第34話 禁断の果実
人は、公平な競争など望んでいない。
彼らが本当に欲しいのは「自分だけが勝てる不公平な力」だ。
ミリアの劇的な復活劇は、学園という閉鎖的な市場に、猛毒のような需要を生み出した。
◇◆◇
放課後の旧校舎。
時計塔へと続く螺旋階段に、行列ができていた。
顔を隠すようにフードを被った生徒たち。彼らは皆、何かしらの劣等感を抱えている。
成績が伸び悩む者。実技で恥をかいた者。ライバルに勝ちたい者。
「......本当に、魔法が使えるようになるのか?」
「ああ。ミリアを見ただろ? あいつ、前より強くなってるぞ」
「金ならある。親の小切手を持ってきた」
彼らが求めているのは、努力ではない。結果だ。
そして私は、その結果を売る店を開いた。
時計塔の最上階。
私は「受付」と書いた看板を机に置き、一人ずつ生徒を招き入れた。
「いらっしゃい。お悩みは何?」
「......火属性の魔法が苦手なんだ。出力が安定しなくて」
「なるほど。なら、この『燃焼補助・指輪型』がおすすめ。指にはめるだけで、あんたの微弱な火種を十倍に増幅してくれるわ」
私は真鍮製の指輪を差し出す。
もちろん、ただの指輪じゃない。内部に赤色魔石の粉末を圧縮封入し、魔力伝導率を極限まで高めた逸品だ。
「こ、これで勝てるのか?」
「ええ。ただし、副作用として指が少し熱くなるし、魔力酔いもする......それでもいいなら」
「買う! いくらだ!?」
商談成立。
彼は震える手で小切手を置き、指輪をひったくるように持って帰った。
次々とさばかれていく在庫。
積み上がっていく資金と、希少な素材。
フィオナが、部屋の隅で複雑そうな顔をしていた。
「......いいのか、セレナ。これは、ドーピングと変わらないぞ」
「違うよ、フィオナ。これは『福祉』だ」
私は札束を数えながら答える。
「才能という理不尽なガチャに外れた子たちに、救済措置を与えているだけ。努力しても報われない世界なんてつまらないじゃない?」
「......だが、彼らは自分の力だと勘違いして、増長するぞ」
「それが狙いよ」
私は手を止め、ニヤリと笑った。
「彼らが私の道具に依存すればするほど、私の支配力は強まる。道具のメンテナンス、出力調整、アップグレード......彼らはもう、私なしでは魔法一つ撃てなくなる」
そう。
私がばら撒いているのは、ただの便利な道具じゃない。
首輪だ。
「強くなりたい」という欲望につけ込み、彼らの生殺与奪の権を握るための見えない鎖。
トントン、とドアがノックされる。
入ってきたのは生徒ではなく、見覚えのある教師――先日、ミリアを馬鹿にしていた教官だった。
彼は周囲を警戒し、冷や汗をかきながら私に頭を下げた。
「......シルヴァーノ妹君。あの、相談があるのだが」
「おや、先生。生徒の指導はお忙しいのでは?」
「い、いや、その......実は、最近、私の杖の調子が悪くてな。君の技術で、なんとかならないかと......」
笑いを堪えるのが大変だった。
生徒だけじゃない。教師まで堕ちたか。
ミリアに見せつけられた圧倒的な「人工の力」に恐怖し、自分も同じ力を求めてここに来たのだ。
「いいですよ、先生。特別価格で診てあげます」
私は椅子を回し、彼に向き直った。
ようこそ、私の庭へ。
一度この果実の味を知ったら、もう二度と「清く正しい魔法使い」には戻れない。
学園の闇市場は、今日から私が公式に運営する。
時計塔に行列を作る生徒たち。そして、かつて魔導具を馬鹿にしていた教師までもが頭を下げに来ました。
次回、第35話「歪な黄金時代」
闇市場の影響は学園の試験にまで影響を与え始めます。




