採血
真っ白い部屋。以前IGTOに連れ去られた時に乗ったあの乗り物の中と同じだ。そして、中の広さは外身の大きさに伴っていない。これもやはり一緒だ。
「あまり広くはないが、ゆっくりしてくれ。」
どこが!とツッコミを入れたいところだったが、だんだんと部屋の大きさが縮小しはじめ、周りの景色も真っ白からアメリカの中流階級ぐらいの家の食卓へと変わっていった。
真ん中には細長いテーブルと、木製の茶色い椅子が人数分並べられている。
「すごいでしょ?このシステム。まだ開発段階なんだけど、実用化までは後少しだ。」
「これ全部あなたが?」
今まで見てきた摩訶不思議で好奇心をくすぐられる技術の全ての生みの親かもしれない人物を目の前に、少し興奮気味になった。
「私たちは技術者なんだ。もちろん、この子もいずれはそうなる。」
ケイの息子は食卓に座り、ご馳走を待っているようだった。いかんせん防護服に全身が包まれているせいで、詳しい感情までは読み取れない。
「すまん、この子は今ちょうど食事のタイミングだったもんでね。」
そう言いながら三人が防護服を脱ごうとした。
「ちょっと待って!」
「ちょっと待って!」
同じタイミングで、カイも叫んでいた。
「なんですか?」
「いや・・・その・・・。」
どう説明して良いか分からなかった。だって、カイが何の理由で止めたか知らなし、彼らに風邪菌やらなんやらをうつしてしまう可能性がある話をどこまですれば良いのか分からない。
だがそうか!そう言えばいいのか!なんて頭で考えている間に、カイが全て説明してくれていた。
「だったら、体内の消毒をしないとだな!」
そんなことができるのか!という好奇心が邪魔して、カイがいなければ今頃、体のありとあらゆる細菌が死滅し、人生が終わっていたかもしれない。
「なるほど。そりゃいけないねぇ。」
「地球人は繊細なの。」
明らかにカイはバカにしていたと思う。
「でしたら、早急に彼から血液サンプルを採取して、抗体を作らなければならだな。」
するとまた、周りの風景が変化し始めた。今度は、試験管みたいなものや、実験器具がたくさんある部屋へと様変わりした。
「すまんね。善は急げと言うからな。」
息子は何も言わずに、ただ椅子に座っていた。
今まで座っていた椅子も実験室用の電気椅子みたいにゴツく、妙に広い肘置きがあるものに変わっていた。
ケイが器具の準備、ケイの奥さんが僕の準備をし始めた。椅子の高さや、肘置きの高さを調節しながら、腕の部分を探っている。
「腕の曲がるあたりのところが良いですよ。」
「ありがとう。」
カイの助言に奥さんが、答えた。
するとその付近に何かを塗り始めた。アルコールではないような気がするが、きっと消毒用の何かなのだろう。
「それで、何があったんだ?」
今その話をするか?できればケイには、血を採るまではこっちの作業に集中して欲しいのだが・・・。
とはいえ心の声が届くわけもなく・・・、いや届いていたのかもしれないが、残念ながら、ケイもカイの質問に、答えながら作業をすることを選んだようだ。
「追われてるんだよ。」
「誰に?」
「ゲルダファ。」
聞いたことがある単語が出てきた。カイの口から何度か発せられている言葉だが、カイもその単語を聞いて、驚きを隠せていなかった。
「確かなのか?」
「ああ、俺が見間違えるわけがねぇ。あれはやつだ。」
そう言いながら、よく分からない白くて卵形で手のひらサイズの装置を持ってきた。
「ちょっと痛いかも。」
それは一番聞きたくない言葉かもしれない。
「でもまたなんで?」
「知らないよ!こっちが聞きたいね!」
ケイはカイと喋っているせいで、ノールックで血液採取の装置を使い始めた。だが、肘の内側に装置が接触してから、その装置に自分の血液でいっぱいになるまで、痛みも何も感じることはなかった。
「何か心当たりはないのか?」
「心当たりしかないよ!」
二人の会話は続いている。しかしそのあと、立ち上がってもいないのに、立ちくらみみたいに頭がぐるぐると回り始めた。
「おい!こいつ大丈夫か?」
ようやくこちらに注目が集まった。
「ちょっと吸引速度が早すぎたかな?こいつの血液の成分は?」
「アルブミン、グロブリン、あとは・・・。」
「タンパク質かなんかでいいか?だったら、あの子が好きなカニがあったなぁ。」
宇宙人がカニ好き?カニってもしかして地球の生き物ではないとか?まぁ、海の生物が実は宇宙人でしたなんて話はイカやタコを筆頭によくある話だ。仮にカニもそうだと言われてもあんまり驚かないかもしれない。
「カニなんていつ食わせた?」
「食べさせてなんかないよ。ただ、あの子はこの星が大好きで、特にカニとかエビとかに興味をそそられてるみたいでな。それで、この星に降りて早速調達したってわけよ。」
「君たちはいつからここに?」
僕もそれを聞きたかった。
「結構前から?3週間ぐらい前からかな?」
ということはラジオドラマは本当に偶然だったのか?
「3週間もいて、IGTOはまだ動いてないのか?」
「IGTOは地球に逃げたことなんて知らないからさ。」
ケイの言葉に、カイの表情がまた険しくなった。
採血も終わり、ケイの奥さんは片付けをし始めた。ケイも採取した血液を別の装置に移し、何か別の作業を始めた。よくもまぁ二つのタスクを同時にミスなくこなせるものだ。
「知らないって、君たち家族はIGTOに保護されているはずだろ?」
なんかカイの話は、わかる内容が続いてちょっと嬉しい気持ちになると、一気にまたどっかへ行ってしまう。
「ああ、だが、このバリアに隠れていれば、奴らには気づかれっこないさ。と思ったが、確か欠陥があったんだったよなぁ・・・。」
カイのようにケイも言葉のドリブルをかましていた。
「ちょっと待って!なんでIGTOから逃げる必要があるんだよ。」
カイはどうにかケイの暴走を止めた。やはり、自分もドリブラーなだけに、止め方が上手い。
「カイ!IGTOには、内通者がいるんだ。」
「内通者?急に何を言い出すんだよ!」
カイは笑いながら答えた。
「カイ!頼む!信じてくれよ!」
ケイはカイにすがるように言った。
「分かった。だったら、もう少し詳しく話を聞かせてくれないか?」
カイがそういうと、さっきまであった色々な採血の装置が一気に片付き、再び食卓のような装いに変わった。
ケイの息子は、ようやく食事にありつけそうで、少しホッとしているように見える。
お腹空いてる時に客人の諸事情でおわずけにされると僕だったら発狂してるけどこの子は偉いわ
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




