第29話 舞台裏の演出家
権力者たちが好む娯楽の一つに、「他人の失態を優雅に笑う」という悪趣味なものがある。
学園創立記念パーティー。
煌びやかなシャンデリアの下、着飾った貴族や出資者たちが談笑するこの場は、まさにそのための特設ステージだった。
◇◆◇
「――では、成績優秀者を代表して、シルヴァーノ嬢に『祝福の魔法』を披露していただこう」
学園長の合図で、スポットライトが壇上のフィオナを照らす。
彼女はドレス姿ではなく、正装の制服に身を包んでいた。その表情は硬い。
当然だ。この演目が、彼女を社会的に抹殺するための罠であることを知っているからだ。
私はホールの隅、配膳係のフリをして様子を窺っていた。
耳には自作の通信用イヤホン。そこから、舞台裏にいる教師たちの会話が傍受できていた。
『準備はいいか? 彼女が魔法を放った瞬間、ステージ下の「共振増幅器」を作動させろ』
『了解です。魔力を逆流させて、ドレスごと吹き飛ばしてやりますよ』
下劣だ。
魔法の暴発に見せかけて、公衆の面前で彼女に恥をかかせ、さらに「制御不能な危険分子」としてレッテルを貼るつもりだ。
招待客の中には、フィオナの実家の借金取りである銀行家の姿もある。ここで失敗すれば、シルヴァーノ家は終わる。
(......やれるもんなら、やってみな)
私はカートの陰に隠れて、手元の端末を操作した。
ターゲットは、ステージ下の増幅器。
あんな単純な回路、ハッキングするのに10秒もいらない。
壇上で、フィオナが杖を掲げる。
彼女の視線が一瞬、会場の暗がりにいる私を探して彷徨い、そして見つけた瞬間に微かに頷いた。
「信じてる」の合図だ。
「――光よ、集え」
フィオナが詠唱する。
杖から無数の光球が生まれ、天井へと舞い上がる。
同時に、舞台裏の教師がスイッチを押した。
『今だ! 暴走しろ!』
ブォン!
ステージ下から強力な干渉波が放たれる。
本来なら、これで光球が破裂し、フィオナを襲うはずだった。
だが。
カチリ、と私の端末がエンターキーを押す音と共に、世界は書き換わった。
干渉波はフィオナの魔法を破壊するのではなく、その光をプリズムのように美しく屈折させた。
弾けるはずだった光球は、七色の花火となってホール全体に降り注ぎ、幻想的なオーロラを描き出した。
「おぉ......!」
会場からどよめきが上がる。
それは悲鳴ではなく、感嘆の声だった。
「な、なんだこれは!? 増幅器が効いていない!?」
『ち、違います主任! 出力が勝手に調整されています! これは暴走じゃなくて、演出用のライティング制御です!』
通信機から教師たちの悲鳴が聞こえる。
私はニヤリと笑った。
私が書き加えたプログラムは「敵対的干渉の無効化」と「視覚効果へのエネルギー変換」。
あんたたちが込めた悪意という名のエネルギーを、全部フィオナを引き立てるスポットライトに変えてやったのさ。
光の雨の中、フィオナは女神のように堂々と立っていた。
彼女は杖を一振りし、光を収束させて優雅に一礼する。
「素晴らしい!」
「なんと美しい制御だ! さすがはシルヴァーノ家の才媛!」
拍手喝采。
銀行家までもが満足げに頷いている。
学園長と学年主任は、引きつった笑みを浮かべて拍手するしかなかった。ここで止めれば、自分たちが罠を仕掛けたことを認めることになるからだ。
私は空になったグラスをカートに載せ、静かに会場を後にした。
通信機からは、まだ教師たちの怒号が聞こえている。
『誰だ! 誰がシステムを弄った!』
犯人探し?
無駄だよ。
あんたたちのシステムは、もうとっくに私の庭だ。
ホールの外、夜風に当たりながら私は伸びをした。
最高のショーだった。
主演女優も、舞台装置も完璧。
唯一の不満は、この完璧な演出をしたのが、ただの配膳係だということくらいか。
ま、それも悪くない。
主役を輝かせるのが、裏方の仕事だからね。
悪意の罠は、最高の演出へと変わりました。 フィオナの輝きは
誰にも止められません。
次回、第30話「黒い帳簿」
フィオナを呼び出し、難癖をつける教師たち。 しかしセレナが送りつけた
「ある書類」を見て、彼らの顔色は青ざめていき......
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