第14話 危険な就職先
進路指導という儀式は、人間を規格化された部品として社会の歯車に組み込むための選別作業だ。
適性という名のふるいにかけられ、サイズごとに箱詰めされ、出荷される。
私の箱には「その他・一般」というラベルが貼られる予定だが、どうやら私の姉の箱には「取扱注意・劇薬」のシールが貼られているらしい。
◇◆◇
週末のリビング。
母が買い物に出ている隙に、私はテーブルの上に置き去りにされていた封筒を盗み見た。
王家の紋章が入った、厚手の羊皮紙。
そこに記された宛先を見て、私の血の気が引いた。
『王立魔法院・特別災害対策局 入局内定通知書』
通称「掃除屋」。
暴走した魔導具や、禁忌とされる呪いの処理を専門とする特殊部隊だ。
聞こえはいいが、実態は違う。あれは、誰もやりたがらない汚れ仕事を押し付けられる、魔法使いの墓場だ。
生存率は三年で五割を切ると言われている。
「......勝手に見るな」
背後から、氷のような声が降ってきた。
フィオナだ。彼女は私の手から封筒をひったくると、無造作に鞄へ突っ込んだ。
「これ、本気なの?」
私は立ち上がり、彼女の肩を掴んだ。
珍しく、声を荒らげていた。
「あんた、自分が何を選んだかわかってるの? そこはエリートが行く場所じゃない。使い捨ての駒が行く場所だよ!」
「認識が間違っている」
フィオナは私の手を冷ややかに振り払った。
「そこは国内で唯一、高濃度の魔力汚染に対処できる機関だ。私の『術式解体』の特性を最大限に活かせる。給与も一般職の三倍だ。......母の借金を返すには、これが最短ルートだ」
効率。金。適性。
彼女が並べる理由は、どれも論理的で、そしてひどく空虚だった。
「命を金に換えるって言ってるのと同じじゃない!」
「私の命には、それだけの価値があるという評価だ。喜ぶべきことだろう」
彼女の瞳には、迷いも恐怖もない。
あるのは、自分自身すら道具として計算に組み込む、狂気じみた合理性だけだ。
私は悟った。
これは彼女一人の意思じゃない。
あの学年主任だ。あるいは、その後ろにいる連中だ。
彼らはフィオナを「厄介者」として学園から追い出しつつ、その異能を自分たちの都合のいい道具として利用するために、この進路を斡旋したのだ。
『君の力は素晴らしい』『君にしかできない仕事だ』――そんな甘い言葉で、破滅への道を舗装して。
「……断ってよ」
「決定事項だ」
「死ぬよ、あんた」
「生きるために選んだ」
平行線だ。
彼女の思考回路は、『自分を犠牲にして他者を生かす』というプログラムで固定されている。
それを美徳と呼ぶ人間もいるだろう。だが私にとっては、ただの緩やかな自殺にしか見えない。
「......わかった」
私は一歩下がった。
ここで感情的に喚いても、彼女の強固な意思は突破できない。
なら、やり方を変えるしかない。
「好きにすればいい。......でも、後悔しても知らないから」
精一杯の捨て台詞を吐いて、私は自室へと逃げ込んだ。ドアを閉め、背中を預けてズルズルと座り込む。
手が震えていた。
悔しさじゃない。恐怖だ。
このままだと、フィオナはいなくなる。
遠い場所へ行って、ボロボロになるまでこき使われて、ある日突然、綺麗な箱に入った骨になって帰ってくる。
そんな結末、認めない。
私は作業机の下から、隠していた木箱を引きずり出した。中には、先日作った盗聴記録機と、さらに新しく設計した『部品』の数々。
まだ未完成だ。まだ出力が足りない。
でも、迷っている時間はなくなった。
フィオナがその『死の契約書』にサインする前に、私が学園の闇を暴き、彼女の選択肢を物理的にへし折るしかない。
私は工具を握りしめた。
金属の冷たさが、熱くなりすぎた頭を冷やしてくれる。
止められないなら、壊すまでだ。
あんたが進もうとしているそのレールを、私が脱線させてやる。
就職先は、生存率5割を切る死地でした。
すべては借金を返し、妹を養うため。
姉の自己犠牲の精神は、美談というより狂気です。
次回、第15話「追いつけない背中」
差し出した手は冷たく拒絶されました。
今のままでは届かない。だから彼女は、禁断の領域へ踏み出します。




