第40話 去り際の種明かし
嵐が去った後の空気は、妙に清々しい。
一週間にわたる査察を終え、ギルバートの乗る馬車が校門を出ようとしていた。
教師たちは整列して深々と頭を下げ、冷や汗を拭っている。
私は校舎の屋上から、その様子を見下ろしていた。
隣にはフィオナがいる。
「......行ったか」
「ええ。報告書には『学園の浄化完了』と書かれるはずよ」
完全勝利だ。
焼却炉という偽の心臓を差し出し、全校生徒を巻き込んだ大芝居で、最も厄介な敵を欺き通した。
これでしばらくは、外部からの干渉を受けずに済む。
その時。
校門の前で、馬車に乗ろうとしていたギルバートが、ふと足を止めた。
彼はゆっくりと振り返り、遥か頭上にある私たちの方を見上げた。
距離は数百メートル。表情など見えるはずがない。
だが、私の持っていた水晶板の映像が、彼の口元の動きを捉えていた。
――『また会おう、技術屋さん』
背筋がゾクリとした。
彼はニヤリと笑い、帽子を少し持ち上げて挨拶をすると、馬車に乗り込んで去っていった。
「......バレてた?」
私が呆然と呟くと、フィオナが肩をすくめた。
「恐らくな。だが、証拠がなかった......あるいは、あの偽の焼却炉の出来栄えに免じて、見逃してくれたのかもしれん」
技術屋。
彼は私をそう呼んだ。
「魔力を持たない落ちこぼれの妹」ではなく、この学園を裏で回しているエンジニアとして認識した上で、あえて泳がせたのだ。
借りができた、ということか。
それとも、次に会う時までの楽しみにとっておかれたのか。
「......食えない男」
私は苦笑して、懐からタバコ......のような形をしたハッカパイプを取り出した。
「ま、いいわ。これで邪魔者はいなくなった」
私は屋上の縁に立ち、広大な学園を見渡した。
校庭では、査察が終わって解放感に浸る生徒たちが、再び私の作った道具を取り出し、魔法の練習を始めている。
教師たちは、私の弱味を握られているため、それを見て見ぬふりをしている。
ミリアが下級生たちに囲まれ、義手の自慢話をしている。
全てが、私の手のひらの上で回っている。
「フィオナ。これで第1段階は終了よ」
「第1段階? まだ先があるのか?」
「当然でしょ。学園なんて、ただの実験場に過ぎない」
私は空を指差した。
「次は王都。そして国。……魔力を持たない人間が、技術だけで世界をひっくり返す。そのための準備は整った」
フィオナは呆れたように、けれどどこか楽しげに笑った。
「付き合ってやるさ......どうせお前のことだ、私がいないとすぐに暴走して自滅するだろうからな」
「それはこっちのセリフ」
私たちは拳を軽くぶつけ合った。
鐘が鳴る。
それは授業の始まりではなく、新しい時代の幕開けを告げる合図だった。
魔導具師セレナの野望は、ここから本当の意味で加速する。
これにて、第一部「学園支配編」完結です。
魔力を持たない「落ちこぼれ」の少女が、技術と度胸、そして少しの性格の悪さで学園の勢力図を塗り替える物語はいかがでしたでしょうか。 最後に監査官が見せたあの表情……セレナの正体は見抜かれていたのかもしれません。ですが、それすらも「面白い」と思わせるほどの技術が、この学園には満ちていました。
この先セレナはさらに大きな都市、そして国へと影響を広げ、「魔法絶対主義」に大きな風穴をあけるべく活躍をすることになりますが、それはまた別のお話。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました! 「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ぜひ★評価やブックマーク、感想などいただけると嬉しく思います♪
また、本作品のセレナのスターシステム元となったセレナが活躍する『笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる』も連載中となっております。
こちらは『じゃじゃ馬セレナ〜』のリブート版となっており、第一部分は1月3日まででアップ済み、1月4日21時00分からは、待望の高等学校編がスタートいたします。
もしよろしければ、こちらも合わせてお読みください♪
それでは、また次の物語でお会いしましょう!




