孤独な世界
初めてのスクーターの旅は、順調な滑り出しだ。最初はアクセルの感覚を掴みづらかったが、何せ人がいないおかげで、多少のことでは事故なく進むことができた。
一度家に寄ったが、今は首相官邸に向けて進行中だ。もしかしたら、最初はこのスクーターの音で他にも生き残っている誰かが気づいて、接触してくるかもしれないという期待もあったが、数分走ればその期待もだんだん霞んで行った。
それどころか今は、どこか誰もいない世界を満喫している気がしていた。道路に車はないし、いきなり人が飛び出して、横断してくることもない。どんなにスピードを出しても、パトカーのサイレンが聞こえてくることもない。それを異常なことだとは思わず、ただ、スクーターで風を切るのを楽しんでいた。
だが、それも高速道路に乗れば話が変わった。料金所を通過し、本道に合流した途端、目の前には運転手を無くした車たちが、あちらこちらに置き去りにされた光景が広がっていた。しかも、そのほとんどがトラックだった。幸いそこまで大きな事故が起きた痕跡はないが、どの車もガードレールや壁にぶつかった跡や、おそらく車同士でぶつかったであろう跡も残っていた。
ということは、運転手がいなくなってから、しばらくは動いていたということか・・・。
一気に現実に引き戻された気がした。何せ都会の高速道路は入り組んではいるものの、高低差もなく、広い範囲を見渡せる。だが、少なくともここから見る景色において、動いているものを見つけることができなかった。言わば廃墟だ。
一気に孤独感が押し寄せてくる。そうするとなぜか決まってあの黒い海坊主が頭をよぎる。とはいえ世界で一人ぼっちではない。少なくともコンビニ店員のあの子は実際にいた。そして今から総理大臣に会いに行く。もしかしたら、あのテレビを見て、他にも首相官邸に誰かいるかもしれない。
スクーターは止まらない。首相官邸に向けて、大きなトラックの間を蛇のように避けながら、高速道路の道を進み、永田町という今まで全く縁がなかった日本政府の中枢にたどり着いた。彼女のスクーターのおかげで、歩いて四時間以上かかるところが、道に迷ったりなんだりしたが、一時間で辿り着くことができた。
相変わらず、下道も人っこ一人いない。いつもなら雑踏でいろんな音が聞こえていたであろうが、今は信号機の切り替わる時の鳥のような音が、寂しく鳴り響いているだけだ。誰も必要としていないのに健気に鳴り響くその音のせいで、守る必要もないのに、赤信号になる度に止まってしまった。今日は6回も引っかかった。普段からよく引っかかる方だ。
首相官邸にたどり着いたはいいが、広すぎてどこに入り口があるのかわからない。とりあえず何周か回った。しかし、人がいる気配がない。別に誰もいないし、手段を選ばなければどこからでも入れそうだが、それは果たしてして道徳的良いのか?
てか、来いっていうなら開けておいてくれよ。
とりあえず、門らしきらしきところをよじ登った。
「インターホンみたいなのはないわけ?」
そんなことを呟きながら、警備室らしき場所に侵入すると、電話機みたいなものを発見した。受話器を取ると、普通につながっていそうな電子音が受話器の中で鳴り響いていた。どうやら番号が欲しいようだ。とりあえず適当に番号を入れてみたが、拒否されたような音が返ってきた。
「どうせぇちゅうねん!」
エセ関西弁が出たところで、門の奥から物音が聞こえた。微かな音だが周りが静かすぎて、はっきりと人が発する音に間違いと確信できた。
上質な革靴が地面を蹴る音がだんだんと近づいてくる。
「やっぱり!スクーターのエンジン音が、ずっとしてたから正面で待ってたんだけど・・・。」
スーツ姿の40代前半くらいの男が現れた。
「正面って?」
「正面玄関だよ。あれ?テレビを見てくれたから来たんじゃないの?」
「はい、そうですけど・・・。」
正直、テレビで正面玄関と言っていたかは覚えていない。この言い方的に、恐らく正面玄関という明確な指示があったのかもしれないが、あの時は、首相官邸という場所がよくわからなくて、その名詞を覚えるので精一杯だった。
「まぁとにかく無事にここまでたどり着いてくれてよかった。とにかく中へ入りなさい。」
「ありがとうございます。」
もちろん彼に見覚えがあった。紛れもなく、現内閣総理大臣に首相官邸に招き入れられた。こんな貴重なことはない。手土産にシャケおにぎりとカニカマスティックとは、なかなか舐めていると我ながら思う。
「どこから来たの?」
「スクーターで一時間くらいの場所からです。」
曖昧に答えた理由はない。なんか住所を知られたくなかった。
「そうか。」
多分、悟られた。それか彼の興味は他にあったからかもしれない。
「それで・・・君だけかい?」
「ここに来たのは、僕だけです。」
「ここに来たのは?」
予想通り聞き返された。
「ということは、ほかにもいるということか?」
「はい、家の近くのコンビニの店員さんが一人。でも彼女は何かに怯えていて連れてきませんでした。」
「そっか。」
落胆している気がした。確かに、自分ももっと同じような境遇の人が他にもいるとおもっていた。何せ家の近所に二人いれば、確率的には100人以上、少なくともこの官邸内に二人ってことは無さそうだったが、どうやらその予想は外れているようだ。
「あの・・・。」
今、日本の政治のトップにさきほどからの疑問をぶつけた。
「あなたにもあざってありますか?」
総理大臣が首相官邸に一人にされたら何するんだろう?
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記念すべき第一話はこちら!https://ncode.syosetu.com/n3719ku/1




