表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミスター・ブルーズ 〜目覚めたら誰もいなかった〜  作者: マフィン
ラジオと嘘と宇宙人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

87/113

コロナ

 誰もいないイートインから外を眺めていた。人通りは少ないが、意外にもゼロではなかった。目の前のテーブルには、さっき買ったガムと、彼女に奢ってもらった500mlのペットボトル緑茶が置かれていた。


 すると、すぐに彼女も仕事中にも関わらず、イートインに入ってきて、僕の目の前に座った。


 「大丈夫なんですか?」


 「大丈夫、大丈夫。どうせ、人来ないから、いつも裏でもこんな感じだし。」


 まぁ彼女が良いなら良いが・・・。少し、第一印象と異なった印象を抱いた。


 「それで、明美さんがコロナで入院っていつから?」


 前屈みで聞いてきた。


 「いつからって言われても、本当につい最近ですよ。」


 そうは言いながらも、僕の記憶はもう5年前の話だ。だが、今でも昨日のことのように覚えている。


 母は朝から、体調が悪いと言いながら、ひどく咳をしていた。その時はすでにコロナという感染症が、日本にも蔓延し始めたころだった。だからもちろん、コロナの疑いも頭の中にしっかりあった。その時に病院に連れて行けばよかったのに、僕は連れて行かなかった。


 なぜなら、病院へ連れていって、万が一コロナと診断されれば、その時点で濃厚接触者認定をされて、仕事に行けなくなってしまう。それは困る。それにもし、今はかかっていなくても、発症してしまえば欠勤日数が増えてしまい、収入にも影響が出る。


 さらに言えばうちの会社はブラック・・・いや、漆黒企業だ。


 1週間も休もうものなら、どんな仕打ちが待っているかわからない。僕は、目先のことを優先して、母親を置いて、仕事へ向かった。


 そして母親が病気であることも、頭から薄れていった状態で、家に帰ると目の前に最悪な光景が広がっていた。


 散乱するコップの破片、辺りに飛び散ったお茶と思われる液体の跡、そして、意識を失い、床に倒れている母親。


 すぐに、救急車を呼んだ。幸いにも到着は早かったが、今度は受け入れ先の病院の問題が浮上した。救急車に乗り込んでから、病院へ向かうまでかなりの時間がかかった。


 一方の母親は時々苦しそうな咳をしていた。とりあえず、生きている。だが、本当にとりあえずという言葉に尽きる状況だ。


 そしてようやく、受け入れ先の病院が決まるとそこからはすぐに病院に到着した。だが、そこから先生が診察するまでの時間も、ただ、母親はベッドに横にされて、待っているだけだった。


 別に点滴が打たれるわけでも、何か治療があるわけではない。本人にとってはただただ辛い時間が流れている。


 そしてようやく先生が現れたかと思うと、ただPCR検査なのかわからないが、検査だけしてまたどこかへ行った。


 「これは今どうゆう状況なのでしょうか?」


 痺れを切らし、忙しそうに通りかかった看護師を無理やり制止して尋ねた。


 「落ち着いてください。お母様は恐らく重篤患者として、入院することになります。今、ベッドの準備をしているので、もうしばらく、お待ちください。」


 だが、時計の針を見ると、この病院に到着してから、1時間は軽く過ぎている。このままでは、母親が死んでしまうと、純粋に頭の中で考えるようになった。


 僕があの時、母親を病院に連れていっていれば・・・。もしかしたら、少なくともこうはなっていなかっただろう。自分を責めることしかできなかった。それで気持ちが晴れるわけでもないのに・・・。


 そして、母親は病院へ入院することになった。僕はPCR検査の結果陰性だったが、次の日から濃厚接触者認定を受け、しばらく家から出られなくなった。


 だが、幸いにもその1週間もしないうちに、緊急事態宣言で外出できなくなった。


そのおかげで、漆黒企業に何かされることはなかった。


 それから約一週間。発症することもなく、濃厚接触者の自宅謹慎も解けて、母親に衣服を持ってくために病院へ向かった。


 もちろん、一目顔を見たかった。そして謝りたかった。


 だがこの後、我々はコロナという病気を舐めていたと、知らされることになる。


 病院へ着き、看護師に名前を伝えると、先生からの説明があると言われた。今、母親には僕しかいない。


 前にも言ったかもしれないが、家族は母親以外、東北の地震で津波に飲み込まれてしまった。


 僕は、胸の辺りに何かがつっかえている感覚に陥りながら、先生が待つ部屋へと向かった。すると、先生は重たい表情でこちらを見ている。


 「おかけください。」


 この前、対応していた先生だった。正直、あまり印象は良くない。だが今は、とても丁寧な雰囲気を感じる。それはそれで逆に怖い。


 すると、大きく息を吸いながら、先生は説明を始めた。


 「お母さんですが、非常に状態が良くないです。」


 その言葉を聞いてから、先生の話をざっくりと理解するのがやっとだった。母親は肺炎を併発していたのだ。どうやら、元々喘息を持っていたようだが、そんなこと聞いたこともなかった。

 

 だが、さらに最悪なことに、見舞いにきても、話もできないということだった。つまり、次、母親と会話ができるのが、コロナが治ってからということだ。


 「先生、母は治るんですか?」


 「現段階では、お母様を信じてあげるしかないです。」


 なんとも無責任な回答だと思ったが、みんな自分の責任なのだ。僕があの時・・・、


 僕はここまでの話を、赤の他人であるコンビニ店員に、涙を浮かべながら話していた。


 結局、それから母に会ったのは、母が遺骨になった後だった。骨壷に入った母を抱き抱えたが、母がいなくなってしまった実感はなかった。


 コンビニ店員の彼女は涙を浮かべるまでで留まっていた。僕の手前、流さないようにしてくれていたのであろう。


「でも今は生きているんでしょ?なら、会いにいけば良いじゃん!」


 上擦った声でそう言うと彼女は、急に私物のスマホで誰かに電話し始めた。


 電話を終えると、笑顔でこちらを見た。


 「会いにいこ!明美さんに!」


コロナって本当にやばかったですよね


評価、ブックマーク等もしていただけるとかなり嬉しいです!

よろしくお願いします。


感想も待ってます。


記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ