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魔力ゼロの技術屋、学園の裏支配者になる  作者: 八坂 葵


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第35話 歪な黄金時代

 歴史を振り返れば、平和で豊かな時代というのは、大抵何らかの「無理」の上に成り立っている。


 古代の帝国は奴隷の上に、近代の都市は石炭の煤煙の上に。

 そして今のこの学園は、時計塔の最上階から供給される「違法魔導具」の上に、かつてない黄金時代を築いていた。


 ◇◆◇


 期末試験の結果発表日。

 掲示板の前に集まった生徒たちから、歓声と安堵のため息が漏れていた。


「やった! 実技A判定だ!」

「俺もだ。まさか赤点回避できるなんて......」


 彼らの腕や指には、真鍮や銀でできたアクセサリーが光っている。

 指輪、ブレスレット、あるいは髪飾り。

 形は違えど、それらは全て私の工房製品だ。


 微弱な魔力を効率よく循環させ、着弾補正を行い、精神統一を補助する。

 いわば「才能の底上げ」だ。


 職員室では、教師たちが首をかしげていた。

 水晶板の映像を通じて、その会話が聞こえてくる。


『......今年の平均点が異常に高いな』


『生徒たちのレベルが急上昇している。私の指導の賜物か?』


『いや、しかし......魔力の波長が全員似通っている気がするのだが』


 気づくわけがない。

 教師たち自身もまた、私の顧客なのだから。


 先日、私の元へ相談に来た教官は、修理した杖のおかげで「現役時代のようなキレが戻った」と上機嫌だ。彼が私の技術を疑うことは、自分自身の復活を否定することになる。


 ◇◆◇


 放課後の時計塔。

 ここには今や、学園の実質的な運営メンバーが集まっていた。


 ソファで紅茶を飲むのは、フィオナ。

 大量の書類を整理しているのは、生徒会長のアルヴィス。

 そして、窓際で自分の義手を調整しているのは、ミリアだ。


「今月の売上報告です」


 アルヴィスが帳簿を差し出す。

 数字は右肩上がりだ。学園祭の予算を遥かに超える金額が、裏の金庫に眠っている。


「順調ね......トラブルは?」


「いくつか。力を過信した下級生が、上級生に決闘を挑もうとしましたが......」


「ああ、それなら大丈夫」


 ミリアが口を挟む。


「私が『指導』しておいたわ......セレナの道具は、秩序を乱すためにあるんじゃないってね」


 彼女が義手を掲げると、人工の魔力が青く走った。

 今の彼女は、学園の裏番長のような存在だ。私の道具を使って暴走しそうな生徒がいれば、彼女が圧倒的な火力でねじ伏せ、ルールを教え込む。


 完璧な生態系。

 私は道具を与え、アルヴィスが管理し、ミリアが治安を守り、フィオナが象徴として君臨する。


 教師たちの権威は形骸化し、学園は実質的に私たちが支配している。


 平和だ。

 歪で、金と技術に依存した、とても脆くて快適な平和。


「......だが、目立ちすぎている」


 フィオナがカップを置いて呟いた。


「学園全体の魔力消費量が、昨年の三倍に膨れ上がっている。この異常値は、いずれ外に漏れるぞ」


「漏れたところで、証拠はないわ」


 私は地図盤の上の光を見つめる。

 全ての道具には「偽装回路」を組み込んである。外部から監査が入っても、ただの装飾品にしか見えない。


「それに、もしバレたとしても......もう誰も『以前』には戻れない」


 私は知っている。

 一度便利な生活を知った人間は、二度と不便な過去には戻れない。


 もし誰かが私の工房を潰そうとすれば、生徒も教師も、学園中がそれを阻止しようとするだろう。

 私は彼らの欲望を人質に取っているのだ。


 時計塔の大時計が、ゴーンと重い音を立てた。

 それは、私の支配が高らかに宣言された音のようにも聞こえた。

成績は上がり、教師も生徒も笑顔。 誰もがセレナの道具なしでは生きられない、歪な黄金時代が完成しました。


次回、第36話「白き監査官」

王都から監査官が来訪。 彼は一目で学園の異常さを嗅ぎつけ、全校集会でとんでもない宣言をします。

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