第27話 共犯者の契約
秘密の共有は、血の繋がりよりも濃い鎖となる。
坑道の奥底で、私たちは互いの腹の内を晒し合った。
私は「無能な妹」という仮面を脱ぎ捨て、フィオナは「完璧な姉」という鎧を砕かれた。
残ったのは、ただの泥だらけの姉妹と、巨大な怪物の死骸だけ。
◇◆◇
「......全部、お前だったのか」
フィオナが震える声で問う。
彼女の視線は、私がトランクに収納しようとしている杭打ち機に釘付けだった。
「壊れたドアノブ。直ったボイラー。......あの日のゴーレムの暴走も」
「そうだよ」
私は悪びれずに答える。
「あんたが『小手先』って馬鹿にしてる間に、私はこの学園の裏側を全部バラして組み直してたの」
「なぜ......黙っていた」
「言ったら止めるでしょ? 『危険だ』とか『学生の本分じゃない』とか言って」
フィオナは言葉に詰まり、視線を落とした。
図星だろう。彼女の正義感は、私の歪んだやり方を決して認めなかったはずだ。
今日、この結果を見るまでは。
ザッ、ザッ、ザッ。
坑道の入り口から、複数の足音が聞こえてきた。
教師たちだ。爆音を聞きつけて、慌てて確認に来たのだろう。
「......フィオナ。これ、どうする?」
私はトランクを閉め、怪物の死骸を顎でしゃくった。
「私がやったって言う? そしたら私は退学、あんたは『妹に助けられた無様な姉』として噂の的だ」
フィオナは私を見た。
数秒の沈黙。彼女の中で、激しい葛藤が渦巻いているのがわかる。
嘘をつくことは、彼女の騎士道に反する。
だが、真実を話せば、私の平穏は終わる。
やがて、彼女は深く息を吐き、顔を上げた。
その瞳に、迷いはもうなかった。
「......隠せ」
「え?」
「その物騒な道具を隠せと言っている。......教師たちが来るぞ」
彼女は私の前に立ち、背中で私を隠した。
そして、到着した教師たちに向かって、堂々と宣言したのだ。
「――変異種の討伐、完了しました」
駆けつけた学年主任が、目を剥いて絶句する。
坑道の主たる巨大蜘蛛が、頭を粉砕されて死んでいる光景は、彼らのシナリオにはなかったはずだ。
「ば、馬鹿な......! 魔法無効化の甲殻を持つ個体だぞ!? 学生の魔法で倒せるはずが......」
「私の氷魔法は、質量攻撃も兼ねています。......何か問題でも?」
フィオナは冷然と言い放った。
嘘だ。質量攻撃だとしても、あの硬度を貫くには攻城兵器並みの運動エネルギーが必要だ。
だが、彼女は表情一つ変えずに、その「ありえない戦果」を自分のものとして飲み込んだ。
私を守るために。そして、教師たちの企みを握りつぶすために。
(......へえ)
私は姉の背中を見上げて、ニヤリと笑った。
やるじゃない。
ただの堅物かと思っていたけど、どうやら私の「共犯者」になる素質はあるみたいだ。
◇◆◇
帰りのバスの中。
疲れ果てて眠る生徒たちの中で、一番後ろの席に座る私たちだけが起きていた。
「......勘違いするな」
フィオナが窓の外を見ながら、小声で言う。
「お前のやり方を認めたわけではない。......だが、機能的であることは否定しない」
「最高の褒め言葉だね」
「今後、私の目の届かないところで勝手な真似はするな。......やるなら、事前に相談しろ」
それは、実質的な降伏宣言であり、提携の申し出だった。
彼女はもう、私を「守る対象」とは見ていない。「戦力」として計算に入れている。
「わかった。その代わり、条件がある」
私はバスの窓に映る姉の顔を見た。
「これからは、あんたが表舞台で輝きなさい。どんな理不尽な敵も、どんな卑怯な罠も、私が全部舞台裏で処理してやる」
「......お前は見返りに何を得る?」
「特等席での高みの見物。......あと、この腐った学園を裏から支配する権利」
フィオナは呆れたように鼻を鳴らした。
だが、その口元は、微かに笑っているように見えた。
「......好きにしろ。悪趣味な妹だ」
「頼りない姉を持つと苦労するのよ」
私たちは視線を合わせず、けれど確かに、見えない契約書にサインを交わした。
光の姉と、影の妹。
最強の魔法使いと、最凶の魔導具師。
二つの歯車が、ようやく正しく噛み合った音がした。
さあ、反撃の第2ラウンドだ。
これからは二人で、先生たちの作ったふざけた盤面を、根こそぎひっくり返してやろう。
秘密を共有した姉妹。光と影で役割を分担し、学園を支配する
最強の共犯関係が成立!
次回、第28話「見えない兵站線」
教師による予算削減の嫌がらせ。魔石の補充も杖の補修もままならない。
そんな時こそ闇市場のセレナさんの出番です(笑)




