第23話 死地への片道切符
教育者が生徒を殺そうとする時、彼らは決してナイフを使わない。
代わりに『名誉ある任務』や『成長のための試練』という美辞麗句で飾った招待状を送りつける。
被害者が自らの足で断頭台へ登るように仕向けるのが、彼らの常套手段だ。
◇◆◇
ホームルームで発表された『特別野外演習』の内容は、教室を騒然とさせるに十分だった。
行き先は、王都から遠く離れた”北の旧鉱山地帯”
かつて魔石採掘で栄えたが、今は地脈の乱れにより凶暴な魔獣が巣食う危険地帯だ。
「今回は、実戦形式での浄化任務を行う!」
担任教師が高らかに宣言する。
表向きは、騎士団の予備演習。だが、配布された班分け表を見て、私の背筋が凍った。
『第一先遣隊・隊長:フィオナ・シルヴァーノ』
先遣隊。つまり、未踏破のエリアに最初に足を踏み入れ、安全を確保する捨て駒だ。
しかも、メンバー構成が酷い。
フィオナ以外は、成績下位の生徒や、教師に目をつけられている問題児ばかり。
連携など取れるはずがない。フィオナ一人に負担を押し付け、彼女が潰れるまでのデータを取るつもりだ。
(......露骨すぎる)
私は唇を噛んだ。
あの学年主任だ。
前回のゴーレム実験が失敗したため、今度は『事故』に見せかけて始末しやすい場所を選んだのだ。
旧鉱山なら、何が起きても『魔獣の仕業』で片付けられる。
◇◆◇
放課後。生徒会室。
私はノックもせずに扉を開けた。
中にいた生徒会長のアルヴィスが、驚いて書類を取り落とす。
「シ、シルヴァーノ妹!? ここは役員以外立ち入り禁止だぞ!」
「取引の時間です、会長」
私は彼の机に両手をつき、演習の資料を睨みつけた。
「今回の演習、後方支援部隊の枠が一つ空いてますよね? 整備班の補助要員として」
「......ああ。だが、そこは希望者がいなくて困っている枠だ。危険な前線の近くまで物資を運ばなきゃならん」
「私を入れてください」
アルヴィスが目を見開いた。
「正気か? お前のような魔力無しが行けば、瘴気に当てられて倒れるぞ」
「倒れません。それに、あんたたちが持っていく予備の魔導具、半分は私が調整したやつですよね? 現地で壊れたら誰が直すんですか?」
痛いところを突かれ、アルヴィスが口ごもる。
彼は知っている。私の整備なしでは、生徒会の装備すらまともに稼働しないことを。
「......わかった。だが、護衛はつけられんぞ。自分の身は自分で守れ」
「構いません。その代わり、私の荷物に関しては、重量制限を免除してください」
「荷物? 着替えか何かか?」
「ええ、まあ。......生き残るための『必需品』です」
◇◆◇
帰宅後。
リビングには、珍しくフィオナが早い時間に帰ってきていた。
彼女はソファに座り、黙々と杖の手入れをしていた。その横顔は、死刑宣告を受けた囚人のように静かだった。
「......行くの?」
私が聞くと、彼女は手を止めずに答えた。
「拒否権はない。これは単位認定に関わる必須任務だ」
「危険だよ。あの鉱山は、磁場が狂ってる。あんたの精密な魔法制御とは相性が最悪だ」
「わかっている」
フィオナは布で杖を磨き上げる。
「だが、誰かが行かねばならない。私が断れば、他の誰かが死ぬことになる」
まただ。
自己犠牲。ノブレス・オブリージュ。
彼女のその高潔さが、奴らにとって最高のつけ込みどころだというのに。
「......そう。じゃあ、頑張って」
私はそれ以上止めなかった。止めても無駄だからだ。その代わり、私は自室に戻ると、クローゼットの奥から巨大なトランクを引きずり出した。
ガチャリ、と重い金属音がして鍵が開く。
中に詰め込まれているのは、着替えなんかじゃない。
高出力魔力阻害機
自動索敵飛行体・改
そして、私が廃材をかき集めて作った、対魔獣用のとっておきの『玩具』
今回の演習は、教師たちにとっても、フィオナにとっても予想外の結末になる。
なぜなら、戦場には『イレギュラー』が一人混じっているからだ。
私はトランクを閉じた。
死地への片道切符?
上等だ。往復切符に書き換えて、全員生きて帰してやる。
ただし、私を怒らせた連中には、相応の『通行料』を払ってもらうけどね。
姉を潰すための自殺任務。セレナは大量の「玩具」を隠し持ち、死地へ同行します。
次回、第24話「荒野のノイズ」
魔力酔いで倒れる生徒たち。魔法が通用しないこの地は、セレナの独壇場でした。




