小さくて奥が深い場所
特別応接室での時間はあっという間に終わり、今は5階へと続く階段を登っていた。
「あのー。」
歩きながら彼はこちらに視線を向けていた。
「なぜあの部屋に?」
偶然に目が合ったことを良いことに、どうしても気になっていたことを質問してみた。
「特に理由はないよ。」
「え・・・。」
変な声が出た気がする。
「あんなところ滅多に入れないし、君が喜ぶかと思って。」
確かに、テレビで見たことがある有名な場所だったし、そこに総理大臣本人と、今までいろんな国の偉い人たちが腰を置いてきた椅子に座ることができて、正直興味がなかったといえば嘘になる。
「確かにテンションは上がりました。」
「こういう時こそちょっとした息抜きみたいなものが必要だからね。」
しかし、たとえこんな有事な時だからこその息抜きとはいえ、不用心だと思った。言うて僕は一般人だ。
あの部屋での話は、確か連絡が取れたとか取れないとかの話だった。。47都道府県どこからも連絡の返事はなかったようだ。一箇所を除いて。
「繋がった都道府県があったんですか?」
もしそうだとしたら、他にも生存者がいるということだ。
「「繋がった」とは少し違うかもしれない。」
「というと?」
恐らく今、前のめりになって話をしていると思う。なにせもし誰かがいるなら、とても重要な内容だ。
「実は、君が来る少し前に、とある信号を受信したんだ。」
「信号?」
総理は軽くうなずいた。
「調べたところ、筑波の宇宙センターからだったんだ。」
宇宙センター?
そのワードを聞いた時に、ふとあいつの顔が頭に浮かんだ。コンビニで会ったあの外国人だ。
「それで宇宙センターに連絡は?」
彼は首を横に振った。
「あそこは、世界中に設置してあるパラボナアンテナの、集中管理を24時間体制でやっているはずだから、連絡が取れないわけがない。」
しかし、連絡が取れなかった。でも信号はキャッチしている。アンテナの信号は、一度宇宙へ発信され、宇宙にある人工衛星がその信号を、再び地球へ送り返す。となるとその信号の発信元は宇宙からの可能性もあるのか?
「他には、どこかに連絡したとかありますか?」
「今日の朝から全国の都道府県、市町村、ありとあらゆる場所に連絡したが、メール、電話はもちろんSNSでの投稿も一切入ってこない。一応こっちからも投稿はしてみたものの、できているのかどうか・・・。」
スマホを出してみた。SNSは人並みにやっている程度で、投稿とかは学生時代に卒業した。正直なんか投稿したところで、誰かが見るわけでもないし、やるだけ無駄だ。
アプリの画面を見ると、全く知らない人たちの投稿がずらずらと流れている。よく見るのは猫の失敗動画とか、「理想の相手に出逢いませんか?」なんていうお節介なマッチングアプリの広告など。だが、一度人差し指を少し下におろして、その指を離すとすぐに内容が一変した。
「確かに、総理の投稿しか表示されませんね。」
「見せて。」
スマホ画面を彼に向けた。再読み込みを終えたSNSアプリが表示していたのは、内閣総理大臣のアカウントで、国民への呼びかけや外国への救援の呼びかけのような投稿だけだった。
「投稿はできているってことか?」
「恐らくは・・・。」
「でも、こちら側には何も入ってこないなぁ・・・。」
首相は、スマホの画面を何度も何度も下にスライドしていた。
「試しに何か投稿してくれないかい?」
「わかりました。」
久しぶりに投稿ボタンを押した気がする。
「投稿しました。」
「おお、見れた見れた。」
総理はまるで、初めてスマホを使えたのが嬉しかったかのように、今さっき投稿した「あ」と書かれている投稿画面を見せてきた。
「ということは、ネットとテレビは使えるというわけですね。ただ、外国にあの投稿が届いていれば、何かしらアクションが来るはずですけど・・・。」
「でも、君のこの投稿しか表示されないのもおかしな話だと思わないか?」
確かに、自分の画面も首相のアカウントの投稿しか表示されていない。
「だから、日本と海外とで電波やネットワークが遮断されてしまっていると考えた方が良いのか・・・。でもそれは、日本国内でも言える話ではないですか?」
「なるほど?」
「もしかしたら、関東圏みたいに限られた場所でしかこの現象は起きていない可能性もあるかもしれないですよね?」
「なら、いなくなってしまった人たちはその範囲の外にいるのかも!」
「その外側のから送られた信号が・・・。」
「筑波宇宙センターの信号!」
まさか総理大臣と言葉をハモらせる時が来るとは思ってもみなかった。
5階にも変な庭みたいなものがあった。そこにも変な形の岩があり、天井から真上に登った太陽が真っ直ぐ光を降ろしている。下を見ると、さっきの入り口にあった竹がここまで伸びてきていた。
「落ち着くと思わないか?」
確かに、他の部分に比べると、だいぶ言い方を選べばシンプルなつくりだ。でもそれがどことなく「和」という漢字を頭の中に浮かべさせる。
「我々はついついこの空間の癒しを求めてしまう。温かいというか安らぎというか風情というか・・・。」
確かに日本のそういう類のものは、先人たちが詩などで言葉にしてくれてはいるが、それでは足りない気分にさせてくれる。
「こんな気持ちになるのは、世界各国いろんなところへ行ったが、この場所だけだ。」
そしてそんな繊細な風情を、心から感じ取ることができる高度な進化を遂げた人間は、日本人だけだと思う。
つい昨日までは、そんな日本人が約1億2千万人いたはずだが、今確認できているのはたった3人だ。
「私はこの小さいけど奥深いこの場所を守りたい・・・。」
首相からその言葉が出るとなぜか安心した。しかしその一方で、違和感を感じたのもまた事実だ。
官邸内の描写は全部ネット情報ですので実際と異なる場合があります。入ってみてー
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




