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魔力ゼロの技術屋、学園の裏支配者になる  作者: 八坂 葵


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第16話 裏インフラ

 需要と供給。


 それが世界を回す最も単純にして強固な歯車だ。光あるところに影があるように、厳格な規律ある学園には、必ずその抜け穴を求める需要が生まれる。


 私が「外」の世界――ジャンク屋のさらに奥にある闇市――に足を踏み入れてから、三ヶ月が過ぎた。

 その間に、私の学園生活は劇的な変化を遂げていた。


 表向きは相変わらず、教室の隅で息を潜める「空気」のような存在だ。だが、水面下での私の立ち位置は、劇薬のように浸透している。


 ◇◆◇


「......おい、例のアレ、直ったか?」


 昼休みの旧校舎裏。

 私の元を訪れたのは、三年生の男子生徒だ。剣術科のエリートで、普段なら私のような下級生と口をきくことすらない人種だ。

 だが今の彼は、すがるような目で私を見ている。


「どうぞ。出力のムラを調整して、照準補正の回路を組み直しておきました」


 私は修理したガントレットを差し出した。

 彼はそれをひったくるように受け取り、装着する。軽く拳を握ると、手甲の隙間から淡く鋭い青光が走った。


「すげぇ......新品より反応が早いぞ」


「その代わり、連続使用は十分が限界です。それ以上は排熱が追いつかずに自壊します」


「十分もあれば十分だ。助かった、これなら午後の選抜試験に間に合う」


 彼は報酬として、紙袋を押し付けて去っていった。中身は金ではない。高純度の魔石と、破損した高級な杖の残骸だ。


 これが私のビジネスだ。


 故障した魔導具の修理、あるいは実力不足を補うための違法ギリギリの改造。報酬は『金』ではなく、学園では手に入らない『素材』で受け取る。


 今や、この学園の影のインフラは、私の技術で回っていると言っても過言ではない。


 成績に伸び悩む生徒、道具の不調に焦る教師、果てはこっそり賭け試合をしている先輩たち。


 彼らは私の名前を知らない。ただ「旧校舎裏の修理屋」とだけ呼び、私の技術を(むさぼ)る。


 皮肉な話だ。


 私は魔法が使えない『落ちこぼれ』のはずなのに、皮一枚めくれば、魔法使いたちが私の作った回路に依存して生きている。


 ◇◆◇


 放課後、手に入れた素材を抱えて廊下を歩く。ふと、中庭に人だかりができているのが見えた。


 中心にいるのはフィオナだ。


 彼女は一人で、複数のターゲットを相手に模擬戦を行っていた。


「はっ!」


 鋭い呼気と共に、氷の刃が宙を舞う。

 正確無比。無駄のない所作。


 観衆からは感嘆の声が漏れるが、私には見えていた。彼女の杖の先端が、微かに震えているのを。


 魔力の循環が滞っている。連日の過労と、精神的な摩耗が、彼女の完璧な術式にノイズを走らせている。


「......フィオナ様、最近ちょっと調子悪くない?」


「孤立してるもんね。あの性格だし、誰もついていけないんじゃない?」


 遠巻きに見ている生徒たちが囁く。

 かつては畏怖の対象だった彼女が、今は『痛々しい孤高の存在』として見られ始めている。


 学園側の妨害工作は陰湿だ。彼女に必要な備品の申請を却下したり、実習のパートナーを組ませなかったりして、じわじわと彼女の牙を削いでいる。


 あのままじゃ、壊れる。

 杖も、彼女自身も。


 私はポケットの中の「あるもの」を強く握った。この三ヶ月で集めた素材で作った、最高傑作。


 フィオナの魔力特性に合わせて調整した、専用の補助回路だ。これがあれば、彼女の負担を半分に減らしつつ、威力は倍加できる。


 でも、渡せない。


 彼女は私の干渉を拒絶している。『おままごと』と切り捨てた私の技術を、受け取るはずがない。


 それに、今の私がこれを渡せば、彼女は私が『裏の商売』に手を染めていることに気づくだろう。

 そうすれば、彼女は姉として、私を止めようとするに決まっている。


「......まだ、早い」


 私は視線を切った。

 まだ足りない。


 彼女が自分の限界を認め、プライドも何もかも捨てて「力が欲しい」と願うその瞬間まで、私は待たなければならない。


 私が目指すのは、単なる仲直りじゃない。

 彼女の認識を、この学園の序列を、根底から覆すことだ。


 私は踵を返し、自分の聖域である旧校舎裏へと戻る。


 待ってて、お姉ちゃん(・・・・・)

 あんたが孤独に戦ってボロボロになった時、最後に立っているのが誰なのか。


 それを証明するのは、あんたの大嫌いな『小手先の細工』だ。

表では無能な妹、裏では学園を回す影の支配者。三ヶ月で立場は逆転しました。


次回、第17話「魔導具嫌い」

魔法至上主義の権化のような教師が登場。

セレナに向けられる罵倒。しかし、無知とは恐ろしいものです。

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