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魔力ゼロの技術屋、学園の裏支配者になる  作者: 八坂 葵


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第21話 停滞する血流

 人体において、血液の流れを止める最も簡単な方法は、血管を縛ることではない。


 心臓を止めることだ。


 この学園の教師たちは、自分たちが脳であり心臓であると勘違いしているが、実際はただの飾りに過ぎない。


 実際に組織という巨体を動かしているのが、末端の毛細血管を流れる「現場の工夫」だということを、彼らは理解していない。


 ◇◆◇


 ゴーレム暴走事件の翌週、学園は「魔導具適正化週間」という名の粛清期間に入った。


 学年主任の号令のもと、生徒たちの持ち物検査が行われ、少しでも改造の痕跡がある杖や、規格外の補助具はすべて没収された。


「ふざけんなよ! これがないと制御が安定しないんだぞ」


「予備の杖じゃ、出力が半分も出ない......」


 廊下のあちこちから、生徒たちの悲鳴が上がる。


 私が裏で調整していた『闇の魔導具』たちが、次々と回収箱へと放り込まれていく。

 それだけではない。

 『不純物の排除』は、設備点検にも及んだ。


 私が夜な夜なこっそりと油を差していた校門の開閉機構、微調整を繰り返していた暖房用の魔力ボイラー。それらも全て『正規の手順ではない』として、純正の状態に戻された。


 その結果が、これだ。


「――寒い」


 教室の気温は、外気と変わらないほど冷え込んでいた。ボイラーが不調を起こし、熱供給が止まったのだ。


 窓ガラスは結露ではなく氷で覆われ、生徒たちはコートを着込んで震えている。


「先生、暖房はまだ直らないんですか?」


「業者が手配中だ! 少しの寒さくらい魔力で耐えろ!」


 教師が苛立ちを隠さずに怒鳴る。だが、その教師自身も寒さで鼻を赤くしていた。


 滑稽だ。


 あのボイラーは、設計段階で排気管の角度に欠陥がある。私が自作の『整流板』を噛ませて誤魔化していたのだが、それを外せば(すす)が詰まって停止するのは自明の理だ。


 私は冷えた手で自作の発熱魔石を握りしめ、冷ややかな視線を黒板に向けた。


 ざまあみろ。

 あんたたちが排除したのは『違法改造』じゃない。この学園の『生命維持装置』だ。


 ◇◆◇


 放課後になっても、トラブルは収まらなかった。


 実技棟では照明が点滅を繰り返し、食堂では魔力式の食券発行機がお金を飲み込んだまま沈黙している。


 学園全体の機能不全。


 それは、私の仕事がいかに深く、広く浸透していたかの証明でもあった。


 私は図書室の窓から、中庭を見下ろした。

 そこには、フィオナの姿があった。


 彼女は自主トレーニングをしようとしていたが、的となる自動人形が動かずに立ち尽くしている。


 純正の状態に戻された人形は、魔力感知センサーの感度が低すぎて、フィオナの高速詠唱に反応できないのだ。


「……はぁ」


 フィオナが白いため息をつき、杖を下ろす。

 諦めたようだ。彼女の鍛錬まで阻害されるのは癪だが、今は我慢の時だ。


 その時、校舎の裏口から学年主任が出てくるのが見えた。彼は苛立たしげに、手元の懐中時計のような魔導具を叩いている。


 あれは「魔力測定器」。校内の異変を調べるための探知機だ。


「ええい、なぜ動かん! 王都の最新式だぞ!」


 彼が怒鳴りながら、測定器を振る。


 動くわけがない。

 この学園の地下には強力な地脈が流れており、その磁場が精密機器を狂わせる。


 私はそれを防ぐために、校舎の四隅に『磁場中和用の杭』を打っておいたのだが......恐らくそれも、不審物として撤去されたのだろう。


 学年主任は舌打ちをし、部下の教師に何かを指示して去っていった。

 測定器は地面に放置されたままだ。


 私は図書室を出て、中庭へと降りた。

 誰もいないのを確認し、放置された測定器を拾い上げる。


 裏蓋を開けて中を見ると、案の定、過剰な磁気でコイルが焼き切れていた。


「......馬鹿な人たち」


 私はポケットから工具を取り出し、手際よくコイルをバイパス手術する。ついでに、感度調整のダイヤルを少しだけ『細工』しておいた。


 これでこの測定器は、特定の魔力波長――例えば、私の使う魔導具の波長――だけを、意図的に無視するようになる。


 修理を終え、測定器を元の場所に戻す。


 学園は今、瀕死の状態だ。

 教師たちは原因がわからず右往左往している。


 だが、私には直し方がわかる。

 そして、直せるのは私だけだ。


 これはチャンスだ。

 彼らがこの不便さに耐えきれなくなり、「誰でもいいから直してくれ」と悲鳴を上げる時が必ず来る。


 その時こそ、私が公式に、堂々と学園の中枢に入り込む好機。


 フィオナが去った後の中庭で、私は一人、冷たい風の中で笑みを浮かべた。

 止まった血流をどう流すかは、全て私の気分次第だ。


 さあ、困り果てなさい。

 あんたたちの快適な日常が、誰の『小手先の細工』の上に成り立っていたのか、骨の髄まで思い知らせてやる。

不正改造の排除。それは学園の機能を維持していた「生命線」を切る行為でした。


次回、第22話「必要悪の求心力」

凍える学園。プライドを捨てて、ついに「表」の人間が接触してきます。

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