咳
今日のニュージャージーの農村地帯は、とても騒がしい。ラジオでの宇宙人騒ぎから始まり、恐らく先ほどまで聞こえていた大砲の音が、住人たちの恐怖を煽っているだろう。
そういえば、偽ラジオの疑いは晴れているのだろうか?まだ、住人たちはあのラジオの内容が本当に起きている出来事だと思っているのだろうか?
もし、この宇宙人騒ぎが、アメリカ政府によって隠蔽されるようなことがあったとしても、その隠蔽を覆すにたる証拠がかなり残してしまっている。これが、SNSが発達している時代だったら、もはや隠蔽は不可能だろう。
そして今も。農村地帯の外れにある竹林では、地球のものではない、得体の知れぬ物質から発せられる音が、響き渡っている。
IGTOの船が数台、こちらに向かってきているのだ。このバリアは果たして、音まで遮断しているのかはわからない。だが、この船の動きが速ければ速いほど、あの独特の音も大きくなる。
今は、かなり爆音だ。
さっきまでバリアに向かって懲りずに大砲を撃っていた軍やFBIは、流石になんの成果も得られなかったことを、上司に報告しなければならない運命の時が訪れたようで、その場から引き上げようとしている。
だが、彼らはまもなく、その運命に抗う理由に直面するのだ。
なんと彼らの目の前に、さっきまであった黒い鉄でできた球体があろうことか数を増やして、いきなり目の前に現れたのだ。
しかも、一つを除いて、黒い球体には4本の足が生え、自らの意思で歩いているではないか。
やはり住人たちの証言は本当だった。あのラジオは本当だったのだ。
もちろん、彼らがするべきことは?そう、一斉射撃だ。独特の金属音がさらにニュージャージーの夜に響き渡る。
カイが、押したスイッチは、ATシールドを消すためのもので、そのおかげで地球人はIGTOの存在を視認することができるようになった。
IGTOたちは、さっきのケイたちのように、少し遅れて自分たちが地球人の目に触れている事に気がついたようだ。
IGTOの船は、慌てて竹林の中へと入っていく。それを今度は地球人たちも慌てて追いかける。
「それで、次はどうするんだ。」
カイが尋ねた。
「この地球に溶け込まないと。それにはこの船も捨てないだな。」
ケイはカイから操作盤を奪い取ると、何個かのボタンを押し始めた。
だが、カイの顔はまだ険しかった。
「まだ、逃げるつもりか?」
「だから、言ってるじゃないか?家族を守らないと!」
正直それを理由にしているだけに思える。
するとカイが、ケイの肩を掴んだ。
「家族だけだ。君はそうはいかない。」
ケイはカイの言葉を聞いて俯いた。確かに、カイは正しい。たとえ家族がいても、罪は罪。それを償う必要はある。だが、どうやらそういうことではないようだ。
「君は僕の手伝いをするために、一緒に来てもらう。」
カイのその言葉に、ケイの表情が、防護服越しでも、まるでひまわりの花が開いたかのように明るくなっているのがわかった。
「とりあえず、ATシールドを張ろう。」
カイはボタンを押した。
「抗体はあとどのくらいでできるんだ?」
その問いにケイは咳をしながら答えた。
「あと3時間だ。」
「つまり、3時間はこの船を捨てることができないというわけだ。ATシールドがある限り、地球人に見つかることはないだろう。だが、問題はIGTOとゲルダファだ。」
「IGTOもしばらくは大丈夫そうだけどな。」
恐らく奴らは、地球人を舐めていた。やはり、たかを括ると痛い目を見るということだ。
「ああ、奴らも戦争はしたくないだろうから、しばらくは来ないだろう。」
ケイは、また咳をした。
「問題はゲルダファだ。奴はどんな姿でどうやって来るかわからない。」
「だがやつもバンブーネットワークを使って来るのは確かだろう。」
ケイの咳が少し気になる。
「とはいえやつも、地球人だけじゃなくて、我々やIGTOにも見られたくはないはずだ。そう簡単にこちらには来ないだろう。」
ケイの咳が大きくなった。
「さっきから大丈夫か?」
「わからん。これはなんなんだ?」
「咳だ。」
カイが心配そうにケイの顔を覗き込んだ。だが、防護服のせいで何も見えない。
「咳ってなんだ?」
「体の防衛反応。特に、ウィルスとかを体外に出すための条件反射だ。」
するとケイは、急にフラフラと足から崩れるように、床に落ちてしまった。
「大丈夫か?」
「とりあえず、どこかに寝かせないと・・・。」
ケイの意識が朦朧としている。
「そこの・・・ボタンを・・・押してくれ・・・。」
ゆっくりと一つのボタンを指差している。急いでそれを押すと、さっき採血されたあの研究室みたいな部屋に、再び様変わりした。
カイと二人でケイを手術台のようなところに寝かせた。するとその手術台が、あとのことは全てやってくれるようだ。
体温、血圧、脈拍、呼吸、それだけではなく、体内の汚染物質の量など、健康に関する色々な情報がモニターに映し出されていた。
「まずいなぁ・・・。」
カイが呟いた。確かにまずい事になっている。体温が40度まで上がっている。
「エイリアンも熱って出るの。」
「当たり前だ。人間が熱出るなら、出るに決まってるだろ。」
ケイが命の危機に瀕しているせいか、なんか当たりが強い。
すると、ふと後ろから人の気配を感じる。振り返ると、ふらふらになった奥さんが、息子を抱き抱えてこっちに向かってきている途中だった。
「あなた。どうしたの?」
「それより奥さん。まずは自分の心配をしてください。」
カイはそう言うと、倒れそうな奥さんを支えて立たせた。
「私より息子が・・・。」
どうなっているんだ?どうやら一家揃って何かのウイルスに侵されてしまっているようだ。
ウイルスが一番怖い
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




