メッセージ
現在の時刻は、夜0時を5分ほど過ぎたところ。こんな真夜中にもかかわらず、今日のニュージャージーは不安と恐怖に支配されている。
町外れの雑木林付近には、いよいよ軍の車と装甲車しか視界に入ってこなかった。今までよりも一段と強いサーチライトが当たりを照らし、正確なシールドの位置は、いよいよ地球人にまで暴かれてしまった。
「メッセージを再生します。」
周りの景色が揺らいでまもなく、ケイの息子の防護服の無機質な電子音がそう告げた。すると、息子のお腹のあたりにケイのホログラム映像が現れた。
我々は予期せぬサプライズに、ケイのホログラム映像が何を言い出すのか、注目した。
「やぁ。これが流れているということは、無事に抗体を息子に摂取することができたみたいだね。」
ケイは、よろよろとよろめき、辛そうな咳を交えながら話していた。多分あの町中を飛び回りながら、ラジオの電波塔を目指していた時に、撮っていたのだろう。
「抗体の中にはコロナウィルスを混ぜてある。だから、すぐに息子は良くなるはずだ。だが、妻に・・・謝らなければいけないことがある。」
奥さんはゆっくりと、ホログラムの映像を見た。
「何?」
届かぬ過去の旦那に語りかけた。
「この星の病原体はあまりに強すぎた。君の分も作るとなると、二人とも中途半端な抗体にしかならない。だから、君には少しでも自力で抗体を作れるように、薬は投与しているが・・・。だが、息子を救うためだと思って許して欲しい。」
奥さんは、何度も頷いていた。僕はこのホログラム映像を最後まで見れる自信がない。
「それにカイ。僕の意思を尊重し、実行してくれて本当に感謝している。君との出会いは、遠い昔だ。それはそれはいろんなことを共に学び、共に語りそして共に経験してきた。君との思い出は数知れない。」
カイは、まっすぐとホログラム映像を見ている。
「こうなったのは、君のせいではない。どうか自分を責めないでくれ。やつ・・・。ゲルダファの方が一歩上だったというだけのことだ。奴が、ATシールドの弱点を把握していた時点で、こうなることは決まっていたのかもしれない。」
カイは何も反応しない。
「だから、僕は奴の一歩上を行く。奴は、僕が自分自身を犠牲にする度胸はないと思っているに違いない。だからこそ、この作戦は成功するはずだ。だが、それには最後に君の力を借りなければいけない。最後のわがままを聞いてはくれないか?」
その時、再び周りの景色が歪んだ。すると、一斉に光量最大のサーチライトが、ケイを乗せた船を照らし始めた。
「まずい!」
このままここにいたら、我々まで巻き添いを喰らうかもしれない。しかし、カイは微動だに動かず、友人の依頼に耳を傾けていた。
「心配するな。こいつは馬鹿じゃない。愚かだけどな・・・。」
すると、地球人からの攻撃が始まり、無防備の船にもろ直撃した。だが、爆音に対して、衝撃がこちらに襲いかかってくることはなかった。
すると、ホログラムケイが話しを続けた。
「気づいているかも知れないが、今、息子から半径3メートルの範囲に、ATシールドを張っている。小規模だが、事が終わるまでは、ここに身を隠していられるだろう。」
もう一発大きな爆発音が鳴り響いた。船が大きな音を立てて今にも倒れそうになっている。
「ATシールドは船と一緒に破壊されるはずだ。それはこれからゲルダファがやろうとしている計画には、かなりの痛手になるはずだ。だがATシールドは完全にこの世から消えるわけじゃない。つまり、今張られているこのATシールドが、この世の最後のものになる。だから・・・。」
すると、今度はさらに激しい爆発と共に、あたりが一瞬だけ、昼間のような明るさになり、ケイの船は文字通り木っ端微塵に吹き飛んでしまった。
カイ以外は、吹き飛ばされた船を、ただ茫然と眺めていた。
だが、カイはまだホログラムをじっと見つめている。
「このシールドだけは守って欲しい。」
予想外の要求に、再びホログラムへ視線を戻してしまった。
「そして、このシールドを息子に託して欲しい。この子は僕よりも賢い。それに僕のノウハウは全て息子に託した。病気が治ったら、この装置を息子に渡すだけでいい。あとは息子がうまくやるはずだ。」
本当にこの家族は、全て覚悟の上で準備をしていたのだろう。これだけの技術者となれば、こうやっていろんなところから狙われるからだ。
木っ端微塵になった船は、もはや真っ黒のただの鉄の塊のようになっていた。そして、軍はこの辺りの調査をすることなく、撤収していった。恐らく、ここまでの執着と攻撃性はゲルダファの洗脳が原因だったようだ。
自分の作戦の逆をつかれてしまい、奴もさぞかしご立腹だろう。それが唯一の救いかもしれない。
「そして君たちに警告する。今回の僕の作戦はただの時間稼ぎにしかならないだろう。奴は何らかの手を使って、この星を取り戻す。」
何とも報われない警告だ。
ホログラムの奥は、かなり悲惨なことになっていそうだ。確かに、あの時はとんでもなく、揺れていた。
「そして最後に初めましての君。ミスターブルーズだったかな?いかにもだな。」
まさか自分が語りかけられるとは思っておらず、変な声が出てしまった。
「君には本当に感謝しきれない。君がいなければ、息子を救うことはできなかったし、この作戦は成功できなかった。」
少し照れた。まだ、メッセージは続いた。
「君は近いうちに、過去を清算するチャンスが巡ってくるかもしれない。だが、これだけは忘れないでほしい。過去は過去だ。変えることはできない。」
一体なんの話をしているのか、今のところはまだわからない。
すると、恐らくスイングをした時なのだろう。映像が左右に大きく揺れだした。そして、ケイはさらに鋭い目つきに変わった。
「君のそのあざはただのあざじゃない。それは・・・。」
だが、最後まで言い切らず、ホログラムの再生は終わってしまった。
「全部お前が持っていったな。」
なぜケイはあざのことを知っていたのか?




