抑圧される理性
ブルターは明らかに、こちらを獲物と思っている。
「私、おなたが欲しいの。だから、じっとしてなさい。」
さっきの二人と同じく理性が抑制されているのだろうか?だが、会話ができているということは、まだそこまでの進行度合いではないのであろう。とはいえ恐らくいずれは、ああなってしまう。
もしかしたら、カサンドラのように、姿を変えてドラゴンになってしまうかもしれない。そうなったら終わりだ。
だが、今までもそんなこといくらでもあったと考えると、なんか今回もどうにかなる気がしている。
かなりの力が増強されているのか、ただ自分が非力なだけなのか、全くブルターに抵抗ができない。
ただ時々、彼女の力が弛むときがある。その隙を狙えば、逃げられるかもしれない。早くしないとその隙が来る前にもしかしたら、肩やら首やらをくいちぎられそうだ。
「どうしたの?かわいいぼうや?私が遊んであげるわよ?」
その時ふと手元の少し先に、メガホンレーザーが転がっているのが見えた。恐らく、彼女がとびかかってきたときに、手元から離れてしまったのだろう。
だが、彼女に抵抗しながらあのメガホンレーザーのところへ向かうのは難しそうだ。とはいうものの、このまま一生抵抗し続けているわけにもいかない。
「あら?そろそろ疲れてきたんじゃないの?なら、リラックスしてちょうだい。楽にしてあげるわ。」
彼女の言う通り、もう限界に近い。一体どこからこんな力が出てくるのだろうか。つくづく恐竜と共存しなくて良かったと思う。
だが、やはり気のせいではなく、彼女は要所要所で力が抜けている部分がある。もしかしたら、彼女の理性が彼女のなかで戦っているのかもしれない。
どうにかして、彼女の猛攻を止められさえすれば、メガホンレーザーを拾って、この場を回避できるかもしれない。
だが彼女の理性もだんだんと限界が近付いているのかもしれない。どうにかして、彼女の理性に働きかける方法はないだろうか?
いや・・・もしかして・・・。まさか・・・。
ブルターの言動が理性を抑えられた状態で、本能のままにしゃべっているのだとしたら・・・?
いや、食欲に任せて、こちらを動揺させて噛み殺そうとしている可能性もある。そしたら、今考えていることは無意味だ。
もう試してみるしかない。
僕は彼女の感情を揺さぶることにした。自意識過剰ではないことを祈りながら、彼女への抵抗をやめて、こちらの首に狙いを定めてたブルターに腕を回し、そのまま抱きしめた。
少し肩に痛みを感じた。
だがそれは、重たい何かが勢いよく当たった感覚で、かみちぎられているわけではなかった。
「え?」
どうやら自意識過剰ではないようだ。それはそれで恥ずかしいが。
ブルターは全身の力が抜けていた。これはチャンスだ。
僕は彼女の懐をすり抜けて、そのままメガホンレーザーを手に取った。
ブルターのさみしそうな瞳がこちらを見ている。罪悪感はないことはない。だが、いつ彼女の状態が悪化して、無差別に殺人をする肉食の恐竜に変貌するかわからない。
だが、これも全部彼女を含めた、すべての恐竜を元に戻すためだ。
「ごめんなさい。ブルターさん。」
僕はメガホンレーザーの電源を入れた。すると、さっきよりも彼女は苦しそうな声を上げながら飛び上がった。
僕はメガホンレーザーを片手に、施設の部屋を勢いよく飛び出した。だが、廊下が真っ暗闇だったことをすっかり忘れていた。
とはいえ今の僕にはメガホンレーザーが付いている。帰ってきた相棒を頼りに、暗闇の廊下を進んだ。
背後から、もう言葉になっていないブルターの雄たけびが聞こえてくる。早く、彼女を戻す術を探さなければならない。
施設の外へ出ると、またしてもさっきのラプトル二人組が、行く手を阻んだ。
「そうだった!こいつらも居たんだった!」
思わず、恐竜時代のジャングルにとどろくような叫び声をあげてしまった。
もう一度メガホンレーザーを使えばいい。正直、無敵ではないか。だがしかし、二匹のラプトルは、明らかにこちらではなく、背後の少し高いところをにらみつけている。
もう日が沈み始め、あたりも薄暗くなってきた夕暮れ時。今度は体がティラノサウルスのような大型の恐竜に似ているが、口元が細長くて、背中に扇のような突起物がある、スピノサウルスに背後を取られてしまった。
幸いにもスピノサウルスと比べて、小さなラプトルたちは、勝ち目がないと思ったのかすぐに後ずさりしながら、どこかへ走り去ってしまった。
だがこちらは、今度はどでかい恐竜を相手にしなければならなくなっている。
「いや、もういいって。」
しかし、こちらの言う事なんて通じているわけがない。もちろん、やることはただ一つ。
メガホンレーザーで攻撃だ。
しかし、スイッチを入れたのにもかかわらず、スピノサウルスは全く反応を示さなかった。
あれ?
大きな恐竜の前で首をかしげたところで、何の意味もない。鼓膜を突き破るような、大きな咆哮と生臭い奴の息を全身で受けただけだった。
奴は不気味にこちらを見ている。そもそもこちらが見えているのか?それとも、こちらが小さすぎて見えていないのか?
とにかく、ゆっくりと動いて、やつの視界からフェードアウトしていけば、逃げられるのではないか?
そう思い、最初の一歩の左足を引いただけで、もうその望みは崩れた。小さな枝が、その大きさに見合わない大きな音を立てて折れたのだ。
その音で再度、スピノサウルスのやる気スイッチが入ってしまった。もういい加減終わったかも。
だが、まだ僕は終わらないようだ。
もうひとつの地響きが、スピノサウルスを視界から攫っていった。
ここへ来てから地響き酔いが激しい。
もう疲れた。
主人公も成長しなくちゃ
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