ビート
乗り物の中は、相変わらずジャズミュージックがビートを刻んでいる。
「ATシールドを貼り直さないと!」
外の様子は、またもや大混乱だ。恐らく、ついさっきまで、地元の警察が総出で住人たちを落ち着かせていたであろうことを考えると、申し訳ない気持ちで溢れたが、こちらも悪気があるわけではない。
なんなら我々の一刻も早く、彼らの視界から消えてあげたいのは山々だ。
だがしかし、いつまで経っても、我々は人々に対して恐怖心を植え付けることをやめられないでいた。
「どうしたんだよ?」
カイは、メガホンレーザーを操作盤に当てながら、首を傾げていた。
「わからん。さっきからATシールドが、作動しないんだよ。」
「作動しないってなんで?」
「分からない。でもこの感じだとどうやらあの時も、ATシールドを破ったのは、僕じゃなくて、偶然的に別の要因が働いたからみたいだ。」
恐らく、我々が初めてこの時代で、この船を見た時のことを言っているのだろう。
あの時は確かに、カイがメガホンレーザーを何もない空間へ向けたら、ケイたちの船が現れた。
「でも、それをまた直したのもカイじゃなかったっけ?」
ケイにそう依頼されて、カイは確かに返事をしていた。
「僕もそう思っていたが、結局、軍隊やらIGTOに場所がバレるしまだ。というこちは、あの時、僕が直したと思っていたときから、ATシールドがちゃんと作動せず、剥き出しのままだったという事になる。」
確かに、結局もう一回作動させたら、ATシールドは何事もなかったかのように、またこの乗り物を包み、姿を暗ますことができた。
「ということは、このATシールドには、もう一つ何かの欠陥があるに違いない。僕が、メガホンレーザーを使ったあの瞬間の何かが・・・。」
何か原因を考えなければいけない。だが、そもそもこのシールド自体のリテラシーがない以上は、何もわからない。
「カイは、このATシールドをメガホンレーザーでどうしていたんだ?」
「周波数をいじったんだ。」
「周波数ってラジオのか?」
となると、あの時も流れていたラジオが原因の可能性が高いはずだ。
「ああ、だが、このラジオの影響は考えにくい・・・。」
どうやら違うようだ。
外には、運悪く撤収中のFBIや装甲車と鉢合わせてしまっていた。このまま丸腰の状態なら、大砲一発当たっただけで木っ端微塵かもしれない。
「そうか!」
カイが、突然大声を上げた。
「ビートだ!」
また、何を言っているのか分からない。だが、その説明を聞いている時間もない。
「だったら、どうしたらいい?」
「この音の出所を断つ。」
「これか?」
この音自体は、ラジオの操作盤から出ている。
「ああ、だがそれでこの操作盤を壊してしまうと、もうATシールドどころか、逃げることすらできない。」
「じゃあどうするんだよ!」
「大元を断つのさ!」
カイが自信満々に宣言した。
「なるほど!電波塔か!」
そう言うと、少しの沈黙が流れた。カイはキョトン顔でこちらを見ている。
「いや僕は、ラジオ局のことを言っていたんだけど、そっちの方が犠牲が少なそうだから、それで行こう!」
恐怖で寒気がした。だがそうと決まれば、とりあえず動き出さなければならない。
「最小限の被害!了解!」
何も言ってはいないが、分かっているならよろしい。カイは、操作盤を動かし始めた。だが早速外で、車がひっくり返ったような爆音が鳴り響いていた。
「最小限は最小限。」
エイリアンも言い訳をするようだ。
我々が移動を始めると、後方からけたたましいサイレンと、真っ赤なパトランプが、我々についてきた。
だが、我々を乗せた乗り物は、逃げ惑う車を飛び越え、建物の屋根を跨ぎ、路地を転がりながら進んでいるため、すぐに追手は見えなくなった。
だが、地球人というのは、自分達でいうのも難だが、執念深く諦めが悪い。いなくなったと思ったら、前から後ろからとどこからともなく現れる。
「全くアリンコみたいだなぁ!」
「頼むから象みたいに潰さないでくれよ。」
嫌な予感がして、念を押した。
ラジオから軽快なドラムのビートが流れてきた。聴き馴染みのあるリズムに身体が勝手に踊りそうになったが、このビートのせいで、今このような状況になっている。
ベニーグッドマン楽団の名曲、「シング、シング、シング」だ。
「スィングジャズだけにスィングだぜ!」
カイはそう言うと、乗り物が空中ブランコのように、何かに足を固定させて船体を大きく揺らし始めた。もちろん、船の中のものも、同じように右へ左へとスィングしている。
恐らく、彼は病人がこの船に乗っているのを、忘れている。
「こんなに大移動してるけど、場所わかってんの?」
「今はね。だから、思いっきり飛ぶのさ!これぞ、ジャズの力さ!」
つまり、さっきまで意味もなく、移動していたということだ。
「頼むから飛ぶ時は、合図してくれよ。」
と言った1秒も待つことなく、船の中で身体が宙に浮いていた。内臓がひっくり返り、心臓が飛び出しそうな感覚が数秒続いた。
だんだん息苦しくなってくる。その時、船体にものすごい衝撃と、金属同士がぶつかった時の甲高い音が響いた。
間も無くして、再び下に叩きつけられる衝撃が、襲いかかった。
「ミッションコンプリート!」
カイのサムズアップに少しイライラした。確かに船の中にジャズの4ビートは残っていなかった。
だがもう我慢することが出来ない。胃の辺りから込み上がってくる。
「顔色大丈夫か?まさか君も病気か?」
あなたのせいです。
実は私ジャズドラムやってました。
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