似た部分があったとしても、それは偶然です。

たぶん。


隊長:この前の幹部への精神教育で言うとったやつ、覚えとるか?

最近の若い隊員には、頭ごなしの指導やなくて、まず受容と共感が大事やってやつ。


科長:ああ、『否定しない技術』っすね。ちゃんと勉強しましたよ。


隊長:お、珍しく前向きやな。


科長:はい。もう私、部下の意見は一切否定しないことにしたんです。


隊長:極端やなぁ。まぁええわ。で、実際どうやったん?


科長:さっそく昨日、山田2曹が来ましてね。

「科長、自分、朝が弱いので朝礼を昼礼にしてもらえませんか」って。


隊長:いきなり香ばしいな。


科長:だから私は言いましたよ。

「なるほど。朝が弱いという自己認識は大事や。ちゃんと自分をよくわかっとるな」って。


隊長:おお、たしかに否定してない。


科長:で、続けて、

「ただし朝礼は朝にやるものなので、お前が強くなれ」って。


隊長:それ後半で全部台無しやろ。


科長:いえ、否定ではありません。現実の提示です。


隊長:言い換えただけや。


科長:さらに佐藤3曹が来ましてね。

「訓練って、実戦がないなら意味なくないですか?」と。


隊長:まあ、若いのが一回は言いがちなやつやな。


科長:だから私はまず受け止めました。

「そう感じる気持ちは分かる。毎日しんどいもんな」って。


隊長:おっ、ええやん。


科長:そのあと

「でもお前が考える程度のことは、先人が昭和の時点で考え尽くしてるから黙って走れ」って。


隊長:受容時間、短かっ!


科長:大事なのは、否定しないことです。黙って走れは命令であって否定ではありません。


隊長:お前、会話の出口全部その理屈で押し切る気やろ。


科長:実際、部下の反発は減りましたよ。


隊長:へぇ、ほんまに?


科長:はい。最近、みんな私に意見言わなくなりました。


隊長:それ心閉ざされただけや。


科長:否定しない空気づくりの成果です。


隊長:最悪の成果報告やな。


科長:あと、昨日は鈴木士長が「結婚したいので土日は極力全部休みにしてほしいです」って相談に来たんで、


隊長:相談内容がもう生々しいな。


科長:私はちゃんと受容しましたよ。

「結婚したいという意思は大切や。人として自然な願いやな」って。


隊長:そこだけ切り取れば人事担当みたいやな。


科長:その上で、

「ただし土日はみんな休みたいので、お前だけ抜けると他の独身がさらに結婚できなくなる」って説明しました。


隊長:地獄みたいな論法やな。


科長:本人も納得してましたよ。

「たしかに」って言ってました。


隊長:納得やのうて諦めやろ、それ。


科長:否定しない技術って素晴らしいですよね。

相手を一回受け止めてから、逃げ道を全部塞げるんです。


隊長:それ、技術の使い方が完全に間違っとるんよ。


科長:でも隊長も似たようなことしてるじゃないっすか。

この前、隊員が「年休取りたいです」って言うた時、


隊長:あー……


科長:「いいよ、しっかり休むのは大事や」って言うてから、

「ただ今週は人足りんから来週以降で調整してな」って返してたじゃないですか。


隊長:それは現場の都合というものがあってやな……


科長:ほら。否定してない。


隊長:いや、それは……。


科長:隊長も立派な『否定しない技術』の使い手なんすよ。

ただ名称がオシャレじゃないだけで。


隊長:なんて呼べばええんや。


科長:「まず一回ええ顔してから、現実を叩きつける技術」っすね。


隊長:最低やな、その翻訳。


科長:でも実際そうでしょう?

部下もいきなり「無理」って言われるより、

「気持ちは分かる」って前置きがある方が、少しは死にやす――


隊長:待て。今なんて言うた?


科長:納得しやすい、っす。


隊長:たぶん本音出たな、今。


科長:いずれにせよ、否定しない技術は有効です。

要望を否定せず、感情を受け止め、最後に組織の都合を通す。

現代管理職の必修科目っすね。


隊長:それ、研修資料にしたら苦情くるやろ。


科長:じゃあ表現を柔らかくします。

「相手の主体性を尊重しつつ、最終的にこちらの結論へ自主的に歩かせる」


隊長:急に悪質な営業研修みたいになったな。


科長:管理職なんて、だいたいそんなもんです。


隊長:全部をそんなもんで片付けるな。

で、結局お前の中で『否定しない技術』って何なん?


科長:相手の言葉を否定しないことじゃないです。

相手に、「自分は否定されていない」と錯覚させたまま、結論だけこちらの希望に着地させる技術です。


隊長:お前、たまに本当にコンプライアンス教育受け直した方がええと思うわ。


科長:否定しないでくださいよ。


隊長:今のは否定やなくて指導や。


科長:なるほど。現実の提示っすね。


隊長:お前はまず、その屁理屈を否定されろ。


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