ハロウィンの朝
ニュージャージー州の夜が明けた。天気は曇り。雨はふらなさそうだが、全体的に湿った空気が流れて、どんよりとしている。
軍の攻撃が落ち着いたあと、隙を見て僕と息子は、近くのモーテルへ泊まった。メガホンレーザーの近く、つまりカイのいる場所から離れないくらいに運よくモーテルがあって、本当に良かった。
まぁ真夜中も真夜中で、断られそうになったが、初めてあんなにごねた気がする。
息子はすっかり元気になったようで、朝、目が覚めたら普通にトイレから出てきた。
「もう大丈夫なのか?」
「はい、ご心配をおかけしました。」
なんて礼儀正しい子供なんだ。彼がエイリアンであることを忘れてしまいそうだ。まぁひとまず安心できた瞬間だった。
「あの・・・?」
「どうした?」
今まで、このくらいの年頃の子供と接したことがなく、どうしても会話がぎこちなくなってしまう。
「もし可能であれば、この服を脱ぎたいんですけど・・・。」
息子は申し訳なさそうに、お伺いを立ててきた。そりゃそうだ。せっかくこの地球に来たんだから、そんな防護服越しに景色を見るなんて、勿体無い。抗体も体にできたことだし、外に出る時だ。
だが、一個だけまだ問題がある。
「でも、それ脱いだら君は・・・。」
「大丈夫です。父があらかじめ、地球人に溶けこめるような準備を施しているので。」
そう言うと、防護服の中から人間の子供が現れた。だがさらに問題が二つ浮上した。
まず、一つ目がこの時代のニュージャージーに住むにしては、顔が日本人すぎる。そして、もう一つ。
全裸だった。
「何か問題ですか?」
どうやら、こちらの表情を読み取ってくれたらしい。
「地球人って本当に難しい種族ですね。」
その点に関しては、否定はしない。だがとにかく、息子の・・・。
「そういえば君の名は?」
変な聞き方をしてしまった気がする。
「僕は・・・・。」
彼の口は、間違いなく何か言葉を発音していた。しかし、こちらには一切口で発音した音が、耳に届かなかった。
「え?なんて?」
息子はもう一度発音した。しかし、やはり声が届いてこない。
「恐らく僕の名前は、地球人の元来ある言語では発音できないのかもしれないですね。」
そんな変な話があるものなのだろうか?まぁ、グローバリズム、いや、この場合はなんて言うのが適格なのだろうか?ユニバーサリズムというべきか?
まぁどちらにしても、発音できないのなら、彼のことは息子君と呼ぶしかない。
とにかく、今は息子君の服の調達。あとは確か彼は昨日から何も食べていないだろう。軽いご飯でも調達してくる必要がある。
いや、息子君をこのモーテルに置いて、買い出しに行っていいのだろうか?大体こういう時、映画だったら失敗する。だが、すっぽんぽんの少年を連れて街中を歩くわけにもいかない。ただでさえ、昨日のことで住人は神経質になっているに違いないし。
その時、息子君が部屋に備え付けられていたラジオのスイッチを入れた。
「聞いて良いですよね?」
「どうぞ!」
朝の小さなモーテルの部屋に、ラジオが響き渡った。防護服の中はさぞ狭苦しかったであろう。今は、のびのびとしているように見えた。
「おはよう、ニュージャージー。今日の天気は曇り。一日どんよりした気分になりそうだけど、今日は何の日?そう、今夜はハロウィンだ。今夜、悪ガキたちにいたずらされたくなかったら、お菓子を用意して家で待ってな!」
そうだ!今日はハロウィン。だったら、この防護服で外に出ても、そこまで問題はないのでは?
「そういえば、昨日の宇宙人騒ぎは大変だったなぁ。結局宇宙人なんてのは、嘘だったって政府は言っているみたいだけど、昨夜、エイリアンを見たっていう目撃情報は後を絶たない。こりゃまた、新しい都市伝説が生まれちまったかもしれないぞ?!」
それにしてもこのラジオ、ローカルとはいえ、ずいぶんラフな雰囲気だなぁ。まるで学校生徒がやってる校内ラジオみたいなノリだった。
「ごめん、息子君。もう一回防護服を着てくれないかなぁ?」
息子君は渋い顔をしていた。
それから、防護服を着た息子君を連れて、ニュージャージーの街に繰り出した。果たして夜が明けたニュージャージーの小さな町は一体どんなことになっているのだろうか?
そう思っていたが、特に変わったところはなかった。なんなら、前よりきれいになっているのではないかと思うくらいに、昨夜の死闘の痕跡は、跡形もなく消えていた。
いや、もしかしたら、消されていたというべきかもしれない。
むしろ、息子君の防護服の方が、昨日の痕跡みたいな空気なってしまった。どうやら、ハロウィンの本番は夜で、朝は普通の格好している人しかいない。
まぁただ、気が早い変わり者くらいのテンションで見られていただけ、ハロウィンの恩恵を受けることができたと言える。
俺は息子君に服を買い、朝ご飯を食べさせることにした。だが、初めての海外で、過去のアメリカという難易度SSを攻略するには、明らかに知識不足だった。
しかも、息子君は何が何でも、カニが食べたいというではないか。
結果、息子君に買い与えた、だぼだぼの服に、今度必ずカニを食べさせるという固い約束が、今回の戦利品になった。
すると息子君は、そのだぼだぼの服の大きさに、あろうことか公衆の面前で、体の大きさを合わせるというとんでもないことをしでかした。
幸いあまり見られていないだろうが、一瞬にして小太りになった少年なんて見られたら、ケイの犠牲が無駄になってしまう。
「そろそろ、カイと合流しないとだな。」
息子君の顔が少し曇った。とは言っても、カイとの連絡手段なんてない。かといって、モーテルの場所もカイは知らないだろうし。
・・・。
やばいかもしれない。
ハロウィンに投稿したかったですね。
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